オカヨシガモの謎 1991年7月26日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1991年(平成3年)7月26日号掲載
オカヨシガモの謎
六月七日の夜十時すぎ。浦安市美浜の葛南警察署から、一羽のカモのヒナが持ち込まれた。卵からかえってせいぜい一~二日。手のひらにすっぽりおさまる愛くるしい綿毛ビナだ。
カモのヒナは自力で餌をとるので、母ガモはヒナがかえるとすぐ水辺に連れてゆく。この旅はなかなかたいへんで、犬や猫、道路や人家、U字溝などに行く手を阻まれ、ヒナが親と切り離されてしまうことがある。この付近で繁殖する唯一のカモはカルガモで、観察舎でも毎年何羽か迷子のヒナが入院している。
しかし、このヒナはカルガモだろうか。様子がおかしい。大きさや色合いはカルガモのヒナにそっくりだが、まず体重が二十六グラム。かえりたてのカルガモのヒナは三〇グラム前後、二十六グラムでは餓死すれすれの線だ。それに顔つき。目を横切る小なまいきな眉線がカルガモでは二本に分かれるが、このヒナは一本。よく見ると目も小さく、嘴も心持ち細い。おまけに嘴先端が淡色のカルガモに対し、嘴中央が黒、両脇がオレンジ色というパターン。
どうもオカヨシガモのヒナらしいといことになった。オカヨシガモは北海道では普通に繁殖している種類だが、四年前に幕張埋立地でヒナが観察されたのが本州での初記録。翌年には保護区でもヒナ六羽と母鴨が見られ、以来夏に残るものがふえてきて、今年は三〇羽近くが越夏。繁殖しそうなつがいが七組以上もいた。カルガモ以外のカモのヒナを育てるのは初めてだが、図鑑と見くらべても識別の決め手に欠ける。どうしても大きく育てて、オカヨシガモという確証をつかみたい。
同時期入所のカルガモのヒナたちが見る間に大きくなるのに対し、オカヨシガモらしいチビの成長は遅く、十日もたつと体格にはっきり差がついた。しかしきかん気で、寄り添って休む時など、図体の大きな仲間の背中にのぼって、むりやりまんなかにおさまる手口はみごと。毎日の成長が楽しみだった。
ところが六月二十六日のこと、夕方五時半には確かにいたチビが六時すぎに消えてしまった。逃げ出したとは考えられない。鍵をかけておらず、人は禽舎に自由に出入りできるので、小さくてかわいいチビが誘拐された可能性が高い。まだ独立には間があるし、ちゃんと世話ができるものかどうか。大事に育ててきたヒナをさらわれて、何とも言いようのない気分だった。
七月五日の夕方、丸浜川で泳ぐ小さなカモを見つけて、あわてて双眼鏡をのぞくと、なんとオカヨシガモらしいヒナ!近くには親も兄弟もいない。色合いといい、育ち具合といい、十日前にいなくなったチビとぴったり一致する。
以来、ひとりぽっちのチビはどうにか無事に過ごしている。一緒に育ったカルガモたちに標識足環をつけて丸浜川に放した。釈然としない気持ちは残るが、終わりよければすべてよし、と思うことにした。
それにしても、いったいどうしてオカヨシガモが急にこのあたりで繁殖を始めたのだろうか。オカヨシガモをめぐる謎は当分解けそうもない。




