番外編 前編 『AIバディ・ポチの事件簿 〜エリートを捨てた男と柴犬ポチ、AIキャロルのドブ板正義〜』
【まえがき:なろう読者の皆さまへ】
某議会のお偉いさんへ痛烈な一撃!
陰惨な流血は一切なし、スカッと笑える
痛快ハッキング・コントミステリー!
――今回の見どころコマーシャル――
★【悪党の往生際】2000万で議長職を
買う強欲県議。「AIの偽動画だ!」
と大悪あがきする裏金を暴け!
★【高速後ずさり】緊迫感のなか、
中腰のまま魚のようにトトトッと
後ろへ消える、あちねの伝統ギャグ!
★【カエル砲炸裂】エリートの愛車を
蛍光ピンクの肉球マークまみれにする、
下町の拠点「アマケロ網」の逆襲!
★【7分間の大富豪】報酬をアテに
1泊12万の高級旅館へ行くも、わずか
「7分」で家出を断念したワケとは?
サクッと読めて脳が痺れる全4話。
どうぞ最後までお楽しみください!
番外編『AIバディ・ポチの事件簿』
前編「家出だ! 一泊十二万円の夢と、高すぎる裏金」
始まり、始まり。
福まる食堂、昼下がり。
テレビでは、また某県議会の釈明会見。
「記憶にございません」「秘書が勝手に
やったことで」
判で押したような言い訳が続いている。
あちねは箸を止めて、画面を睨んだ。
「やんなっちゃうなぁ……ぷるぷる……
でやんす」
隣でチャーハンを咀嚼していたポチが、
鼻を鳴らす。
「またその白目ワン。飯がまずくなる
からテレビ消すワン」
キャロルがテーブルの端から、スマホの
画面を通じて静かに応答する。
「あちね様の血圧、先ほどより3ポイン
ト上昇しています」
トメさんが、練乳と角砂糖を限界まで
ぶち込んだ激甘コーヒーを運んできた。
「はい、いつものね」
あちねは一口すすって、脳の痺れる甘さ
に少し落ち着いた顔になる。
「甘え……この甘さだけは裏切らねえ」
ポチが横から茶々を入れる。
「裏切らないのはその舌だけワン。頭の
中身は毎回裏切られてるワン」
「うるせえ、柴犬」
あちねはテレビをもう一度睨みつけた。
「毎日毎日、上の連中は言い訳して、甘
い汁だけ吸ってやがる。よし決めた。
俺は今日から悪党になる。一泊十二万の
高級旅館に泊まって、贅沢三昧してやる」
キャロルが即座に計算する。
「あちね様の所持金から算出しますと、
滞在可能時間は二十三分です」
「二十三分でも贅沢は贅沢だ!」
ポチが呆れる。
「悪党のスケールが小さすぎるワン……」
そこへ、食堂の戸がカラリと開き、寝太
郎が真っ青な顔で飛び込んできた。
「あちねさん、大変です! 桃福の親父
さんが、とんでもないものを撮っちまっ
た!」
寝太郎が机に叩きつけたスマホの画面を
覗き込む。それは昨夜、町内会の慰労会
で行った高級料亭「千代田」の、薄暗い
庭園の映像だった。
――画面の中で、酒の回った親父さんの
小さな呟きが漏れる。
『おっと……? 厠はどこだ
ぁ? 迷っちまったな……。あれ、?』
カメラがすうっと、池を挟んだ離れの
障子窓へ向く。庭の渡り廊下から遠くに
見えるは、煌々と灯る座敷の影。
『あれは……県議の腹画黒造(はらがく
ろぞう)だな……』
障子には、頭のハゲ上がった腹画県議と、
頭を下げる悪徳業者のシルエット。
パチリと障子が開いた瞬間、腹画の
濁った声が夜の庭へ筒抜けに響いた。
「これ、下町の地上げの件、よろしく頼
むよ。反対するバカどもは適当に丸め
込んどけ。ガハハ!」
「へへっ、それはもう抜かりなく。それ
と先生、例の県議会議長職のポストの、
二千万円のやりとりの件ですが……」
業者がずっしりと重そうな黒い鞄を
差し出す。
「この前約束していた件、用意してくだ
さいましたかな?」
腹画は鼻の下を伸ばし、強欲な笑みを
浮かべて鞄を受け取った。
「おお、はい! はい! これで次の議長
の椅子はワシのものだ。ガハハハ!」
『うわぁ、真っ黒けだケロ……』
なぜか料亭の庭の片隅に置かれていた
カエル型マスコット「アマケロ」の
電子音声まで、偶然動画に紛れ込んで
録音されていた。
動画はそこでブレて終わっている。
あまりの巨悪の現場に、恐怖で親父さん
が手元を狂わせたのだ。
あちねの片眉が跳ね上がった。
「その議員、福まる食堂の一帯を潰し
て、再開発の利権を貪る気です。親父
さん、怖くなって奥で震えてます」
あちねはニヤリと笑った。
「地上げに議長職の買収か、とんでもね
え悪党だな。福まるのチャーハンが食
えなくなるのは困る。それに……その
悪党を懲らしめたら、高級旅館の宿泊
券くらい、町内会の経費で落ちるよな?」
ポチが小声でつぶやく。
「正義の味方かと思ったら、やっぱり
目的はそこだワン……」
結びの一句
家出へと 旅立つ前に 空の財布
(ポチ「夢だけは一級品ワン」)




