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新浜だより 行徳新聞掲載再録  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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蛙が出てくる日  1993年3月26日号掲載

新浜だより(行徳新聞再録) 1993年(平成5年)3月26日号掲載


   蛙が出てくる日


「おばさん、ポリ袋ちょうだい。カエル、つかまえるの。そこにいたんだよ」

 あらあら、かわいそうなヒキガエルくん。冬眠からさめて産卵をはじめようというのに。犬、猫、カラス、バイクに車、子供たち。池までの道のりは遠い。

「カエルねえ、これから卵をうむんだよ。今つかまえちゃったらオタマジャクシがかえらないでしょ。だからそっとしておこうね]

 今年最初のおめざめは二月六日だった。春一番が吹いて気温が一挙に上がり、すぐまた寒くなるからカエルが起きなければいいのに、と心配していたら、案の定、三匹ほど出てきた。この時は雌がいなかったのか、産卵した様子はなかった。

 第二波は二月二十日。前夜は寒かったのに、玄関灯の下でじっとしているのを一匹だけ見かけた。二十二日は暖かで春めいたよいお日和。さて、夕方六時、街灯の下に三匹ほど出たな、と思っていたら、現れた友人の車が立ち往生。「十匹じゃきかないよ。まあ見てごらんよ」 ライトに照らし出された路上にいるわいるわ、十、二十、三十……観察舎前から傷病鳥舎前、管理人棟から竹やぶのあたりまでで五十匹は確実にいた。のそのそと道ばたを歩いたり、うずくまったりして、どれも生まれ故郷の餌場の池をめざしているようだ。おんぶがえるも二組ほどいた。しかし、この時も池に入ったものはわずかだった。

 第三波は二月二十七日から始まった。もうこの時分には、暖かい夜にはたいていカエルを見かけるようになっていたが、二十八日の夜、車で出かけようとしたら、見渡す限りの路上に点々とカエルが見える。「あっ、あそこ! ほら、そこも」 私がぎゃあぎゃあ騒ぎ、主人が右へ左へとハンドルを切ってカエルをよける。轢きガエルなんてまっぴらだ。この日は行徳高校前あたりまでで少なく見ても二十匹以上はいただろう。

 翌三月一日。何組かが餌場の池に入っていた。雌の方が少ないのか、期待していたほどの数ではなかった。妙にごちゃごちゃしたかたまりがいたので見ると、大きな食用ガエル(ウシガエル)の上に雄のヒキガエルが四匹も抱きついていた。顔に乗って首を絞めているのもいて、食用ガエルはにっちもさっちも行かないありさま。

 雄のヒキガエルは他の雄に乗りかかられると、コッコッコッコと大きな声を出す。それを聞いた雄は乗るのをやめる。ところが種類の違う食用ガエルにはこの「否定のサイン」が出せない。迷惑なだけならまだしも、絞め殺されてしまうものもいるとか。ヒキガエルたちを離そうとしたが、がっちり抱きついていてびくともせず、食用ガエルの無事を祈るしかなかった。

 なお、産卵をすませたヒキガエルは再び冬眠に戻り、初夏まで出てこないそうだ。池がまっ黒になるほどオタマジャクシがかえるのはいつになるだろうか。


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