第七章 中編 『AIバディ・ポチの事件簿 〜エリートを捨てた男と柴犬ポチ、AIキャロルのドブ板正義〜』
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第七章 中編:『ジェリタン少佐の妨害と、アマケロ変形仕様』
【あらすじ】
一族は政財界に名を連ねる名家。亜那あちねはエリートの座を蹴り飛ばし、自らドブ板の便利屋へと身を落とした。
相棒は、亡き愛犬の魂が宿る愛車、SAI・ポチC。
高級香水『エゴイスト』を纏いながら、脳が痺れるほどの練乳を愛し、下町の涙を拾う男。
「理屈じゃねえんだよ。……現場の意地、見せてやる!」
麦わら帽子と、響く不協和音
「おい、ミケ公! そこはもっとしっかりネジを締めな! クロ助、お前はこっちのパイプを支えてろ!」
マタタビ湖の畔に、あちねの威勢のいい声が響き渡る。
全面戦争の手前で固い握手を交わしたミケタン軍とクロタン軍のモフモフどもは、全員でお揃いの麦わら帽子を頭に乗せ、仲良く汗を流して『特製チュルチュルfoods工場』の建設に励んでいた。かつての戦友たちが力を合わせる現場は、まさに大調和そのものだ。
あちねは完成間近のキャットタワー型の工場を見上げ、脳が痺れるほど甘い特製練乳コーヒーを喉に流し込んだ。
「へへっ、現場が汗流して作ったモンは、やっぱり見ていて気持ちがいいや」
だが、その平和な空気を切り裂くように、湖の底から不気味な重低音が鳴り響いた。
ブウゥゥゥン……カチ、カチカチカチ!!
「あちね殿、警告です! 工場の制御メインシステムに、外部からの超高負荷な不正アクセスを検知しました!」
ポチのドット絵が、液晶画面の中で防空頭巾をかぶった緊急警戒グラフィックに切り替わり、サイレンを激しく鳴らし始めた。
チーズ型母船からの黒い影と、あの少佐
ザザァーッ!!!
マタタビ湖のエメラルドグリーンの水面を割って姿を現したのは、巨大な穴あきチーズの形をした「電子ネズミ型潜水艦」だった。
工場のホログラムモニターが突如ジャミングされ、ずる賢そうなジェリタン支社長のホログラムが映し出される。
『ちゅう、ちゅう、ちゅう! 実に素晴らしい美味そうな工場だちゅう! この工場を我が軍の知的財産として丸ごといただきに参上したちゅう!』
すると、その支社長の横から、汚れ一つない真っ白なミニチュア軍服を着たお馴染みの前線指揮官――ジェリタン少佐が、姿勢を正して眼鏡をキラーンと直しながら画面に割り込んできた。
『お久しぶりだちゅう、あちね殿。今回は本社の予算と命令により、私が現場の指揮を執らせてもらう。逆らうなら工場の全システムをハッキングで爆破するちゅう!』
「なんだと、またお前らか! この泥棒ネズミどもめ!!」
麦わら帽子の猫たちが怒りで毛を逆立てるが、工場の自動防衛システムはすでに支社長の経済テロ(ハッキング)によってガチガチにロックされ、起動すらしない。
「チクショウ、こういう冷徹なシステム犯罪は、あのお堅い眼鏡の氷室の野郎が得意な分野なんだが……!」
あちねは真っ赤な鼻をこすりながら竹箒を握りしめた。だが、今回の氷室警視は国際会議で100%出動不可能、完全にお留守番である。
「あちね殿、スマートシティ統括本部の支援はありませんが、現場には現場の論理があります!」
ポチの目が液晶の中でキラリと鋭く光った。
アマケロ仕様変更! 猫なで声電磁パルス砲
「ポチ、何か手があるんだな!?」
「はい! 氷室殿のメインサーバーをバイパスし、キャロルの処理能力をすべて防衛・迎撃へと回します。システム、仕様変更――防衛・迎撃特化モード、起動!」
ポチのドット絵が、ガキィィンと装甲を纏ったロボット犬のグラフィックへとトランスフォームする。
「さらに、この星のアマケロ軍団(防犯カメラ)の回線を逆ハッキングで乗っ取りました。あちね殿、現場の『意地』をシステムに組み込むチャンスです!」
「がってんだ! ポチ、アマケロのギミックを書き換えろ! ネズミどもの神経とメカを同時に狂わせる、特製**『猫なで声電磁パルス砲』**をブチ込んでやりな!」
「了解! ターゲット、ジェリタン軍団の潜水艦。発射ケロ!」
工場の外壁にずらりと並んだカエル型の防犯カメラが一斉に変形し、スピーカーから凄まじい音波と電磁波が放たれた。
『ゴロゴロ、ニャ〜〜〜〜ン❤️(超高周波)』
ジジジジジ!!! ズガガガガ!!!
「ち、ちゅううう!? なんだこの、背筋がゾワゾワして鳥肌が止まらなくなる気色の悪い音と電磁波はちゅう〜〜〜!!?」
潜水艦のハッキングメカが火花を散らしてショートし、モニターの向こうでジェリタン少佐もハンカチで冷や汗を拭いながら身悶えしている。
『あ、あちね殿……今日のところは、このゾワゾワに免じて一端退却してやるちゅう! 全軍、一時撤退ちゅう〜!』
電子ネズミ型潜水艦はガタガタと壊れた玩具のように煙を吹きながら、慌てて湖の底へとコソコソ逃げ帰っていった。
「へっ、ざまあみやがれ!」
あちねは竹箒をバシッと引き寄せ、フッと胸を撫で下ろした。
だが、奴らは一度引いただけだ。工場が完成するその瞬間を狙って、必ず総力戦を仕掛けてくるに違いねえ。
アマケロ星の平和と美味いおやつを守るため、便利屋あちねと戦友たちの、一番熱くて一番泥臭い最終決戦の幕が上がろうとしていた!
(第四話・後編 完へ続く)
【結びの一句】
春の湖 泥棒ネズミに 鉄槌を
後書き
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




