オナガの災難 1990年11月16日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1990年(平成2年)11月16日号掲載
オナガの災難
ギュエー、ギイーイとしめころされるような悲鳴が聞こえてきた。はっとして窓から下をみると、おなじみ野良さんの「お嬢さん猫」が、大事な大事な「うちのオナガ」をくわえているではないか。
「オナガがとられた!はやくはやく、追っかけて!」
血相を変えて、という場面のわりにはえらく落ち着き払って、どさどさと主人が猫の後を追う。猫はわめきたてるオナガをくわえたまま、すばやく逃げた。
とうとう心配が本物になった。一カ月ほど前、その日に外へ出したばかりのヒヨドリのヒナを同じ猫にさらわれて、取り戻せなかったばかり。このオナガは、翼が折れていたのを世話して回復させた方から、野外復帰を依頼されたもの。飛翔力には問題ないが、ともかく人に馴れすぎている。まず室内で十分に飛翔訓練をし、次に窓を開けて外に出し、戸外を自由に飛び回らせるといういつもの段階をきちんと踏んで、あとは自力で十分に餌をとり、外敵への警戒を覚えれば、自立可能の予定だった。あいにく野生のオナガたちにさっぱり興味を示さない上、観察舎に勝手に出入りしては、誰彼なしに肩や頭にとまって愛敬をふりまいている。はじめは人について行って誘拐されたり、よそのお宅に上がり込みはしないかと心配したが、観察舎からあまり離れないので、今度はかえってそのことが不安になった。何よりこわかったのが猫ども。中でも最悪のわが家の五匹の悪猫。
主人が戻ってきた。オナガを手にしている。
「死んじゃった?」
「いや、今のところ生きてるよ。翼はまた折れたみたいだ」
オナガは呆然自失。かごに入れて止まり木につかまらせると、頭を垂れて半分目をつぶっている。
「ギャアギャア騒ぐんで、どこにいるかわかったよ。猫が前に置いて見張ってた。くわえて逃げれば、うまくオカズにできたんだろうけれど」
ぐんにゃりしたオナガを見て、みな泣かんばかり。
翼のほかは大きな傷がなかったようで、幸い命には別状なし。ヒナから育てた鳥を野外に戻すのは、まあ賭けみたいなもので、当るも八卦、当らぬも八卦。ヒナ自身がどこかで痛い思いをして、人間に育てられたハンディを乗り切らなくてはならない。人間べったりの鳥であればあるほど、しっかりと自立してくれるまでハラハラ、ドキドキの日々が続く。
そろそろ折れた翼の保定テープをはずす時期。オナガくん、前のように自由に飛べるだろうか。運よく飛べたとしても、猫のこわさが頭に入ったのだろうか。秋も深まるというのに、育ち遅れのヒナの自立に頭の痛いこのごろである。




