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幽霊だと思っていたらご存命でした~心霊に興味を持った私の恋は生霊から始まる  作者: 悠日 里


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5/6

へ?生霊?

「ただいまぁ……」


 玄関にルームフレグランスなんて飾ってみたけれど、良かったかもしれない。玄関の扉を開けると優しく香るにおいに、ちょっとだけ癒された私は、部屋のテーブルに買ってきたお弁当を袋ごと置いた後、洗面台へと向かう。

 とは言っても、疲れた。今日はいつもに増して疲れた。


 そんなに長くない廊下を歩く間、私が思い浮かべるのはあの男性のことばかり……。


「まいっちゃうよ……」


 仕事に慣れてきたのもあって、そこまで神経をすり減らさなくても接客が出来るようになっているけれど、あんな風に片時も離れず居続けられると正直辛い……。


 私は洗面台を横切り、先に洗濯かごにトートバッグから取り出したお店の制服のコックコートとベレー帽を入れた。それから手を洗ってうがいをする。


 何にしても、明日はバイトが無い。あの男性について悩むのは、一旦お終いにしよう。


 そう頭を切り替えたつもりだった。

 けれど、ふと鏡に映る自分と目が合ってはっとした。


「私、こんな顔してたんだ……」


 頬が赤く、目元に力が無い。瞳も潤んでいて、まるで高熱を出した時のような顔だ。


 家へ帰るまでに知らない男の人たちから何度も飲みに誘われたのは、軽く見られても仕方がないような、こんな隙だらけの顔をしていたからだろう。ドッペルゲンガーに付き纏われるのだって、きっと同じ理由だ。


 私……そういう(よこしま)な存在に付け入れられやすいのかもしれない……。


「ううん! 自己否定に走ったら、見下して来るやつらの思う壺! 馬鹿にするなっ、ふざけるなっ」


 お腹も減っているけれど、どうせお弁当は冷めちゃっているから、先にシャワーでも浴びて、身も心もリフレッシュしよう!


 多少やけくそになりながらも、目元を引っ張り腑抜け面を正した私は、鏡の中の自分から視線を外し、入浴の準備。洗濯かごに入った制服を、脱いだロンT、それからデニムスカートが覆い隠していく。

 キャミソールも脱いで、左の靴下も脱いで……そうしてどんどん素肌へと近づく内に、心の中に渦巻いている不満も再び露呈し始めた。


 接客中は無視を決めていたけれど、それでも閑散とする時間はある。それに閉店までの間、片時も離れず愛でられる身にもなって欲しい。褒められるのだって有難いけれど、延々とは無理。


 第一……私のことを思ってじゃないだろうし……。


「嫌だった?」

「え?」


 突然、男の人の声が聞こえて驚いた。

 誰も居ないはずなのに、とかどうとか言うよりも、声は自分の頭の中で聞こえた気がした。って、意味が解らないし。


「も、もうやめてよ……」


 声は自分の中から聞こえてきたくせに、私は思わず身を屈めて辺りを見渡した。

 だって声が似ている……。


「ははっ。じゃーん、ここだよ、ここ。びっくりした?」

「ひゃぁぁあっ」


 恐怖に苛まれる暇もなく現れたのは、やっぱりあの男性。フロアマネージャーのドッペルゲンガーだった。


「いいっ、今っ、私の中から出てきましたっ?」


 自分の身体の中から飛び出してきた男性に、私は慄きながらも訊いてしまう。


「うんっ」


 う、うんって、えぇ~~!?


 そう戸惑いつつも、男性に後ろからハグされてしまっていて身動きが取れない。しかも私の顔を覗き込んで笑う無邪気な男性に、不覚にもドキッとしてしまった。

 いやいや状況をっ、相手を考えなって私。


「はっ、放してくださいっ」

「……やだ」

「え」


 男性は機嫌がいいのか、私をぎゅーっと抱きしめながら左右に身体を揺らす。

 ……クールで口数の少ない、本人()とは大違いだ――



「はじめまして。今月から食品フロアを担当しています逢川桃胡(あいかわとうご)です」


 最後のお客様が帰られ、売り場が落ち着いた頃。フロアマネージャーの男性が一人、うちのお店へと挨拶に来た。

 私はドッペルゲンガーに挟まれながら対面したわけだけれど……本当、カオス。

 でも……


「と、常盤莉羅です。はじめまして……」

「朝礼にいらっしゃらなかったようなので、これ」

「名刺……ご丁寧に、あり――」

「失礼します」



 私が言い終わる前に、ぷいって。行っちゃったんだよね。

 うん……やっぱり今抱き付いているこの男性は、フロアマネージャーじゃない。私に対する態度が全然違うもん。容姿だけを真似ている偽物だ。

 私を騙して、ドッペルゲンガー本来の目的を達成するまでの暇潰しでもしているんだろう。悪趣味すぎる。


 命を奪うっていう話は眉唾物だけれど、フロアマネージャーはドッペルゲンガーを前にしても平然としていたし、きっと、ううん。確実に視えていないんだ。

 それに私が確認出来たのは2人だった。確かドッペルゲンガーって、3人目を見ると駄目だったから大丈夫、大丈夫……大丈夫だよね!?


 どどど、どうしよう。3人じゃなくて、2人の説でもあったりしたらっ。

 今日初めて挨拶交わした程度の間柄だけれど、万が一フロアマネージャーが気付いて、天へと召されてしまったら大変だもんなぁぁ……くぅぅ~っ、こうなったら私が一肌脱ぐしかない!


「面白い子。もう一肌脱いでるじゃん?」

「諭せばいいのかなぁ……へ?」


 ひゃぁぁっ。私、下着姿だったぁぁ。しかも片っぽだけ靴下履いてるとか、なんかダサいぃぃ。


「はっ、放してください! さささ擦るなぁぁ、ももも揉むなぁぁあっ」

「こんな格好を前に何もしない方が無理でしょ? と言うか、そのドッペルゲンガーって何なの?」

「しっ、知らないんですかっ? 自分と同じ見た目の人を3人見ると、えっと」

「いやいや、そういう意味じゃなくて。何で俺がドッペルゲンガーなのって話。違うからね?」

「違う……? だ、だって2人……」


 言って気が付いた。確かに今は一人だ。

 もしかしてバイト先で付き纏われた2人とは、別人ってこと?


「ううん、別人じゃないよ。多分、いくらでも増える。それか強くなる。今ここに俺しか居ないのは、統合したからだよ。もう1人と」


 と、統合って……そんなのあり~~!?


「そっ、それじゃあ一体あなたは、何者だって言うんですかっ?」

「んーそうだねぇ。あれ、じゃないかな?」


 男性は私を捕まえたまま、嬉しそうに微笑んでから言った。


()()、ってやつ」

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