梅雨の楽しみ 1993年7月16日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1993年(平成5年)7月16日号掲載
梅雨の楽しみ
おやっ、と足を止めた。道ばたの芝生の中に、カニ足かまぼこのようなものが落ちている。長さ十五センチ、太さは一・五センチくらい。角のようにとがった先は赤く、もとの方は白い。もしかしてキツネノエフデ(狐の絵筆)という茸かも知れないな、と思っただけで行き過ぎた。
二、三日後、同じ場所でまた同じものを見かけた。キツネノエフデにまちがいない。図鑑によれば竹林にふつうとされていて、竹藪を切った後の芝生なので条件もぴったりだ。近くをよく探すと、前に見つけた方は空気の抜けた風船のようにしなびていた。今度出たら写真を撮ろうと楽しみにしていたが、何日か晴天が続き、二本ほどいじけたのが出てきただけ。雨の後でちゃんと育ったのを見つけたが、やはりぐったりと倒れていて、写真にはなりそうもない。初めて見たキツネノエフデは名前にぴったりの姿で絵のようにきれいだったが、質のもろさは予想外だった。
雨天、曇天、湿気。典型的な梅雨の気候で、ナメクジやカタツムリは大喜びに違いない。夜、水路の岸の餌場におりると、ぬれた草の間から去年生まれの大きなヒキガエルが何匹も、ぴょんぴょん、のそのそ逃げて行く。堤防の上でじっと考え込んでいるところに通りかかったら、えいっとばかりに二メートル下の岸に飛び降りた。カッコイイ、と言いたいところだが、実際はすぐ下の石垣にぶつかってごろごろころげ、すべりおち、最後はずるずる下についたようだ。それでもけろりとしているところがカエルらしくてえらい。
室内に進入してきたのは大きなクモさん。去年あたりからときどき見かけるのは足をひろげると十センチちかくあるコアシダカグモ。猫どもがなんとなく敬遠しているらしく、忘れたころひょっこりものかげから現われるので、無事に同居を続けているようだ。八センチ前後と少し小ぶりのイオウイロハシリグモの方は主に屋外にいる。大きな網をかけるオニグモと違って、どちらも糸を使わず、肉弾戦で獲物をとる実力派だ。クモ嫌いの人にはぞっとする話だが、どのクモも風格があっておもしろい。
若いウミネコたちが干潟に集まり始めた。そろそろシギの秋の渡りの第一陣が見られている。干潟を埋めつくすように一面に散った小さなチゴガニが、白いハサミをせっせと振ってダンスを続け、トビハゼがのたのたと泥の上を歩いたり、ピョンととんだり、時にはごろりと一回転しておなかを見せたりしている。
四月に用意した島の上で、五月に巣作りして卵を抱えていたセイタカシギたちは、五月二十三日にカラスに卵をとられ、その日に行徳から姿を消してしまった。それでも、東京都の中央防波堤で何組か繁殖しているらしいとのこと。夏ごろヒナを連れて戻ってきてくれることを期待している。




