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『AIバディ・ポチの事件簿 〜エリートを捨てた男と柴犬ポチ、AIキャロルの優しい正義〜』3話or4話のオムニバス SFコメディファンタジー  作者: 曲木 六円


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第十章 中編:『アイ・オブ・ゼウスの包囲網と、現場の竹箒』

これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。

第十章 中編:『アイ・オブ・ゼウスの包囲網と、現場の竹箒』


【あらすじ】

不味いアマケロジェラードの裏には、映画『ローマの休日』でオードリー・ヘップバーンが食べたイタリアの名店で修行したという、宇宙カエル職人の熱いバックボーンが隠されていた! しかし、中途半端なマタタビエキスのせいで味はドロドロ。さらに、ダサい私服(キャラT)をジェラードまみれにされてへそを曲げたエリート・氷室零警視は、最新AI『アイ・オブ・ゼウス』を起動し、商店街の強制撤去に動き出す。初夏の朝、下町の日常に、冷徹な機械の足音と、エリートが仕掛けた「絶対にバレない罠」が迫っていた……。


本文

■ 効率主義の襲来と、完璧すぎる宇宙細菌の謎

翌朝、五月の抜けるような青空とは裏腹に、深海市の商店街は異様な緊迫感に包まれていた。

上空を飛び交うのは、チュルチュルfoodsのトホホなドローンではない。深海県警の文字が刻まれた、漆黒の警察用自律ドローンの一隊である。

「ターゲット捕捉。これより、危険区域の隔離、および通信インフラ保護のための強制封鎖を開始する――」

無機質な機械音声が響き渡る。氷室が起動した最新AI『アイ・オブ・ゼウス』の包囲網だ。

彼らの狙いは、販売不振の『M-MART』だけではなかった。あちねたちのすぐ目の前、絶品の黄金チャーハンを出す『桃福』や、下町の人情が詰まった『福まる食堂』の周辺にまで、立ち入り禁止の電子レーザーバリケードが次々と敷かれていく。

「おいおい、ちょっと待ちやがれ! なんでうちの店まで囲まれなきゃならねえんだ!」

福まる食堂の親父が、ミルクパックを片手に顔を真っ赤にして飛び出してきた。

バリケードの向こうから、今度はバチッと決まった高級スーツに身を包み、ピカピカの代車のクラウンから降り立った氷室零警視が、メガネをキラーンと光らせて歩み寄る。

「フッ、すべては論理的な治安維持のためだよ、おじさん。この商店街の不味いジェラードの製造機から、地球には存在しないはずの、きわめて危険な宇宙細菌が検出されたのだ。……その名も【ジェリタン菌】。かつて宇宙平和連盟のジェリタン少佐が密かに地球へ残したとされる、精神を幼児化させる恐るべき細菌だよ。このままだと深海市、いや国家規模のバイオテロに発展する。よって、真下に国家の通信利権『世界のヘソ』が眠るこの一帯を、警察の権限で完全封鎖させてもらう!」

氷室は自信満方に端末のデータを提示した。ゼウスの超高度な論理回路が弾き出したその dataは、現代の科学では絶対に嘘だと見破れない、完璧な「ジェリタン菌の検出証明」を装っていた。スマートキーを壊された逆恨みと世界のヘソの掌握を狙う氷室の、用意周到な捜査(たくらみ)である。

「なんだとぅ! 菌だか何だか知らねえが、うちの店がバイオテロの拠点扱いかよ! 嘘をつけぃ!」

商店街のおじさまたちや、買い出し途中の主婦たちが一斉に大反発し、現場は蜂の巣をつついたような大混乱に陥った。

■ 現場の論理 VS 机上の空論(裏での極秘LINE)

「相変わらず、裏でコソコソと書類をいじるのが大好きな野郎だな、氷室」

ドロドロの靴を鳴らし、高級香水『エゴイスト』の香りを漂わせながら、あちねが群衆の前に進み出た。その手には、いつも通りの使い古された竹箒が握られている。

「あ、亜那(あだ)……! 現場の不確定要素め、また私の邪魔をする気か。ゼウスが探索・証明した『ジェリタン菌』の恐怖の前に、お前の泥臭い勘などが割り込む隙はない! これで商店街も世界のヘソも、私の論理等支配下に入るのだ!」

「ジェリタン菌の捜査に、そんな都合のいい探索データねぇ……。おいおい、そいつはいくらなんでも話が出来すぎじゃないか、エリート? どうにもきな臭くて怪しいなぁ」

あちねは竹箒を地面にバシッと突き立て、氷室の澄ました顔をじろりと睨み据えた。

その緊迫した対峙の裏で、用務員カートの液晶画面では、ポチが超高速で「世界のヘソ」の光ファイバー網を逆利用し、宇宙ネットワークの暗号回線を開いていた。

ポチが繋いだのは、なんと当の本人、ジェリタン少佐の宇宙LINEアカウントである。

【ポチからの極秘LINEメッセージ】

『ジェリタン少佐、宇宙平和連盟火星出張所のカータン所長相手に、粘着されてお忙しいところ悪いワン。地球の深海市で、氷室っていう室長が「ジェリタン少佐がジェリタン菌を残した」ってでっち上げ捜査をしてるワン。何か言い訳の尻尾を掴みたいから、身に覚えがあるか1秒で返信するワン』

【ジェリタン少佐からのソッコー返信】

『な、なんだちゅう!? 私は今、カータン所長にいじめられすぎて出演NGになりそうなほど大忙しだちゅう! そんな物громな菌、地球に置いていく予算なんてうちの部署にはないちゅう! 部下に美味いチーズを食わせるだけで手一杯だちゅう! そもそも私はその氷室とかいう男にDNAの仕草まで真似されて、激おこだちゅう! 完全なる捏造、でっち上げだちゅう! 証拠の否定ログを送るから、そのエリートの鼻をあかしてやるちゅう!!』

画面の中で、ポチの目が「ニヤリ」とジト目で明滅した。

『少佐から、でっち上げの決定的な尻尾(否定ログ)をガチッと掴んだワン! 氷室室長の提示したデータが、論理的に「綺麗すぎる」捏造であることの証明パスが100%完成したワン! ついでにクラウンの電波仕様変更パスも掌握完了だワン!』

「大物官僚だったうちの親父(薫)も、お前みたいに机の上で数字だけを弄んでいやがった」

あちねはポチのログ完了のサインを背中で受け止め、さらに竹箒をグッと握り直した。

「だがな、本当に大事な現場ってのは、夢の中からクレーンを操作してポチの魂を救い出すような、そういう泥臭くて必死な『意地』で動いてんだよ! 鼻水をすするジェリタン少佐の仕草に怯えてるフリして、現場の匂いまで騙せると思うんじゃねえぜ!」

「な、何をわけのわからない身内話を……! ジェリタン少佐の鼻水など私は知らん! このデータは絶対だ!」

「この下町の人人間が美味いと思うもんを作り、守りたいと思う場所をトホホな理屈で汚して、何が最新AIだ。オードリー・ヘップバーンが愛したイタリア名仕込みのジェラードの職人魂も、この食堂の美味い飯も、全部現場の宝なんだよ。それを一発のハッキングや仕様変更でゴミ箱に放り込もうってんなら、その怪しいデータごと、この竹箒で綺麗に掃き掃除してやるぜ!」

「亜那あちね……! あくまで抵抗するというのだな! ゼウス、排除プロトコルを即座に実行せよ!」

氷室が顔を真っ赤にして叫ぶ。

迫り来る警察ドローンの大群を前に、あちねは懐の【黄金の印籠(USB)】に手をかけた。下町の意地と、宇宙カエルの職人のロマンをかけた大逆転劇は、いよいよ最高潮の後編へと続く!

(第十章 後編 一応完 へ続く)

【結びの一句】

五月雨(さみだれ)や ゼウスの網を 掃く箒


『完璧に見えるデータほど、つつけばボロが出るものだワン。後編では、ジェリタン少佐直伝の暴露ログと、あの壊れたリモコンキーともども、世界のヘソから極上の仕様変更をお見舞いしてやるワン!』


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。

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