遠い国から(ヨーロッパコマドリ・日本初記録) 1991年1月1日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1991年(平成3年)1月1日号掲載
遠い国から(ヨーロッパコマドリ・日本初記録)
本誌ですでにご覧になったかと思うが、十一月十八日にヨーロッパコマドリ(ロビン)がバンディング(鳥類標識調査)中に捕獲され、足環をつけて放鳥された。日本初の渡来例になるかもしれないので、少しくわしく書かせていただく。
この日バンディングを行なっていたのは、日之出二十二(ソフトタウン行徳)の亀谷辰朗氏。朝の見回りから帰ってきたところで「おもしろい鳥がとれたよ。保護区初記録!」とうれしそう。「コマドリだよ」
まあ、珍しいこと。深い森の奥を好むため、声を聞いても目にする機会は少ない。水鳥ばかり追っていた私など、コマドリをちゃんと見たのは一、二度。
さて、袋から出されたコマドリくん。「案外小さいねえ。ジョウビタキと同じくらいじゃない」「へーえ、コマドリの冬羽ってまるでロビンと見分けがつかないのね」‥‥どうもおかしい。念のため図鑑を何冊かひっくり返してみると、コマドリの頭は赤褐色、この鳥は灰褐色。色合いは変わるとしても、翼や尾、脚などの測定値までコマドリよりひとまわり小さい。電話で呼び出されてとんできたバンダー仲間の原島氏は、ほんもののコマドリを何羽も標識放鳥した経験がある。
「コマドリじゃないよ。ロビンに間違いなし!」
さあたいへん。ロビンはヨーロッパでは普通種で、イギリスでは国鳥に指定されているほど親しみ深い小鳥だが、アジアにはいない。そもそもバイカル湖より東の繁殖例はなく、おまけに越冬地はアフリカで、まるっきり方向が違う。
こうした場合は、かご抜け(飼われていた鳥が逃げたもの)と考えるのがふつうだ。ところがかご飼いされた鳥は、翼や尾羽の先がすれて傷んだり、足指の裏にたこができたりする。亀谷氏によれば、糞とすり餌のまじった小鳥屋のにおいがすることもあるという。この鳥にはそうした様子が全くなく、繊細な尾羽の先端まで完ぺきだった。野生と認めるかどうかは専門家の論議を待つとして、もし野鳥であるなら、日本の記録鳥種が一種ふえることになる。
なお、このロビンは翌日も付近で再捕獲された。あるいは保護区の中で冬をすごしているかもしれない。生息地や渡りのコースとかけ離れた場所にきてしまったロビンくん、無事に帰れるのだろうか。新天地に最初の一歩をしるしたフロンティアとして元気に故郷へ戻り、また渡ってきてくれるとよいのだけれど。
ロビンのようにヒトにも翼があったなら、国境など存在しなくなるかな‥‥遠い国からやってきた力強い小さな翼に祈る。




