禽舎の中で 1991年8月30日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1991年(平成3年)8月30日号掲載
禽舎の中で
「あっ、あっ、こらっ、だめ!」
よたよたっと飛んだスズメがプールに落ちたとたん、泳いでいたカルガモの子が食いついて水に引きずりこんだ。一、二度ふりまわしたところでうまくつかまえて取り上げたが、スズメは驚いて声も出ないありさま。まったく、もう! どうしてカルガモというのは例外なくこうまで獰猛で意地が悪いんだろうか。ぽちゃぽちゃしてかわいい顔をしてるのに。
びしょぬれのスズメをふいてかごにもどしていると、かたわらで今度はヒヨドリの子の悲鳴。コサギの箱に飛び込んだために、びっくりしたコサギがつつきかかっている。魚を突き通すほどに鋭いコサギの嘴で突かれたら、ヒヨドリなどひとたまりもない。大あわてで箱から出したが、幸い傷はなかった。威嚇しただけで本気でつつきはしなかったらしい。ショックを受けたヒヨドリははあはあと荒い息づかいをしていたが、五分もたつとどうやら気をとりなおし、餌を見せると口をあけるようになった。
今年は野鳥病院への入院患者さんが例年より二割がた多い。しっかりした救護棟ができたことや、何度か新聞などで紹介された影響が大きいのだろうが、六、七月のひどい暑さもいくらか関係があるのかもしれない。
このところ、朝から晩まで禽舎の中にすわりこみ、餌を自分で食べてくれない新入りさんたちに対して、一羽につき一日七回の強制給餌を続けている。はるか昔の授乳期、おっぱいをわが子に与える満足感はたっぷり味わったものの、授乳のために長い時間を必要とし、振り回されるというかすかないらだちがつきまとったことを思い出した。もっとも、ただひたすら鳥の口に餌をつめこんでやればよいというのは、仕事としてはいたって気楽なものかもしれない。
少しでも気持に余裕がある時は、外から熱心にのぞいているお客様に声をかけて、禽舎を中から見ていただいている。いつもお腹をすかせているヒヨドリたちが集まってきて肩に止まったり、視力障害のあるコサギが足もとに寄ってきて餌をねだる姿は、なかなか楽しい経験だと思う。
死んでゆくもの。餌や手当の不備から、あきらかに世話をしている私たちのせいで死なせてしまったもの。どうにか無事に大空へ戻してやることができたもの。なおすことができない病気や傷に苦しみながら、死ぬ瞬間までけんめいに生き続けているもの。
自分の扱う生きものが健康で満足そうにしていれば、それだけでなによりもうれしい。すばらしい仕事だな、と思うことがある。




