夢
また雨が降っている。
縁側の、お前と一緒に並んで座るはずだった場所。
そこから、お前が一番好きだったアジサイが見えるはずだった。
俺が好きなお茶をお前が入れてくれて、俺が「ありがとう」を言って。
そしたら、お前が俺に向かって微笑ってくれるはずだった。
そうやって、ずっと二人で生きていくはずだったのに。
いくつもの「はずだった」が目の前にちらつく。
遺骨になってしまった彼女を傍に置いて、泣いた。
自分の、執着が、彼女を、こんな目に、合わせてしまったんだろうか。
彼女にも幸せになってもらいたい、嫌なことを忘れてもらいたい、そう思っただけだったのに。
どんなに考えても、答えは出なかった。
そして、出ない答えを彼女のいない縁側で、ずっと考えていた。
「また、あの夢・・・」
最近、あのころの夢をみることが多い、溜息をついてそう思った。
「江戸」と呼ばれていた時代が「明治」になり「大正」になり「昭和」になった。
そのころ、発展してきた産業やら何やらで、住んでいた山が売られることになった。
先見の能力のある長が山の権利をもっていたため、山を売る時に、一部を自分たちの土地とし、学院と家やマンションを数件建てることを条件にしたらしい。
悟は、ひたすら籠りたかったので、箱のような「マンション」というものを選んだ。
そして、そこで、「平成」になるまで独りでいた。
ただ・・・環境が変わったのが良かったのか、家を引っ越してからはひきこもりつつも、多少、交流するようになり、やっと学校へ入学してきたのだ。
「もう恋なんてしない」そう決めた。
なのに、そのすぐ後には、入学式の日に神社であった娘に惹かれた。
冗談のように好意を伝え、本気にされず、そのまま友人になるはずだったのに。
どんどん、娘との距離が縮むのに比例して、夢をみる機会が増えている。
「紗枝・・・これは、お前の恨み言だろうか・・・?それとも、忠告だろうか?」
今は亡き妻に言うようにそうつぶやく。
暗闇は、あのころと同じで、何の返事もしなかった。




