20.西田の事情
学は渋谷が余り好きではない。人が多いことがひとつ。そして、安らのグループが良くたむろしていることがひとつ。なるべく避けて通りたいのが実情だった。
渋谷に降り立った二人は人の波を都会人らしく上手くかわしてハチ公口へ出る。繁華街に入り、どことなく西田の表情が明るくなったのが、学にとっては救いだった。
どこにでもある見慣れたファーストフード店に入る。思えば、学がこうして友人らしき人物とこういった店に入るのは人生初かも知れなかった。恐る恐るという感じで学は店内の隅に席を見つけ、二人向かい合って座った。同じ年頃の、様々な制服が目に入って来る。学は緊張を隠せない。
二人の手元には百円の飲み物とアップルパイとがある。どちらも熱くなっているので、お互いすぐには手を付けられないでいる。
「それにしても市はさ、何でわざわざ東京から横浜に通うことにしたの。こっちの方が学校いっぱいあるよな?」
学はどきりとした。余り事情は話したくない。
「もしかして」
西田が顔を近付けて覗き込んで来る。学が目をそらし耐えていると
「女子にモテたかったからか?」
……違うよ、と学は呟いた。
「俺さ」
西田は何か真剣な話を持ち出すようだった。
「前も話したけど、姉ちゃんもこの学校だったとかいう適当な理由でこの学校に入った。姉ちゃんは凄くこの学校が好きで、K大を推薦で入学して、全て順調って感じだった」
学はそろそろとコーヒーを飲み始める。まだ熱い。
「でも今さ、就活で苦しんでるんだよ。何でも局の女子アナになりたかったけど全部落ちて、今頃別の企業を狙おうとしてる。それがことごとく駄目なんだ。それで、自信家だった姉ちゃんが、夜毎日泣いてる。何だかこっちまで元気なくなっちゃうよ」
そうなんだ……と言うものの、学はひとりっ子なので余りピンと来ていない。
「そういうの見てると、俺、これからどうなるんだろうって先のことばかり不安になっちゃってさ、滅入るんだよ。このまま適当にやってたら同じ道を辿るんじゃないかって。あんま俺らしくない話だけど……」
それでずっと変だったのか。学は具体的なアドバイスは何も出来ないが、気さえ済めばいいかと思って黙って話を聞く。
「そうするとさあ、何でこの学校に入ったのか分からなくなるんだよ。大学の推薦が充実してるのもうちの学校の魅力だけど、お前や岬みたいな真面目な奴らを見てると、どうも自信がなくなった来たんだ」
真面目と言われて、面食らったのは学の方だった。
「えっ、俺全然真面目じゃないよ」
学は視線をカップに落とした。
「大学なんて……高校入ってから一度も考えたことないよ」
本当に?と西田は疑惑の視線を向けて来る。もしかしたら、自らの不遇な中学時代を話すべき時は、今なのかも知れない。学は覚悟を決めて顔を上げると、
「だってこの高校を選んだの、実は」
その時だった。
「おっ、こんなところでATMに遭遇!」
聞き覚えのある声がした。西田の背後に現れたのは、安を除くイジメ三人組だった。




