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幽霊だと思っていたらご存命でした~心霊に興味を持った私の恋は生霊から始まる  作者: 悠日 里


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13/15

逸る気持ち

 店長にPOPのコピーを渡し、早速お昼休憩に入る。

 さてさて、今日は何を食べようかな~。


 手取り16万6千円ちょっと。私は交際費が全くかからない上に、業務スーパーを駆使していることもあり、月5万円は貯められている。

 とは言え美容院に行ったり、お洋服を買いたい衝動に駆られる時もあるから、節約のためにお弁当を作ることは全然あるけれど、私はバイト代を減らしてでも、出来るだけこの楽しみを選びたいのだ。


 でも桃胡さんとのこともあるし、近い将来、そうも言ってられない日が来ちゃうのかなぁ……。


「お疲れ様です! 昼休憩ですか!?」


 和洋折衷選びたい放題で目移りしていると、好吃厨房の前で店員さんに声を掛けられた。私は咄嗟に笑顔を作って返事をする。


「はい。今から休憩で……お疲れ様です」


 この30代くらいのお兄さん、いつも元気いっぱいに接客されるんだよね。

 ただ……私が根明(ねあか)じゃないからだろう。


「うちのお弁当いかがっすか!? 新商品のこれとか美味いですよ!」


 この声が尖ったように張る感じや、駆け足で話が進んじゃう感じが、少し苦手だったりもする。

 しかもそのお弁当は、一昨日の夜に食べたばかりのやつだ。


 ううう。確かにそのお弁当は美味しかったけれど定価で買うと高いし、このお財布に入ったお金は貴重なバイト代だし、せっかくなら他のお店のを食べたいなぁ。


 お昼を真剣に選んでいたがために、牛歩になっていた自分を今さら悔いても遅い。……断らねば。


「えっと、ま、また今度にします」

「美味しいのに何でですかーっ、つれないっすねーっ? ならっ、これならどうっすっかね!? ちょっと小さいけど、お姉さんなら痩せてるし、ちょうどいいでしょ? いかがっすか!?」

「えぇぇ、えっとぉ……」


 ど、どうしよう。声大きいな。通り過ぎていくお客様たちが、せせら笑いをしている。哀れむような視線も恥ずかしい……。

 それに私って今、お店の制服を着てるから、ふわぷる堂の評判も落ちちゃうかもしれないよね。か、買っちゃおうかな……。


 水族館で絡まれた時とは勝手が違い、私は断れなかった。

 でもプレッシャーに負けて、私がお財布に視線を移していた時だった。


「接客に問題があります。直ちに修正してください」

「あ……フロアマネージャー……」


 フロアマネージャーが来て、間に入ってくれた。


「あと、その商品は私が購入します」

「えっ? あ、はぁ……毎度ど~も」


 指摘されてテンションが下がってしまったのか、お兄さんはそうふてくされたように言った。お弁当を粗雑に袋へと詰め込む。でもフロアマネージャーは見逃さない。


「接客に問題があります。直ちに修正してください――」




「し、失礼します……!」


 あの後、フロアマネージャーに話があるからと事務所へ呼ばれた私は、再びこの場所へと戻ってきた。静かな廊下を歩いていた緊張感も、コピーを取りに来た時とは全く別物になっていた。


 フロアマネージャーにお昼を購入してからで良いと言ってもらったから、慌てて買ってきたけど……やっぱり怒られるよね。

 それはそうだよ……さっきの私、フロアにとってマイナスだったもん……。


「先ほどは、すみませんでしたっ。自分で対応出来ず、お客様にも、売り場にも、フロアマネージャーにもご迷惑をお掛けしてしまって、大変申し訳ございません……っ」


 1人パソコン作業をしていたフロアマネージャーに、私は頭を下げながらお詫びした。すると席を立つ椅子の軋む音が聞こえてくる。


「いいえ。こちらこそ誤解させてしまったようで、申し訳ありません。謝罪をしてもらうために呼んだわけではありませんので、顔を上げてください」

「え?」


 戸惑う私の顔を見て、フロアマネージャーはほんの少し口角を上げるように口元を結んだ。


「ただ、気を付けて頂きたいことはあります」

「え」

「……食事をしながらでも聞いてください。こちらへどうぞ」


 フロアマネージャーの表情が柔らかくなったのは一瞬で、私は内心びくびく怯えながら入室を覚悟する。


「は、はぁ。ありがとうございます……失礼します……」

「休憩時間は、残りどのくらいですか?」

「ご、55分には戻りたいです」

「わかりました。まだ結構ありますね。食べましょうか」


 そう言ってフロアマネージャーは私が頷くのを確認すると、今まで座っていた椅子をこちらに向けてくれた。

 フロアマネージャーは? と思ったけれど、その後に近くのデスクから自分用に椅子を持ってきていた。フロアマネージャーのデスクを2人で使う感じのよう。

 横並びになって向かい合えば、膝同士がぶつかってしまいそうだった。


「お昼、急いで選んでしまいましたか?」

「そ……それは私の台詞です、フロアマネージャー。私の所為で、その……好きにお弁当が買えなかったのではありませんか?」


 だってフロアマネージャーが好吃厨房で買ったのは、一昨日私が食べた中華弁当の半分の量のもの。男の人にとっては少ないよね……?


「いえ。特に決めていませんでしたから、助かりました。それにこれも仕事ですから、お気遣いは要りません」

「え、仕事ですか?」

「はい。この立場にありますので、どういった商品が置いてあるのかを知っておくのも、私の仕事なんです」

「あ……」


 普段の私の楽しみが、フロアマネージャーにとってはお仕事なんだ。


「そうなんですか……。お昼ご飯もお仕事になってしまうなんて……私なんて呑気なもんですっ」


 自嘲気味に笑うと、フロアマネージャーは微かに驚いた表情をする。

 その瞳が心配の色を帯びた気がして、私は慌てて袋からお惣菜を取り出した。トマトと玉ねぎのマリネに、ポテトサラダの2つ。


「じ、実はこれ……フロアマネージャーにと思って買ってきたんですけれど……」

「え?」


 フロアマネージャーは私が並べたお惣菜を見て、私を見て瞬きをして、まじまじと私を見た。凄く驚いているように見えた。

 言葉を失うフロアマネージャーに、後悔のような気持ちが湧き上がってきて、私は取り出したばかりのお惣菜を消したくなった。


 フロアにも、フロアマネージャーにも迷惑を掛けて気が動転していたとはいえ、なんか私、凄くお節介なことしちゃったんだ……。


「す、すみません勝手に。あのっ私、ご飯食べるのが大好きなんで、これはやっぱり気にしないでくださ――」


 お惣菜を仕舞おうとしたけれど、その私の手をフロアマネージャーが引き留めた。


「嬉しいです……常盤さん………」

「……っ」


 初めてフロアマネージャーに苗字(なまえ)を呼ばれ、私の心臓はドキッと大きく跳ねる。

 不安を打ち消してくれるような温かな眼差しも、包み込むように握る手も、その全てが私の胸を焦がしていくのだった。

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