お爺さんを夢で見た
この時期の静香はまさに不安定な時期です。彼女はあまりにも亮を愛しているので、亮はもしもの時に自分も生きて行けないと考えていました。そんな一方、高橋先生はまっ逆の方向に感じていて、彼女は頻繁に訴えていたら、逆に高橋先生は引いてしまいます。でも、静香の感は正しかったです。母親と子は見えない絆で繋がっているので、人一倍に敏感になっていました。だから静香は亮の偽った表面を見透かして、亮の苦しい内面が見えました。これこそ、静香をさらに苦しめました。瀕死の患者に直面しても顔色一つも変えない静香ですが、自分の息子の顔を見ると神経質になり、パーニックになりました。
その中に高橋先生のメールが来ました。
「陳様
少しメールが長くなりますので、お時間のある時にお読みくださればと思います。また、この内容は亮君にお知らせしないでいただけますでしょうか。
本日、大学の学生相談室に、亮君の今後の対応について指導教員として相談に行きました。いろいろ今までの状況なども話し、来年4月から大学院に進学すること、来年終り頃から就職の活動に入るかもしれないことなど説明しました。
相談室の担当の先生からは、現在の亮君の状況について私が話した内容から推測するに、就職活動に大学が何らかのサポートをした方がいいかもしれないこと、そして、そのためには、まずは亮君の状態について心理学的な観点からどのような状態・症状であるかを把握し、その状態・症状に応じてサポートの窓口を選択する必要がある、というアドバイスをいただきました。就職についても、心理的・精神的な面から、サポートできる部署が大学にあるということを私は初めて知りました。
また、就職にそのようなサポートが必要であるとわかったら、ご両親にも、こういう風に本人のサポートをしながら進めていきます、と言うことご理解いただき、ご家庭でのバックアップもしていただきつつ、大学では指導教員の私も状況を理解しつつ、本人の就職活動にのぞめたらいいですね、と言うことでした。
さらにですが、以上のような感じで進めるには、何よりまず亮君本人の同意が必要で、本人が前向きに取り組む気にならなければ、たとえ周囲が強く勧めても難しいでしょう、とも言われました。
従いまして、現在、指導教員として私のやるべきことは、今のゼミを続けていき、亮君の状態がさらに良くなってきたあたりで、だんだんと修士進学そしてその後の人生設計について、時間をかけて亮君と話ができるチャンスを見つけ、亮君に働きかけるつもりでいますので、お待ちいただければと思っています。
本人の周囲で、特に保護者と指導教員の間で、先回りして結論や計画を導いても、本人は納得しなければ何もならないこと、とも言われました。
長文のメールで申し訳ありません、今後もよろしくお願い申し上げます」
静香はどうしても分からなかったですが、なぜ自分と高橋先生はそんなに頑張っても、亮は一向に良くならないことですか。その数年後、静香はこの時のことを振り返ると、実は静香は完全に亮の内心が分かっていなくて、すべては逆の方向に頑張っていました、亮を助けるどころか、逆に追い詰めてしまいました。
この日仕事が終わった後、静香は散歩して家に帰ることにしました。天気が良く、気温も涼しく、歩くにはうってつけな日和でした。日本大通りに行くと、歩道で何人かの青年がテーブルを並べて、何かを募集していました。
近づいて見ると、ユニセフの募金でした。静香はじろじろ見ていると、ひとりの若い人は近づいてきて、声をかけられました。
「ユニセフのご寄付はいかがですか?」
ユニセフはテレビの上にも良くコマーシャルを見ていましたので、静香もよく知っていました。彼女は足を止めて、聞きました「どういうことですか?」
青年言いました「貧困な国の子に対する支援です、毎月わずかなお金で、子供たちに栄養がある食事が提供できます」
「お、そうですか」静香は頷きました。自分の子も現在大変困っていました、ただ幸運に高橋先生は親切に手伝っていましたので、自分もどこか困っていた子に救いの手を伸ばしたほうがいいでしょうね。
彼女はそう思いながら、ユニセフに毎月定額の寄付を申し込みました。神様、亮にご加護をお願いします。彼女は心の中に祈っていました。
その夜、彼女はお爺さんの夢を見ました。夢の中にお爺さんはいつものように微笑んでいました。「亮は病気になりましたよ」静香は悲しくお爺さんに教えました。お爺さんは何も言わず、ただ微笑んで彼女を見つめていました。
朝、静香が起きて昨夜の夢を思い出しました。なぜか彼女の心は少し軽くなりました。お爺さんもきっと亮を守ってくれています。彼女は自分に言い聞かせました。




