05
「やっと終わったぁ……」
「お疲れ様」
あの感じなら赤点の心配はない、僕としても終わったことに安心していた。
いまここが学校でなければ悠里と同じようにしているところだ。
「なにか食べにいこ」
「それなら肉だな」
「私は軽く食べられるぐらいでいいわ」
ここには冬樹君だけではなく、瀬口さんがいたことも影響している。
なるべく情けないところを見せたくないのは……いやでも、別になにかしらの感情があるわけではないことは確かだ。
だからこれはあくまで年上として、そう片付けた。
「しゃーない、ファミレスで我慢するか」
「合わせるよ」
ファミレス店内にはそれなりに利用客がいた。
学生の利用者が多いからやっぱり安いというのは大きいのだ。
品数的にも味的にもそこまで悩むところでもないので、すぐにみんな注文を済ませた。
「冬休みになったらしたいことってあるか?」
「僕は掃除かな、まとめてやるいい機会だから」
これは夏休みにもやった。
普段やっているのはよく使う場所だけでしかないのできっとやりがいがある。
「俺らは母さんの実家にいくからそのときに沢山美味しい物を食べることだな」
「ここと違って人があんまりいない場所だけど、その点落ち着くから私は歩いて回りたいわね」
そうか、三が日も少しあれだから冬休み中は会えないと考えていた方がよさそうだ。
「真冬さん気を付けてよ? 人がいないということは変な人が現れたら助けてもらえないということなんだからね?」
「そのときは兄さんを連れていくから大丈夫よ、歩いてお腹が空けば食べ物もより美味しく感じるでしょうし」
「おう、付き合うぞ」
悠里が一日だけでもいいから付き合ってくれることを願っておこう。
まあ、どうせ二十九日あたりからは両親も仕事が休みになって家にいてくれるから合わせておけば冬休みなんてあっという間に終わる。
そもそも、少し長い休みだからと生活リズムは一定を維持させるわけだからそう変わらないのだ。
「三が日まで向こうだから会えないな――よし、知生と悠里も連れていくか」
「ふふ、あなたが自転車かなにかで運ぶの?」
「くそー……車の免許を持っていたら連れていくのにな」
「本当に先輩と悠里さんが大好きよね」
今回はどう答えるか。
「だって友達と一週間以上会えないのは寂しいだろ?」
特に否定もせずに前に進めることを選択したようだ。
彼女は「仕方がないときもあるわよ」で終わらせた、こちらも重ねるつもりはないらしい。
そこで料理が運ばれてきてより賑やかになった。
基本的にここでも進めていくのは彼で、悠里は話すのも聞くのも好きなタイプ、彼女は話を聞いていることの方が多い。
でも、無反応というわけではないから悪い雰囲気になったりすることはない、いいバランスではないだろうか。
「どこかから視線が、ふふ、モテ期かしら?」
ここにはそれなりに若い男の子がいるから、うん、そういうこともあるだろう。
興味があったら見てしまうものだ、そこで「やめろ」と言うのは酷だ。
「真冬を見ているのなんて俺とか悠里じゃないか?」
「ちょっと冬樹先輩、真冬さんはこんなに奇麗なんですから他の人からも興味を持たれているに決まっているじゃないですか。まあ、そういうのは真冬さん本人が跳ね返してしまうのでなにも発展していませんがね」
どこまで正しいのかは分からないものの、悠里曰く全く男の子と過ごしていないんだっけ。
「一人の男の子に見られているわね」
「ここにはそれなりに若い男の子がいるよね……誰だろう?」
「ヒントは悠里さんの隣に座っている男の子ね」
あ、そういえばまた悠里の隣に座ることになっている。
特に話し合いもせずにこうなるのはお互いに兄妹がここに存在しているからだろう。
僕的には女の子組と男の子組でそれぞれ座ってもいいと思うけどね。
「って、お兄ちゃんなにじろじろ見ているの」
「はは、知生も男だからな、異性をじろじろ見てしまっても仕方がない――で、なんで見ていたんだ?」
「瀬口さんは上手だなと思ってね。会話に参加しすぎるわけでも、全く参加しないわけでもない、こう参加タイミングが絶妙なんだよ」
僕のこれは上手くできていると言うよりも放置されているだけなので同じではない。
最近は前よりも強く話したいという気持ちがあるからもっと話しかけてくれていいのに。
また出しゃばりたくないという気持ちと話したい気持ちが相まって疲れる状態になってしまっている。
「そうか? 俺としては真冬にもっと話してもらいたいけどな」
「私はついつい話しすぎちゃうから……真冬さんには止めてもらいたいな」
「結構話している方だと思うけど、それに悠里さんもちゃんとコントロールできているじゃない」
「「そうかな?」」
「そうよ」
なんかこう……仮に相手が慌てたりしていても彼女と話したら一発でフラットな状態に戻してしまいそうだ。
〇〇してほしいとぶつけても「〇〇じゃない」と彼女が答える度にそういえばそうだったかも、みたいな感じで。
「私的には先輩にもっと参加してほしいけどね」
「あ、それはそうだな」
「女の子をじろじろ見てしまうぐらいなら参加してくれていた方がマシだね」
目を見て話すなんて普通のことなのに悠里からしたら駄目な行為になってしまいそうだ。
ただ、四人で集まれていることはいいことだ、なるべく合わせるようにしたかった。
「冬休みー……は真冬さん達がいないからどうしよう」
「この前優先したいと言っていた子達と遊びにいくのはどう?」
僕としては決めていた通り掃除ができればそれでいい。
寧ろ彼女が残ってしまうと話すことばかりに夢中になって全然集中できないかもしれないから今日は出かけてくれた方がいい。
ゆっくりするのは両親が休みになってからでも十分だろう。
「みんなやりたいことがいっぱいあるからね、それこそこの前の子なんて彼氏ができてしまったわけですから」
「なら課題をやって時間を――」
「夏と違って量もないからそんなの後でいいよ。お兄ちゃんとカラオケ屋さんにでもいくかな」
なにも遮らなくても……。
部屋でやることは選ばなさそうだから課題をやらせようとした時点で同じか。
テストも終わったばかり、それも休みが始まったばかりの状態ではやる気が出ないと。
ここでもこの前駄目なところを見せてしまっていたから強気にはなれなかった。
「お兄ちゃんとカラオケとか……いつぶりだろう?」
「小学生ぐらいのときが最後だと思うよ」
「もっと誘ってよ」
「悠里がほら、他を優先するようになっちゃったから」
あの頃は気になる男の子のことで頭がいっぱいだった。
両親に「なにが食べたい?」とか「どこにいきたい?」と聞かれても「あの子と過ごしたい」ばかりだった。
そのことで上手くいかなかったからあれからは恋を――は余計なお世話か。
「ほら、お兄ちゃんから歌ってよ」
「えっ、そこは悠里でいいでしょ」
「どうせ歌わなければならないんだから早く」
悲しいかな、美声とかそんなこともなくて甘々の機械で八十点前半しか取れたことがない。
物凄く音痴ならもっと低かっただろうけど、その差を喜んでいいのかどうか。
逆にそっちの方が個性が出てよかったのかもしれない? なんて考えたくなるぐらいには微妙だ。
「え、なんかお兄ちゃんの後に歌うの恥ずかしいんだけど」
僕がね。
なにも口にしないでいたらポチポチ操作しだして普通に歌っていた。
ただ、気になるのは気になるのか歌っている最中、何回もこちらを見てきてその度に目が合った。
合わないようにしてあげるべきだっただろうか? でも、その場合はそれはそれで気にしてしまいそうだからこれでよかったか。
「ふ、ふぅ……冬なのに暖房が効きすぎていて暑いねっ、冷たい飲み物やアイスでも持ってくるよ」
「うん」
一回で自分の限界を知ることになってしまったのでただ待っていることにした。
幸い、モニターを見ていれば飽きない、悠里もすぐに戻ってきた。
それから隣に座って「これならお兄ちゃんにじろじろ見られなくて済むよ」と。
「お兄ちゃんさ、真冬さんをこそこそ見るのに慣れすぎて癖になっちゃっているんじゃないの?」
「いま僕は悠里を堂々と見ていたよ」
「ぶっ……な、なに言っているの……」
「さ、歌って」
「まあ、歌うけどさ……」
あ、そういえば飲み物を注いできてくれているようだ。
しかも、こういうときにお茶を好むことを分かってくれている。
掃除をできなかったことが気になっていたけど、これだけでここに来てよかったと思えた。
「ちょ、流石にそれは興味を持たなすぎじゃない?」
「見ていいの?」
「いまよりちょっと増やすぐらいなら……まあ」
「それなら横で楽しませてもらうね」
「うん――あれ?」
細かいことは気にしなくていい、寧ろ払った料金の分をきっちり楽しめるのだから乗っかってほしい。
「私、決めたよ」
「エコーがすごいね」
「冬樹先輩と真冬さんが帰ってきたらまたみんなでいこうってね」
「三人なら歌う順番がいつまでも回ってこないなんてこともなさそうだし、楽しくなりそうだね」
こういうときは自分は参加できない前提で進めた方がいい、カラオケ屋さんにはいけなくていいけど、期待した分だけダメージを受けることになるからだ。
それで悠里の答えはこちらの手の甲をつねるものだった、これは「なんで自分はいかない前提で話しているの」と言おうとしてくれているのかもしれない。
「冬樹先輩には合わせようとするのがお兄ちゃんだからね、そうすればもっと聴けると思ったんだよ」
「なるほど、確かに瀬口兄妹がいれば合わせるしかないね」
「馬鹿お兄ちゃん、普通は家族に合わせるところでしょ」
「はは、悠里にも合わせているからこそ、いまの僕はここにいるんだよ」
あ、納得がいかないという顔をしている。
怖いし、もったいないから次がないように酷いところを披露しておいた。
今回も予想を裏切らずに八十点前半だったからそのことでもはや安心できてしまっている自分がいた。
「お兄ちゃんはお蕎麦、これぐらいでいい?」
「うん、ありがとう」
大晦日には蕎麦をズズズとすすっておかないとなあ。
それにしても今年ももう終わりか。
二年生になってからも特に悪いことはなかったと思う。
修学旅行のときも慣れない相手とでも上手くやれたし、そういうどこかにいく系のイベントが終わった状態ならこれから先は楽そうだ。
「真冬さん、元気にしているかな」
「瀬口さんは前半に歩いて満足して、一人で静かに本を読んでいそうだ」
「はい、お兄ちゃんが電話をかけてみてよ」
「え、それなら冬樹君に電話を――」
ああ、かけてしまった。
というか、汁もかけてしまっている状態だからせめて後にしてくれても、と考えてしまう。
「もしもし?」
「あ、ごめん、僕なんだよ」
「先輩でしたか――ふふ、悠里さんのスマホを使わせてもらうぐらいには私に会えなくて寂しかったんですか?」
こ、この子もこの子で急にこんなことを……。
「ふふ、なにも言えなくなってしまうぐらいには図星だったんですね」
「ゆ、悠里がっ」
は彼女からすれば必死に言い訳にしか聞こえないか。
「悠里さんはそこにいますか?」
「うん、隣で蕎麦を食べようとしているよ」
「それなら三十分後にこちらからかけますね――あ、先輩はそのときちゃんと悠里さんの側にいてくださいね」
切られてしまった……。
スマホを返して蕎麦を食べようとしたときに「お兄ちゃんって遊び甲斐があるよね」と口撃が。
「まったく……いつでも反応してもらえるわけじゃないんだからこういうときにちゃんと話しておきなよ」
「あれ、怒っちゃった?」
「知らないよもう……」
それより悠里が作ってくれたつゆの味が美味しい。
これがあってよかった、なかったら部屋に引きこもっているところだ。
でも、それができるのも悠里が戻ってくるように言ってくれたからで……感謝を忘れてはならないか。
「お兄ちゃんはここね」
「うん」
本当にいなければならないのか……。
よし、このまま悠里が瀬口さんと盛り上がっていつものように放置されるように願っておこう。
どうせ参加できないに決まっているのだ、大丈夫大丈夫。
「あ、きた」
も、求めていないのに最初からスピーカーモードとは。
これではさっきの願いが叶ったときにより悲しい結果になるぞ……。
「よう」
「はは、さっきの仕返しかな?」
「いや、真冬から奪い取ったんだ」
当然、一ヵ月とか時間が経過したわけではないから見た目はそのままだ。
「おい悠里、俺の顔が見られたからってなに安心したような顔をしているんだ?」
「……別にそんな顔はしていませんけど」
「お、なんだいまの間は――あ、ちょ」
「勝手にスマホを使うのは駄目だと兄さんは教わらなかったの?」
ぷふ、なんかお母さんみたいな感じだ。
でも、冬樹君の顔を見られてよかった。
安心してしまっているのは僕だった。




