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幽霊だと思っていたらご存命でした~心霊に興味を持った私の恋は生霊から始まる  作者: 悠日 里


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他人様のドッペルゲンガーを見るパターン?

 そう一度は男性の存在を認めることが出来た私だけれど、頭が混乱している。

 だって今まで私が見ていたのは、一体何だったのだろう……。


 でもきっとアルバイト中にでも、私はあの男性とすれ違ったことがあったのかもしれない。それでその時に無意識に見た、あの男性の姿を頭の中に思い描きながら、私は彼に身体を重ねていたってわけなんだ。


 気持ち悪い。

 私は自分に幻滅した。


「りらちゃんどうしたの、手が止まってるわよ。私もう帰らなくちゃいけないけど大丈夫?」

「え。ああっ、はいっ。全然大丈夫ですっ」


 私は菊花さんに気付かれまいと涙を堪えた。


「しっかりね、りらちゃん。そうそう、今日もプリン持って帰るから。また配送の人が崩しちゃったのよ」

「えっ、今日もですか?」


 頷く菊花さん越しに、冷蔵ショーケースに視線を移した。

 表面に亀裂が入った、1、2、3……5つのプレーンタイプのプリンが手前に並んでいる。


「あの、すみません。試食にも回したいんで、2つは残してもらっていいですか?」

「そうよね、試食に使うわよね。わかったわ。あと保冷剤ももらって……じゃあお先に」

「はい。お疲れ様でした~!」


 菊花さんはお店を出た後、あの男性(男前)たちにも挨拶をして帰って行ったようだ。

 私はその爛々とした声を遠くに聞きながら作業を進める。全てのスイートポテトをトースターに入れ、タイマーを回した。

 熱で温められて次第に甘い香りがしてくると、食品売り場を訪れていた人たちの視線がこちらへと集まってくる。お店の前で立ち止まる人も出て来た。


「もうじき追加でスイートポテトの方が焼き上がります! とっても美味しいですよ! 他にも北海道産の素材を使用した当店自慢のふわぷるプリン、よろしかったら試食いかがでしょうか?」


 私はすかさず行き交う人たちへ声を掛けながら、購買時に付けるスプーンで先程のひび割れてしまったプリンをすくった。それから小さなアルミカップを受け皿にして、反応してくれたお客様に手渡す。


「あら、美味しいじゃない。コクがあるのに気取ってなくて」

「はいっ、ありがとうございますっ。仰る通りで、贅沢に卵を3つ使用しているのでコクがあるんですが、生クリームではなく、牛乳を使用していますから素朴なんです。あっ、お客様もどうぞお試しくださいっ」


 スイートポテトが焼けていく香りが立ち込める中、お客様に商品を案内していると、1人また1人と試食をしてくれる。

 今はお昼時。仕上げ作業だけだから小さいけれど、調理場があるこのお店は有利だ。


「また来るわ」


 こんな風に食べたら帰ってしまうお客様も居るけれど、全然気にしない。いいのだ。きっとまたこの味を思い出して、買いに来てくれると思うから。


「じゃあスイートポテトとプレーンのプリン、2つずつ頂くわ」

「はいっ。ありがとうございます。保冷剤もお付けいたしますね。お持ち帰り時間はどのくらいになりますか?」


 私はプリンの試食を自由にしてもらうため、フードケースのスライドカバーを開けておく。使用したスプーンとカップを捨てる場所はお客様に案内済みだし、試食のすぐ隣にあるから大丈夫だろう。


 私はレジを打ち、お客様が代金をお財布から取り出している内に、次の作業に移る。

 一番小さいケーキ箱にプリンとプラスチックスプーン、それと保冷剤を1つ入れ、店名のロゴがプリントされた紙袋にはペーパーナプキンに包んだスイートポテトを入れた。

 お客様のもとに戻ると用意された代金をトレーごと運んで会計し、お釣りを渡した後、お財布にしまってもらっている間にビニール袋へと商品をまとめる。

 私は、とにかくお客様に集中した。


 余計なことは考えるな。意識しているのは私だけだぞ。そんなの、めちゃめちゃ気持ち悪いからやめろ。


「大変お待たせ致しました。どうもありがとうございます、またぜひっ。あっはい、プリン1つずつですねっ。以上でよろし――ありがとうございますっ。お客様はスイートポテト2つ? 少々お待ちくださいませっ」


 私は複数相手に接客をしながら、注文通りプレーンの他にキャラメル・抹茶・ごま味をトレーへと移し、それからレジに向かうため、お客様に振りまいた笑顔のまま振り返ると――


「一生懸命なの本当可愛い……」


 居るーーーー!?


 なぜか売り場の中に、あの男性が居た。慈しむような視線を私に注いでいる。


 えっ何で!? 入ってきてる!?


 お肉や野菜を売っている方なら開けているし理解出来るけれど、普通こういう売り場の中に、店員以外の人が入って来るだろうか。

 意味がわからなさすぎて、頭は大混乱を起こすけれど今は接客中。私は男性に謝りながら会釈して、プリンを乗せたトレーを作業台に置いた後レジ打ちを始めた。

 レジ打ち……レジ打ちをするのだけれど……何ですかこれ。男性がすぐ傍で私の頭を撫でてくれる……。


「ちょっと店員さん。私、急いでるんだけど?」

「はっ! すっ、すみませんっ。1,490円になります~」


 お客様を待たせるわけにはいかない。私はまた男性に会釈をして接客に戻った。……のだけれど。


「頑張ってるね」「可愛いよ」「俺にも笑ってほしいな」


 いくら無視しても、そんな風に男性が常に耳元で囁き、見つめてくる。

 お客様からのお叱りがいつ来るかヒヤヒヤしていたけれど、一向にない。近くにお客様が居ない時に、少しお喋りしただけでも事務所にお気持ちが届くのに、不思議すぎる。誰一人、私たちの様子を全く気にも留めていない。

 でも今、その理由がわかった。


「やった目が合った! 俺のこと見てくれたよね!?」


 そう言ったのは、さっきからずっとまとわり付いていた男性と瓜二つの男性。顔や背格好、声も同じだった。そして、冷蔵ショーケースを挟んだお客様の斜め左後方で、ぷいっと私から視線を逸らしたのも、あの男性だった。


 1人離れているが、そっくりな男性が私の近くに3人居る……。

 しかもおそらく、お客様には見えていない存在だ。


 こっ、これってつまり、ドッペルゲンガーだよね!?


 他人様のドッペルゲンガーを見るパターンがあることを、私は初めて知るのだった。

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