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幽霊だと思っていたらご存命でした~心霊に興味を持った私の恋は生霊から始まる  作者: 悠日 里


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キスからデート

 男性の言葉に対してなのか、それとも抱きしめられていることに対してなのか。自分の熱と鼓動が恥ずかしいくらいに主張してくる。


「このコードはね、ハサミとか、そんなもので切れたりしないんだ。ねぇ……俺がそんなに嫌……?」

「い……嫌って言うか、その……」


 ここに居るはずのない人が居るって、すごくおかしい気がするんだもん……。


「それだけ?」

「あっ、また勝手に私の心っ」

「それだけ……?」


 普段より慎重な男性に、私はドキドキしながら頷いた。


「良かった」


 男性は安堵した声で言うと、調子を取り戻したかのように私へとキスをした。私は反射的に顎を引いたけれど、その拍子に男性の抱き留めていた腕が胸から背中へと回り、まるでエスコートでもされたかのように、男性の意図のまま身体が向き合った。


「んんっ……」


 キス。男性の抱きしめる力が強くなるほど深くなるキスに、私は立っているのがままならなくなる。でも私の腰と肩を引き寄せる男性の腕がそれを阻み、キスが何度も繰り返された。

 息継ぎに合わせて瞬きする度に互いの視線が絡むと、自分でもわかるくらい瞳に微熱を感じた。


「ほら食べなきゃ……」


 名残惜しそうに男性は言うと、テーブルの前へと座らせた私に微笑む。

 あの100%私を肯定する笑顔には、赤みがさして見えた。


「ね? いただきます?」

「……あ、あのですねっ」


 こっちはあなたの一挙一動に振り回されていたんですけれど?

 それに、なんかもっと、責められると思っていたのに……。


「へ~」

「あっ、またっ」


 心の声を聞いたな。むぅ。


「そんな顔しないで。お弁当冷めちゃうよ?」

「もう冷めてます……だって、あんなに長くキスし……って、なっ、何でもありませんっ。いただきますっ」


 血糖値スパイクなんて、なんのその。私は恥ずかしさを打ち消すように、勢いよくチャーハンを口に運んだ。


「お、美味しい~。はぁぁ~お腹空いてたぁ~……」

「はははっ。あ、ねぇそのお弁当、どこで買ったの? うちのとこ?」

「え? あーいえ、休憩が取れればそうしましたけれど……あ、でも好吃(ハオチ―)厨房って言う、うちの食品フロアにも入っている中華屋さんで買いました。改札近くにある食事が出来るお店なんですが、露店も出しているんで、今日みたいな日はお世話になっているんです」

「好吃厨房ねぇ……」

「あの……?」

「あっ、そうだ」


 男性は私の顔を眺めるのに丸めていた背中を伸ばし、はにかみながら口を開いた。

 ま、まさか。


「あーん」

「あ、あーん?」


 二人を繋ぐコードも相まって、私からのひと口を待つその姿は、まるでご主人様にしっぽを振る大型犬だった。


 ええいっ。やられてばかりじゃあ不公平だっ。


 私は意を決して特大シューマイを箸で掴み、男性へと差し出した。


「へ……?」


 口元が、実体化しているはずなのに、透けた。


「ははっ。美味しーぃ」


 そう言って食べる真似をしながら微笑む男性が、私には少しだけ悲しげに見えるのは気のせいなのだろうか。


 そんなことがあった所為か、それともコードで繋がってしまったからなのか。その後の執着が、いつもに増して酷く感じた。

 食べ終われば、スキンシップの嵐だったのだ。

 もちろんと言うか、これまでもスキンシップに来ていた印象はあったけれど、どこか必死と言うか……そんな風に感じてならなかった。

 まぁ昨日は、一緒にお風呂に入ってしまったことも要因ではあるかもしれないけれど……。


 え。だ、だって、来ないって約束したのに、勝手に入って来ちゃうんだもん。

 私は丸腰だし、向こうは人知を超えた存在だし、逃げようにも出口は1個なわけだし……さ?

 はぁぁ~……何で私、彼氏なんて出来たこともないのに、男の人とキスもお風呂も経験しちゃったんだろう……お陰で変な夢も見ちゃったし。


 もぉぉ~~っっ、私のえっちぃぃっっ!!


「あ、起きた。おはよう莉羅ちゃん」

「う……寝ても覚めても居る……って、え。莉羅……ちゃん?」

「うん……おはよ、莉羅ちゃん……?」


 ちょ、ちょっと、自分で言っておいて、はにかむのは反則です。


「ずっと呼びたかったんだ……いいよね? もうキスもしたし……お風呂だって一緒に入った仲なんだから……」


 起き抜けに男性が居るシチュエーションにも、瞳を揺らしながらじりじりと迫って来る感じに対してもけれど、男性の言葉に昨夜のことを思い出してしまった私は、思わず赤面した。


「それに、夢の中では……最後までしたし……」

「え? …………ええぇぇぇえええっっ」

「ちょっと待った、タイム」

「んっ……んん……っ」


 嘘嘘嘘と、私は混乱しながらも、唇を塞ぐようにキスをしてくるこの男性と夢を共有していたことに羞恥心を隠し切れず、ただただ絶句してしまった。


「雰囲気壊さないで……ん……、ねぇ俺の名前も……んっ……呼んで欲しい。呼んでくれないとキス、止めないよ……?」


 何て言うか、話しながらキスって、息がかかってドキドキする……。


 私は夢の出来事もあって、男性に身を全て委ねてしまいそうになる感覚へと陥った。右手にも、コードが繋がる左手にも指を絡ませるその刺激が、私の感度を過敏にしていく。


「嫌がってくれないと意味ないんですが、莉羅さん? ほら………言ってよ」


 言おうにもすごく勇気が要るし、息も整える暇がない。でも早く解放されたい気持ちも強くある。

 私は次から次へと襲ってくるキスの快楽の中、どうにか声を振り絞った。


「あ……逢……川さん……?」

「はは……すっごい嬉しいけど駄目。んっ……下の名前で呼んでよ」


 キスと恥ずかしさで、私は身を捩りながら瞳を潤ませて呟いた。


「と……桃胡さん……」


 消え入りそうな声で言った途端、真っ赤になる桃胡さんに私も熱が集まる。

 どうしよう……すごく、心の置き所に困る……。




「じゃあ行こっか」

「ほ、他の人には視えないんですよね? 私1人なんですから、不自然になるようなことはしないでくださいねっ。お願いしますよ?」

「はいはい。100回くらい聞いたから心配しないでって。さ、初デートに出発」

「あっ、もぅ。そっ、そんなにいっぱい言ってませんったら――」


 桃胡さんは私の手を取ると、ちゅっと軽くキスをしてから玄関を出た。


「いやぁデート日和のいい天気だね、莉羅ちゃんっ」


 そ、そうですねぇ、桃胡さんっ。


「うんうん。その調子、その調子」


 桃胡さんは左手の小指を立ててアピールしてくる。

 も、もぅ。人の苦労も知らないで……。


「莉羅ちゃんと水族館、まじ楽しみだけどナンパされないようにね? 元々可愛いのに、そんな格好なんだからさ。されてもおかしくない」


 まっ、またそんな軽口言って……されませんから、大丈夫ですよ。第一、桃胡さんがこのワンピースが良いって言ったんじゃないですか。


「それはだって着てるところ、見たかったからさ。すっごく似合ってる。髪型も可愛いよっ」


 も、もぅまた……。あ、でも私、1人であっちこっち出掛けるの憧れていたんですよね。


「なら都合いいじゃんっ。これからも俺と、たくさんデートしようっ」


 そんな風に、ちょっと変わった会話を続けながら、私たちが目的地へと向かっている時だった。

 前から歩いてくる人たちの中に、見知った姿があったことに気付く。


「それでさ、って、莉羅ちゃん?」


 それは、嬉しそうに目を細めながら私の左手を握る男性と同じ容姿をした人物だった。


「こ……こんにちは」


 言ってからまずったと思った。

 自分が担当する大きなフロアの中の、いちアルバイトなんか覚えているはずない。

 でも、それなら何で私、フロアマネージャーから生霊を飛ばされているんだろう……目の上のこぶ的な?


 一歩前で様子を眺めていた桃胡さんに視線を移すと、にこっと笑って手を振って応えてくれた。コードが風に煽られ舞っている。


 本当、本人と全く性格が違う。と言うか、生霊って話自体が怪しくなってきた気がする。まぁ気にしたところで答えが見つかるわけでもないし、桃胡さんの生態のことは、あとで心の中で訊いてみようかな。


「莉羅ちゃん、行こ?」

「あ。す、すみません。お気になさらず、失礼しました……」


 桃胡さんの声に我に返った私は、気まずさから目を背けるように視線を落とし、会釈の後フロアマネージャーの脇を通った。

 けれど――


「え……?」




「いらっしゃいませー。何名様ですか?」

「2名で」


 私は今、赤いコードが繋がる男性と、その本体であるフロアマネージャーとでカフェにやって来ていた。


 ――なっ、何なんです、これ!?

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