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新浜だより 行徳新聞掲載再録  作者: 蓮尾純子(はすおすみこ)
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消えたスズガモ  1984年2月10日号掲載

   消えたスズガモ


 今年のスズガモの大群は、昨年と同じくさっぱり頼りにならない。二年前までのキャッチフレーズ“狩猟期間の日中なら、いつでも一望できる数万羽の大群”は、もはや過去の栄光になってしまったのかも知れない。

 十月中旬の来はじめから、十二月十日までは順調だった。夜明けとともに三~五万羽以上の大群が飛来し、夕方は三時から五時半ごろまでに飛び立って海へ出て行くというパターンが、多少のずれはあってもきちんと続き、この分なら冬中いてくれるだろうと期待していた。ところが、強い風が吹いた十一日からぱったりと入ってこなくなった。以後二十日間というもの、二万羽以上の群が時たま入ることはあっても、二日と落ちついてはくれず、新春恒例になった「初日の出とスズガモの帰還を見る会」は、前年同様の空振りかと思われた。

 十二月三十一日になって、ひさびさに四万羽近い大群が入った。そして元旦の光景は、ちょっと見られないほどのすばらしいものになった。金色の空を背景に、あとからあとから続くカモの群のみごとさ。前年の不調の影響か、参加者が二百名程度と少なかったのが残念なほどだった。

 お正月いっぱい落ちついていたスズガモは、一月十一日から再び姿を消した。間の悪いことには、その前日、朝日新聞に紹介記事が出たばかり。急増した利用者にくらべて、水面のカモが何と少ないこと。

 それからというもの、十五日と二十四日に数万羽が入った他は、連日三~五百羽前後が見られる程度になり、スズガモは保護区をすっかり見限ってしまったようだ。一月十九日の大雪のあとは、他のカモたちまでめっきり少なくなってしまい、一望できる鳥は千羽そこそこ。水面ばかりがやたらに広々として、カモメの白さが目にしみる。

 スズガモの大群が保護区に落ちついてくれない原因は、二通り考えられる。もともとスズガモは、日の出前に保護区に飛来して昼間は休息し、日没後に海へ出て餌をとるという行動パターンを十年以上も続けていた。つまり、この保護区は銃猟からの非難場兼休息所として、ベッドタウンのような役割を果たしていたわけだ。東京湾のスズガモの数そのものが減ったという証拠はないので、考えられる原因は1;銃猟による圧力の緩和 2;保護区と周辺の環境変化 の二点になる。

 十一月十五日から二月十五日までの狩猟期間中、カモたちはどこの地方でも乱場(狩猟をしてよい場所)からさっさと姿を消し、鳥獣保護区や銃猟禁止区域に集まる。全体の三分の一近くが狩猟のために命を落とす種類もあるというカモにとっては、銃声は天敵のタカやキツネよりも恐ろしいものに違いない。かつて全域が乱場だった東京湾の海上は、十年以上前から東京都側が銃猟禁止区域になり、一九七九年からは塩浜沖の約四キロほどの海域も銃猟禁止となった。塩浜沖は貝や海苔のよい漁場であり、東京湾奥部では水がもっともきれいな場所の一つとされている。漁業組合によって昨年造成された潮干狩場も、春から夏には大にぎわいだった。そんなこんなで、カモたちは採餌場になっている塩浜沖からわざわざ狭い保護区に逃げ込まなくてもよくなったのではないだろうか。

 一方、保護区に隣接した湾岸道路は、高速部分が一昨年に開通し、交通量もぐんぐん増えている。来年開通予定の国鉄京葉線の工事も進み、いつも三基以上の高いクレーンがじりじりと動いている。空き地ばかりだった塩浜にも工場や学校が建ちならぶようになり、スズガモたちが保護区を飛び立つ時には、水面から少なくとも四、五〇メートルの高度をとらなくてはならないため、直進ではなく、二回ほど反転して高度を上げるようになった。海から入ってくる時も、五〇~一〇〇メートルの高さから一八〇度の方向転換をして、ザーッと急降下してくることが多い。わざわざ入ってくるだけの魅力が保護区に残っているのだろうか。

 もっと心配なのは、塩浜沖の埋立計画である。浅く、生物が豊富で、水のきれいな塩浜沖が埋められてしまえば、餌場をなくしたカモたちは、保護区に戻ってこないだろう。“消えたスズガモ”が二度と帰らなくなった日は、行徳の海が市民からはるか彼方に去った時に違いない。もう、そんなことはごめんだ。



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