料理教室
亀更新です。すみません。
ミナはびっくり箱だ、と悟は思う。
そして、それ以上にお人よしだと思う。
自分を差し置いて好きな人を横からかっさらった相手の不安を気にしてやったり、こうして妖を信じたり、一緒に楽しもうと思ってくれたり・・・
初めてだな、こんなやつ。
そんなことを思っていたら、ミナがためらいながら悟に言った。
「あの、さ、もしよかったら、料理、教えてくれない?」
悟の頭の中を焦げ対策が回る。
重曹とアルミたわしと洗剤、あと・・・新しい鍋とフライパンも必要だろうか。
1セットで足りるわけない・・よな? いくつ必要になるだろう。
「迷惑・・・かな?」
そう言われて、初めて、断るという選択肢を全然考えていなかったことに気がついた。
「いや、いいけど。」
「けど?」
「教えるなら、作りたい料理の載っている本を俺の分と合わせて2冊、それと、材料はお前が用意しろよ?」
「え? いいの?」
なんだかすごく嬉しそうな顔をしてミナが反応する。
「結果が俺の弁当になるからな」
そう言うと「頑張るっ」と返事が返ってきた。
「あれ? でも、どうして料理本がいるの?」
「家でも作れるように。俺のと味付けが違うときには、それを余白に書いてもらうし、一回だけで作れるようになるとは思ってないから」
そういうと、ぐぬぬ・・・とわけのわからない声を出していた。
それでも、ミナは嬉しそうに、「全部用意するっ!」と宣言したのだった。
「あー・・・これ、当分ムリ」
「えーーーーっ」
現在、ミナが買ってきた料理本について話し合い中だったりする。
『かわいいキャラ弁』
「こういうものは、一つ一つがちゃんと作れるようになってから買え」
「だって、かわいいもんっ」
「お前にやらせたら、このキャラ弁は水墨画みたいになるわっ」
「水墨画でもかわいいものはかわいいっ」
「見るだけならな・・・炭弁当になるくらいなら、ご飯に海苔のっけただけのほうがよっぽどマシだ」
とりあえず、何から・・・と考えて、「今日は野菜の切り方とゆで方にするか」とつぶやく。
ホウレンソウと枝豆をミナが持ってきた袋から取り出す。
「まず、ホウレンソウな。鍋にちょっと塩を入れると色がきれいになる・・・って、いきなり入れるな」
慌ててミナの手を抑える。
「野菜は、鍋が沸騰してから、茎から入れる。葉っぱの部分と茎じゃ、湯がくのに時間が違うんだよ。で、このくらいな。柔らかくなったな、と思ったら、出して、冷水に入れる。これがきれいな緑を保つ秘訣だ」
「ほほー。」
そう言って食べようとするのを、手を持っていた箸でたたく。
「半分残してあるから、やって見なさい!」
「はぁーい」
鍋に入れるところまではよかった。
ミナがそこからシンクの中のカゴなどを洗い始めるのを見て、「待て」と注意する。
「もう、できてるぞ。お前はどんだけ湯がくつもりだ?」
「え?もう? 早いなぁ・・・」
案の定、彼女のホウレンソウは、赤ん坊の離乳食並に柔らかい・・・というか、ぐずぐずになっていた。
「お前、今までも、ほかのことやってて焦がしてたんじゃ・・・?」
ふと思いついて聞いてみると、そのとおりだった。
・・・なんてあっけない。だが・・・
「失敗の理由がそんな簡単なことなのに、どうして繰り返されてるんだ?」
「お母さんが、『料理の上手なひとは、ひとつ作る間にほかのこともやっちゃうのよ』って言ってたから」
つい、ミナの頭をげんこつでぐりぐりとしたくなっても許されるだろう、と思う。
「痛いぃ・・・」
「『上手なひとは』な。お前、チョー初心者な。」
「うぐぅ・・・いつかは上手な人に・・・」
「・・・慣れるまででいいから、ひとつづつ、丁寧に作れ。」
「うん」
ミナは素直だった。
そして、優しかった。
「ね、この柔らかくなりすぎたホウレンソウって、何かに使えないかな? 捨てるの、かわいそう」
・・・この「かわいそう」が俺の弁当が炭だらけだった理由か・・・
そんなことも思ったが、野菜を生きているものとして見るミナの性格は好ましかった。
妖の仲間には、木や草、土などといったものから妖になったものもいたので。
玉ねぎと牛乳を出してきて、コンソメキューブと合わせてホウレンソウのポタージュスープにしてやったら喜ばれた。一生懸命、メモを取っていった。
悟が茹でたホウレンソウは、きれいに切って、鰹節とゴマを載せてお浸しとしてのもの(これが一番簡単にできる弁当メニューだろうと思ったからだが)と、冷凍のミックスベジタブルと合わせてバター炒めにするものを教えた。
ちなみに、翌日の弁当は、きれいな真っ白いごはんに、ホウレンソウのお浸しとバター炒めと卵焼きという初めての炭脱却弁当だった。




