23話 攫われた子供達
「せ、先生!見つかりましたかっ⁈」
「ごめんなさい!まだ反応がありません」
アヤコは村の中を走りながら、失踪した子供達に必死に念話を飛ばしていた。
『皆んな!返事して!聞こえたら返事をして!』
親達が村長宅に来てから、もう二時間も過ぎている。村人全員が、村のあちこちで捜索にあたっていた。
これだけ探しても見つからないという事は、村の外に出たのかもしれない。しかし、村の唯一の入り口には守衛達がずっと見張っていた。誰も子供達の姿を見ていないらしい。
「ああっ!子供達は何処に行ったんだぁ‼︎」
「ダーン!何処だー⁉︎ダーン‼︎」
「村長が居ない、こんな時に!俺達はどうすれば良いんだ⁈」
混乱をきたす村人達は、まとまりも無く探し回る事しかできない。
「あ、あのっ!塀壁に、新たな穴が有りました‼︎」
「塀壁に穴⁈」
「以前にも見つかったんですけど、その時はアラヤ君が塞いでくれたの。でも、そことは別の穴が出来てたの!きっとそこから外に出ちゃったんじゃないかしら⁉︎」
「村の外…」
アヤコは走り出していた。あの子達はきっと泣いている。村に帰れなくなって泣いている。私が、私だけが、あの子達の心の叫びにいち早く気付く事ができる筈!
「おい、ちょっと!止まるんだ!」
守衛達の間をすり抜けて、村の外へと走り出た。
「俺が彼女を連れ戻す。お前達は、これ以上村人を出すな」
ザックスは、入り口を閉めるように指示して、直ぐに彼女の跡を追いかけた。村長の不在の時に、これ以上村人に被害が出てはならない。守衛達のこの判断は、村人達を余計に怒らせる事となった。
「おい!今すぐ扉を開けろ!」
「外に出させろ!子供達を探せないだろうが!」
「駄目だ‼︎皆んな落ち着け‼︎」
「落ち着けるか!さっさと開けろ‼︎」
もはや喧嘩になりそうな雰囲気になる中、後方に居たサナエはアヤコを探していた。
「ねぇ、アヤコを見なかった⁈」
「先生なら、さっきまで見かけたんだけど…」
「彼女は今、ザックスが連れ戻しに向かった」
「おい、それはどういう事だ!先生だけ外に出したのか⁈」
「そうよ‼︎私達も出して!あの子達を探させて‼︎」
「皆んな待てっ‼︎」
一番の大きな声で、そこに居た全員が静まった。声の主はライナスである。
「今から捜索隊を組む!各守衛達は男の大人達を五人ずつ連れて、手分けして捜索を開始しろ!それ以上の外出は禁ずる!」
彼の指示で、守衛一人一人がリーダーとなり、村外の各方位へと捜索を開始した。自分も捜索を開始しようとするライナスに、サナエは駆け寄った。
「私も参加させて!アヤが一人で出てるみたいなの!」
「駄目だ!彼女の事はザックスに任せろ!必ず連れ戻す筈だ!」
「私は戦える!たぶん、ザックスさんより頼りになるはず!だからお願い!」
「いいや駄目だ‼︎そんな戦える君には、守衛が出払うこの村を守り、アラヤを待つ役割がある!彼が帰って来るのを待つんだ」
ライナスは、アヤコを外に出さないように強引に扉を閉めた。
扉の前で残された子供達の母親や家族達は、ただ信じて待つしかなくなった。
「何でだ!何で追いつけないんだ⁉︎」
ザックスは、直ぐに追いつけると思っていたアヤコは、一向に差が縮まらないどころか、益々突き離されていく。いくら防具を付けといるとはいえ、体力では並の女性などに負けるわけがない。そう思っていたのだ。
上手くいった!アラヤ君から教えてもらっていた二つ目の無属性魔法ムーブヘイスト。いきなりの本番だったけど、この魔法があれば鈍足な私でも速く走ることができる。
俊敏の差があり過ぎるアラヤとは比べ物にはならないが、今の彼女は、オリンピックに出られる程の俊足になっているのだ。
壁に穴が開いていたのは、西側の畑群だった。だから、西側を重点的に探しに来たのだけれど、アヤコはその足を北へと向きを変えた。
不自然な沢山の足跡を見つけたのだ。それは裸足の子供が歩いたような足跡。その先にきっと子供達がいる。
足跡はやがて森の中へと続き、痕跡を見つけるのが困難になり始めた。
『皆んな!何処なの⁉︎この声に応えて!』
『せ、先生⁈何これ!狭いし、真っ暗で分からないよ!』
コールに応えた!反応は前方からきている。コールの届く距離は約200メートル。やっと追いついたのだ。
『ダン!ペトラとケティ、二人も一緒なの⁈』
『えっ⁈ペトラとケティも居るの⁈僕のここ、狭くて壁だらけだよ⁈』
アヤコは、視界にその状況を確認した。ぞろぞろと移動するゴブリン達の中に、小さな木箱を三つ運んでいるゴブリン達がいる。コールの反応もその一つからだ。
『慌てないで待ってて!必ず助けるから!』
ゴブリン達を待ち伏せしようと先回りする。アヤコは吹き筒を取り出して、長さを伸ばす。この吹き筒はアラヤによって、持ち運びがしやすいように伸縮できるように作られているのだ。小瓶を取り出して、中に収納してある毒矢を筒にセットする。
茂みの中から、向かってくるゴブリンに狙いを定め次々と矢を射る。
「ギイ⁉︎ナンダ?テキカ⁉︎」
苦しみながらバタバタと倒れる仲間達に、後続のゴブリン達が騒ぎ出す。
「ボス、マテル!オマエタチ、サキニ、イケ!」
「オレ、テキ、ムカエウツ!」
担ぎ手のゴブリン達を守るように、周りのゴブリン達が棍棒を手に持ち並んだ。
視線に入らないように、移動しては射ち、移動しては射ちを繰り返す。しかし、ゴブリン達の数は多い。しかも、ただ射たれるだけで終わる訳もなく、近くの茂みを棍棒で叩きだした。
距離を取ろうと離れる間にも、木箱を運ぶゴブリン達は進んで行く。
『先生~⁉︎』
木箱の揺れが激しくなった事で、ダンが不安になったようだ。
『待って!もう少しだから!』
視線を前に戻したその時、
「ミツケタ!」
ゴブリンが目の前に居て、棍棒を振り上げていた。
「キャァッ!」
頭を激痛が走る。生暖かいものが頬をつたい、地面にポタリと落ちた。
「ああっ…」
私、…このまま死ぬの?あの子達を助けられないまま…?
動けないまま、ニヤニヤと笑うゴブリンの手がアヤコを掴もうと伸びてくる。
『先生~‼︎』
「ああああっ‼︎」
ダンの声が聞こえた瞬間、無意識にグラビティをゴブリンに掛けて、重力で抑え込む。
「グギャギャッ⁈」
バタバタと地面で暴れるが立ち上がれないようだ。毒矢をそのままプスリと刺し、フラつきながらも再び木箱を追う。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…あそこは…⁉︎」
ゴブリン達が進む先には、見覚えのある洞窟があった。間違いない。私達の教室がある洞窟だ。
ゴブリン達が洞窟の前に来ると、洞窟の中から声が聞こえて大きな影が出てきた。
「ああっ、アイツは⁉︎あの時の…怪物‼︎」
あの時、サナエちゃんと教室に居た時にやって来た怪物。ゴブリン達よりも大きく、より人間に近い姿をしている。姿格好が、人が使用していたと思われる軽装鎧を着ている。
「おいおい、ゴブリンキングじゃないか⁉︎」
アヤコの背後から、驚く声が聞こえて振り返ると、肩で息をするザックスがいた。
「やっと追いついたと思ったら、どういう状況だよ⁈」
「子供達が!子供達があそこにいるの!」
「ええっ?マジでか⁉︎」
その声に気付いたらしく、ゴブリンキングが突然咆哮をする。
「ソコニカクレテルヤツ‼︎デテコイ‼︎」
木箱を運ぶゴブリン達に、洞窟内に入るように指示をした後、ゴブリンキングはこちらに向かってゆっくりと向かってくる。
「おい、俺達には無理だ!逃げよう!」
「ダメ…!私はあの子達を助ける!」
勝ち目の無い事が分かるザックスは、今すぐに逃げ出したかった。だが、負傷までしている彼女が逃げようとしないのに、自分だけ逃げ出すわけにはいかなかった。
「ああっ‼︎もうヤケクソだ‼︎俺がアイツの注意を引く。その隙に子供達の元に行け!」
「…はい!ありがとう!」
茂みから勢いよく飛び出したザックスは、目立つように大声を上げながらゴブリンキングの前を走り抜けた。
「うぁぁぁぁぁぁっ‼︎‼︎」
「ソイツヲ、ツカマエロ‼︎イクツカスキルヲモッテルゾ‼︎」
ゴブリン達の注意がザックスに向いた。その隙を見て、アヤコは洞窟へと一人で入っていった。




