渡来 渡去 1985年4月12日号掲載
新浜だより(行徳新聞再録) 1985年4月12日号掲載
渡来、渡去
春先の水辺は何となくあわただしい。冬の間は「忍」の一字で、寒風に身をさらしたままじっと休んでいたカモやカモメたちが、はるか上空を飛ぶタカの姿とか、何ということもない音や動きに敏感に反応し、一斉に舞い上がるようになる。みごとにまとまった一団となってひとしきり飛び、またもとの場所に舞いおりる様子は、いかにも渡りをひかえたウォーミングアップのようだ。中でもユリカモメの団体飛行は整然としていて人目をひくが、時に舞い上がった群れが旋回しながら高度を上げ、そのまま北へと姿を消すことがある。おそらくこれがユリカモメの渡去なのだろう。
しかし残念ながら、スズガモをはじめとするカモ類やセグロカモメといったおもだった冬鳥たちでは、こうした「渡り」の様子を見たことは一度もない。カモなどは夕方から夜出発するのだろうが、レーダーなどで追跡できたらと思わずにはいられない。
三月十八日の昼頃、自記式潮位計の用紙交換のため、観察舎前の護岸堤を自転車で通りかかると、左手のUFO島の岸に並んだくいの上から、ゴイサギが次々に飛んだ。七、八羽が舞い上がったところで、くいの頭に一羽ずつ行儀よくとまっていたゴイサギがなだれをうって飛び立ち、九十羽あまりの一群となって頭上をこえると、ご猟場の方へと向きをかえた。前日の日曜にはこんな群れは見られなかったが、この日の早朝にでも到着したものかも知れない。
毎年この時期、まとまった数のゴイサギを見る。五、六年前までは数百羽の大群が見られたが、サギがめっきり少なくなったこのごろでは、ゴイサギ九十羽というのは貴重な数だ。関東一円に散って越冬したものが帰ってきたのか、南方から渡ってきたかはわからない。三月二十五日にコサギ十七羽の一群を見たが、これも今季の最大数。
夏鳥の第一陣として、例年三月上旬に渡来するコチドリは、今年は二十三日にようやく保護区に姿を見せた。ぐずついた天候と気温に影響を受けていたのだろうか。ビウ、ビウ、ピピピピピというにぎやかなコチドリの声に遠いヒバリの歌がまじり、柳も緑にお化粧して、やっと春の実感がわいてきた。
コチドリの次はツバメ、そしてコアジサシ、オオヨシキリ‥‥‥東南アジアやニューギニアからの夏のお客たちを迎えると、すぐに冬鳥たちとお別れ。大陸へ渡去して行く前ぶれか、ツグミの集結が目立ってきた。あわただしい渡来と渡去は、桜の開花ほど人目につくものではないが、深まる春のいとなみをはっきりと味合わせてくれる。
前号でご紹介したモズ君、いまだに妻子の姿を見ない。予想通り三月六日ごろから急に忙しげに働くようになったし、十五日ごろには餌ねだりの声も聞かれているのだが、こっそりとヒナを巣立たせたのか、それとも相手のない擬装結婚だったのか、いまいち確証なし。




