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プルゴンとかいう生命体が謎すぎる  作者: 黒弧かずちか
1章 プルゴン開示編
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10/12

手紙と叡智

 田島先輩が開いた手紙には、古いインクの匂いが微かに漂っていた。文字は丁寧で筆跡も美しいのに、どこか震えを含んだような、不安定なリズムがあった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


”お久しぶりです――といっても、数か月しか経っていないのですから、久しいという表現は適切ではないかもしれませんね。

 私と先生は、長い年月を共有し、同じ目標を胸に研究所で切磋琢磨した仲でした……少なくとも、私はそう信じています。

 ですが、おそらく先生は私のことを覚えてはいないでしょう。なぜなら、先生も、私も、そういうことになる からです。

 

 プルゴンのような意味不明な話に聞こえるでしょうが、この“そういうこと”は、私の意思ではどうにもできないのです。

 私自身、この現実をまったく受け入れられてはいません。それでも、未来のために、私はこの真実を信じ、進み続けねばならない。

 

 私は先生と同じ夢のために歩み続けます。それは、これまでと変わりません。ですが……私はもう先生に会うことはありません。

 これは覚悟のうえで選んだ道でした。後悔はありません。

 

 ――信じがたい話ですが、私は“あのジャーマン・プルゴン氏”と同じ目的を共有し、協力しています。

 100年前の偉人と、今の私が同じ時を生きているなど、笑われても仕方がないでしょう。ですが、これは紛れもない事実なのです。

 

 詳しく書けないのは、観測者 が存在するからです。

 ただ、私たちはまもなく“大きな挑戦”に臨みます。近い晩秋の頃、その結末に私たちは身を委ねることになります。

 

 本当なら、また先生と語り合いたかった……。

 私が見た“真実”を伝えたかった。

 どうか、お身体を大切に。先生の健闘を誰よりも願っています。

 

 PS. 叡智のプルゴンは存在します。

 

 親愛なる友 ■■■■■■■■


 署名の部分は黒く塗りつぶされ、誰が書いたのか判別できなかった。

 意味の分からないことばかり書かれているのに、どこかぬくもりがあり、切実で……私は胸の奥が妙にざわつくのを感じた。




「……これは、どういう意味なのでしょうか?」


 田島先輩が眉間にしわを寄せて、教授へ尋ねる。


「わかりません。」


 長谷川教授ははっきり言った。


「私は、この筆者の方とは面識がありません。同じ目標をもって切磋琢磨した覚えもない。数か月前に誰かと共同研究した記憶もないのです。」


 教授の断言には一切の迷いがなかった。


「嫌がらせ……でしょうか?」


「可能性はあります。ただ……」


 教授は手紙をそっと指で撫で、ほんのわずかに目を細めた。


「この手紙には、不思議と人を惹きつける“熱”のようなものを感じるのですよ。」




「先生。手紙にあった“先生の夢”とは?」


 私が尋ねると、教授は机に肘を乗せ、静かに語りはじめた。


「私の夢は……プルゴンの存在が証明する“何か”に辿り着くことです。とても度し難い夢ですよ。他の学者と変わりません。」


 教授は目を伏せ、そして真っすぐこちらを見た。


「しかし、私が最も追い続けてきたのは知性のプルゴン、ティーファです。数十年、私はあれの正体を解き明かすために研究を続けています。」


 そして言葉を重ねた。


「そしてもうひとつ――私はずっと“()()()()()()()”を探している。」


 部屋の空気が、わずかに張り詰めた。




「叡智の……プルゴン?」


 田島先輩が問い返す。


「幻のプルゴンですよ。知性プルゴンやティーファ以上に記録が少ない。

 二周期目以降、その存在は一度も確認されていない。」


 教授の声には小さな興奮が混ざっていた。


「叡智のプルゴンは、すべての知識を持っていたと言われています。“万物の知”そのものですよ。

 実際、100年以上前にジャーマン氏が在籍していた研究所で、その叡智から得た情報をもとに数々の検証が行われ、プルゴンの謎は大きく解明されました。」


 教授はその時代を思い浮かべるかのように目を細めた。


「ジャーマン氏が残した論文は今でもプルゴン学の基礎を支えています。

 あの時代、人類は“叡智のプルゴン”の助言を受けて研究を進めていたのかもしれない。」




「じゃあ……今回の狂乱のプルゴンも、その叡智じゃないんですか?」


「そう考えました。しかし――違う。」


 教授の声は少し沈んでいた。


「叡智のプルゴンは“記憶”を持ちます。

 しかし、あの狂乱のプルゴンには、記憶がまったくなかった。

 あれは……別の“何か”です。」




「先生、この手紙……信用できますか?」


「できません。」


 教授ははっきりと答えた。


「内容はデタラメでしょう。ジャーマン氏は100年以上前の人物です。

 しかし――この“()()()()()()()”という話だけは、私のごく親しい研究仲間しか知らないはずなのです。それだけが気がかりです。」


 教授は、深くため息をついた。


「……すみませんね。こんな取り留めのない話で時間を奪ってしまって。」


「いいえ、とても有意義でした。」


 田島先輩が一礼する。




 私たちは研究所を出た瞬間、奥の部屋からゼミ生たちのひそひそ声が漏れ聞こえた。


「また二神さんかよ……」

「出禁だったはずじゃ……」


 その毒気のある声を、教授が「まぁまぁ」となだめているのが聞こえ、胸がちくりと痛んだ。


「おまえって、どこ行っても問題を撒き散らして嫌われてるよな。」


「え~?私はかわいくて真面目な、いい子ですよ?」


 田島先輩の皮肉に、私は苦笑いするしかなかった。




 外に出ると、夕方のオレンジの陽光が大学のガラス扉に反射していた。


「……今回の事件は難解だな。」


 田島先輩が小さくつぶやく。


「月末の冊子はこの記事に差し替える。反響は大きいはずだ。

 明日から急ピッチで作業するぞ。お前は事件現場の追加調査をしておけ。」


「はーい……」


 今日一日、頭の中が情報の渦でぐるぐるしていた。

 帰ったらお風呂に浸かって寝よう……。


 そう思って歩き出したとき、田島先輩が急に思い出したように声をかけてきた。




「そういえば……お前、一ノ瀬と何かあったのか?」

今回短め。書き溜めあるので投稿ペース少し上げます!

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