コアジサシくん元気でね 1991年9月20日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1991年(平成3年)9月20日号掲載
コアジサシくん元気でね
車窓右側に広大な幕張メッセの臨時駐車場が開けた。水たまりに鳥が群れている。コアジサシの白い姿があるか、ないか‥‥‥見きわめかねているうちに、水色と白の高層ビル群が見えてきて、電車は海浜幕張駅にすべりこんだ。
二羽のコアジサシの幼鳥は紙袋の中でおちついている。一羽は八月初めに九十九里の片貝海岸から帰宅した車の荷台で見つかったもの、もう一羽は八月下旬に木更津付近の道路上で雨にうたれていたもの。
コアジサシは九月中旬には日本を離れる夏鳥。飛びながら水に飛び込んで魚をねらう餌とり法はむずかしく、ヒナは飛べるようになると餌場に近い干潟や海岸に集まり、親から餌をもらいながら魚とりの練習をする。木更津からきたヒナなどまだ翼の羽も完全にのびきっていないし、親のないヒナが自力で生きるすべを身につけられるのだろうか。しかし、飛去はもうはじまっている。長く手元に置けば置くほど、生きのびるチャンスが減ってしまう。
九月四日、思い切って放鳥に出かけることにした。幕張メッセの臨時駐車場は二キロ×三百メートルもあるこうだいな埋立地だが、今年はここで数百つがいものコアジサシがヒナを育てた。仲間と会うにはここが最適だろう。
駅から三十分近く歩いて、ようやくシギが群れる水たまりの近くにたどりついた。餌のワカサギを無理にのませてから、そっと地面に置いた。二羽は目を輝かせてあたりを見まわしている。片貝のヒナは魚をさっさと吐き出して翼を広げた。そして水たまりの方へ向かって歩きだし、ちょっと小走りになってからすぐに軽々と舞い上がった。木更津のヒナは大きい魚を呑み込むのに手こずっていたが、あとを追うように飛びたった。どちらも楽々としたみごとな飛び方だ。
これ以上のことはしてやれない、これでいいんだ‥‥‥無理に自分に言い聞かせて帰路につく。他のコアジサシが見られなかったことに胸が痛んだ。ところが、後からコアジサシの声が聞こえる。振り返ると、こちらに向かって飛んでくる姿が見えた。三羽いる!よかった!
三羽のコアジサシは私の頭上を飛び、線路を越えて北に向かった。そのうち二羽はいったん戻り、もう一度私の頭上高く飛んだ。「うちの」ヒナたちであったのあどうかはわからない。
餌がとれない若鳥は生きてゆけないし、渡りなどとても無理だろう。しかし、手はつくした。最善の方法だけはとった。越冬地にたどりつく可能性だってゼロと決まったものではない。
コアジサシを放してから三日間、みごとな晴天が続いた。幸いに台風十五号の直撃も免れた。もしまだ「うちの」ヒナが生きているなら、きっともう渡りの途中に違いない。前途に幸運を。元気でね!




