第八章 前編 2話:『神速の用務員と、アマケロルンバ大作戦』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
【あらすじ】
一族は政財界に名を連ねる名家。亜那あちねはエリートの座を蹴り飛ばし、自らドブ板の便利屋へと身を落とした。
相棒は、亡き愛犬の魂が宿る愛車、SAI・ポチC。
高級香水『エゴイスト』を纏いながら、脳が痺れるほどの練乳を愛し、下町の涙を拾う男。
「理屈じゃねえんだよ。……現場の意地、見せてやる!」
本文
秘密の聖域、アマケロルーム
「おいおい、こいつは想像以上にハイテクな隠れ家じゃねえか」
私立ノーベルノグチ小学校の敷地内、普段は誰も近づかない旧校舎の地下書庫。あちねは作業着の襟を緩め、首筋から『エゴイスト』の香りをふわりと漂わせながら、暗がりの空間を見渡した。
そこは、ポチのハッキング技術とアマケロ支店長の辣腕によって、一晩にして『アマケロルーム(秘密の相談室)』へと改造されていた。壁にはアマケロ星の特殊偏光シールドが張られ、外からは完全にただの空き倉庫にしか見えない仕組みだ。
「もちろんです、あちね殿。この部屋の通信はすべて暗号化され、学校のメインサーバーからは一切検知できません」
部屋の中央に置かれた大型モニターの中で、ポチのドット絵が秘密基地の司令官風に敬礼する。
「ここなら、いじめに怯えるブルジョワな子供たちも、プライドの塊のガリ勉たちも、誰の目も気にせずに本音を吐き出せます。現場のセーフティネットです」
「へっ、お堅い大人たちに筒抜けの相談窓口なんて、ガキのプライドが許さねえからな。現場に必要なのは、こういう『絶対に秘密が守られる逃げ場所』ってわけだ」
アマケロルンバ、校内を駆ける
「ですがあちね殿、部屋を作っただけでは、まだ子供たちは警戒して入ってきません。まずは校内の詳細な力関係のデータを集める必要があります。システム、アマケロルンバ型、起動!」
ポチの合図とともに、部屋の隅に配置されていたアマケロ星特製の置き型防犯ロボたちが、ガキィィンと変形を開始した。カエルをモチーフにした愛嬌のある丸いフォルムはそのままに、底部からブラシと車輪が飛び出し、地球の最新全自動お掃除ロボ――通称『アマケロルンバ型』へと姿を変えたのだ。
「ケロケロ〜」と可愛らしい電子音を鳴らしながら、数十台のアマケロルンバたちが一斉に地下書庫を飛び出し、校舎の廊下や教室へと散らばっていく。
「おいおい、あいつら本当に大丈夫なのかよ?」
心配そうに見送るあちねに、ポチが液晶画面をピコピコと光らせた。
「問題ありません。見た目はただのドタバタしたお掃除ロボですが、内蔵された超高感度マイクと集音センサーが、校内のすべての『陰口』や『脅迫の現場』をリアルタイムで盗み聞き……失礼、データ収集します」
ルンバたちは廊下のゴミを吸い取るフリをしながら、教室の隅、廊下の陰、果ては放課後の裏庭まで侵入し、ノーベルノグチ小学校に渦巻く不穏な会話を次々と記録していった。
動き出す影と、現場の意地
夕方、あちねが頭に手拭いを巻き直し、再び用務員として校庭の落ち葉を「高速の寄せ」で一網打尽にしていると、アマケロルームのポチから緊急の通信が入った。
「あちね殿、ルンバ1号および4号が、やばいデータをキャッチしました。この学校を裏で支配する『体育特待生』の軍団が、今日の放課後、依頼人の少年を体育館裏へ呼び出している模様です」
「なんだと? 動きが早えじゃねえか」
あちねは真っ赤な鼻をピクリと動かし、竹箒をバシッと地面に突いた。
「データによれば、彼らは一次試験組のブルジョワや、二次試験組のやや優秀な生徒たちから『みかじめ料』と称して小遣いを巻き上げています。先生たちも彼らのスポーツ実績に目が眩み、見て見ぬ振りをしているのが現状です」
「大人がブランド守るために現場のガキの涙を無視するってか。そいつは一番やっちゃいけねえ大人の裏切りだ」
あちねの瞳に、元警察官としての、そして現場の便利屋としての鋭い光が宿る。
心の中で(いや、オイラは探偵なんだけどなぁ……)といつものお約束を呟きつつも、その着流し風の作業着の袖を力強くまくり上げた。
「ポチ、ルンバの防犯カメラの映像をオイラのスマホに同期しな。あの体育特待生のクソガキどもに、本当の『鍛え方』ってやつを叩き込んでやるぜ!」
ルンバたちが集めた闇の全貌がいよいよ明らかに。
いじめの愚かさを諭すため、スポーツ万能の用務員あちねが、いよいよやばい体育特待生たちのクラブ活動へ殴り込みを開始する!
(第3話・中編へ続く)
【結びの一句】
春の闇 ルンバが暴く 不協和音
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




