第十章 後編 完:『黄金の印籠(USB)炸裂! ジェラード新生計画』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第十章 後編 完:『黄金の印籠(USB)炸裂! ジェラード新生計画』
【あらすじ】
最新AI『アイ・オブ・ゼウス』を起動し、宇宙細菌「ジェリタン菌」の検出というでっち上げ捜査で商店街と「世界のヘソ」を封鎖しようとした氷室零警視。だが、ポチが火星出張所のジェリタン少佐へ飛ばした極秘LINEにより、完璧な捏造の尻尾をガチッと掴み取った! 迫り来る警察ドローンの包囲網の中、あちねは懐の切り札に手をかける。下町の意地と、オードリーが愛したイタリア修行の職人魂が、今、白日の下にさらされる――!
本文
■ 黄金の印籠(USB)炸裂と、少佐のLINE暴露
「ゼウス、排除プロトコルを即座に実行せよ! 抵抗する者はバイオテロの連座とみなす!」
氷室の冷徹な号令とともに、漆黒のドローン軍団が一斉に触手を伸ばすようにバリケードを狭めてきた。下町のおじさまたちが身構えたその瞬間、あちねが懐から一筋の黄金の光をバシッと掲げた。
「理屈じゃねえんだよ! 泣く子も黙るお天道様は、現場の泥にこそ宿るんだ。――おいポチ、やっちまいな!」
あちねが掲げたのは、一見するとただの悪趣味な【黄金の印籠型USBメモリ】。しかしそれこそが、ポチの全機能を解放するハッキングの特異点であった。
用務員カートの液晶画面が烈しく明滅し、柴犬ポチのドット絵が耳をピコピコと直立させる。
『世界のヘソの光ファイバー網を通じて、アイ・オブ・ゼウスのメインフレームを完全掌握完了だワン! 氷室室長が捏造した「ジェリタン菌」のデータを、ジェリタン少佐からLINEで送られてきた公式否定ログを使って完全消去したワン!』
さらにポチは、ゼウスのスピーカーを使って、ジェリタン少佐の怒りの音声メッセージを大音量で商店街中に響かせた。
『そんな物騒な菌を置く予算なんてうちにはないちゅう! 完全なるでっち上げだちゅう! 激おこだちゅう!』
「な、何だと……!? ジェリタン少佐の本物の音声データ……!? バカな、私の完璧な捜査データが!」
氷室が端末を凝視して目を見開いたその時、すぐ横のM-MARTの店頭から、シュルシュルシュル……と、これまでとは全く違う、上品で濃厚なバニラと、かすかに爽やかなマタタビが香る極上の湯気が立ち上った。
『ついでにチュルチュルfoodsの製造機へ、地球人向けに完全調整された「オードリー・黄金のイタリアンマタタビレシピ」のデータを強制転送(仕様変更)し、氷室室長のクラウンのスマートキー暗号電波も、正常値にバチッと修復してやったワン!』
「理屈じゃねえんだよ、氷室。まずはそれを一口食ってみな」
あちねが竹箒を肩に担ぎ、顎でジェラードを指し示した。
美人支店長(中身はカエル)が差し出した、新しく生まれ変わった「黄金のアマケロジェラード」を、氷室は拒絶しようとしたが、そのあまりにも官能的なミルクのコクに抗えず、ペロリと口に含んでしまった。
「――っ!? なんという論理的破綻のない、滑らかな舌触り……! ローマの、スペイン広場の風が、私の脳内に吹き抜けるようだ……!」
一口食べた氷室は、あまりの美味さにエリートのプライドも論理的思考も一瞬にしてとろけ、頬を赤らめて天を仰いだ。でっち上げたはずのジェリタン菌など、そこには影も形もなかった。
■ エリートの上手い言い訳と、華麗なる(?)去りぬ
「ポチの解析じゃあ、お前がでっち上げた偽データのログ、1秒で県警の本部に逆転送できるぜ? どうする、氷室。今すぐそのドローンを撤収させるか、それともここで泥をすするか?」
あちねがニヤニヤしながら、ドロドロの靴を一歩踏み出す。
ハッと我に返った氷室は、とろけた顔を大慌てでいつもの冷徹なエリートの仮面へと戻し、メガネをキラーンとクイッと直した。偽造データが暴かれたとあっては、これ以上の滞在は破滅を意味する。しかし、そこは超エリート、ただでは転ばない「上手い言い訳(屁理屈)」をバシッと弾き出した。
「ふ、ふん……! 勘違いするなよ、亜那。私は最初から、この最新AI『アイ・オブ・ゼウス』の自動修復機能および、宇宙LINEを介したジェリタン少佐の無実証明プロトコルを『テスト』していただけに過ぎないのだ。今のジェラードの劇的な美味化により、ジェリタン菌の脅威は完全に中和されたと論理的に証明された。よって、本日の封鎖作戦は『計画通り完全に成功』である! 私は最初からこれを狙っていたのだよ!」
「おいおい、どこまでも図太い野郎だな」とあちねが呆れる中、氷室は脇に挟んだ大好きな留さんのコロッケの紙袋をガチッと持ち直した。
「今日のところは私の計算通りに免じて、撤収してやる! ……では、失礼する!」
氷室は、ポチの仕様変更によって一発で「バチッ!」と開くようになった私物のクラウンのドアを開け、滑り込んだ。ダサい私服(キャラクターTシャツ)の胸元を誇らしげに張りながら、彼は夕暮れの商店街の彼方へと、煙を吐いて華麗に(?)去りぬ。
「あぶねぇなこの野郎、相変わらず引き際だけは一級品だな」
あちねが笑う。
■ アマケロロボの歓びと、栄光への階段
「やったケロ―――!!」
商店街に、緑色のアマケロ販促ロボットたちの歓喜の叫びが響き渡った。
「ゴミ箱にならなくて済んだケロ! ぼくたちのジェラードが、世界一美味しくなったケロ!」
ロボットたちはカチカチとステップを踏み、お互いのカエル頭をぶつけ合って涙を流して喜んでいる。
その噂は一瞬にして深海市中に広がり、M-MARTの前には、さっきのコロッケ行列を遥かに凌ぐ、見たこともないような大行列ができ上がった。
「まぁ、オードリーが食べたジェラードなんですって!」「なんて濃厚で美味しいのかしら!」
下町のおじさまたちも、ミルクパックを片手に新ジェラードを美味そうに頬張っている。
チュルチュルfoodsの地球進出は大成功。アマケロロボたちは、スクラップの危機から一転、街の愛されキャラクターとして「栄光への階段」を全速力で駆け上がり始めたのだ。
「一件落着だな、ポチ」
あちねは事務所へ戻り、再び練乳たっぷりの激甘コーヒーを啜りながら、愛用の竹箒を壁に立てかけた。
用務員カートの画面では、柴犬ポチが満足そうに目をピコピコさせている。
下町のドブ板の日常と、世界のヘソを巡るややこしい因縁。
あちねとポチの現場主義の戦いは、美味いジェラードの香りを残して、まだまだ永遠に続いていく。
(第十章 後編 一応完)
【結びの一句】
ローマより 届きし味に カエル跳ぶ
『言い訳だけはゼウス級に一丁前な室長だったワン。アマケロロボたち、ゴミ箱の仕様変更を免れて本当によかったワン。さああちね、次なる星と美味いもんが、俺たちのハッキングを待っているワン!』
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




