第55話「真実の明かされる刻」
「お前たちは死なない。ただ、次の世界へ移る。そしてまた出会う。記憶はなくても、魂は覚えている——二人は必ず、また同じ場所へ辿り着くんだ」
「……それは」
「彼女を殺すことにはならない」と男は言い、少女へ視線を向けた。その目には、抑えきれない何かが滲んでいた。
「この世界での命は尽きる。だが.......お前たちは消えない。次の世界で、また生きられる」
少女が唇を噛んだ。
「でも、それって——それって結局、この世界を捨てるってことじゃないの。ここで死んでいった人たちを、見捨てるってことじゃないの」
「違う」と男は声を震わせながら言う。
「お前たちを次の世界へ送った後、俺だけここに残る。扉の痕跡を封じるために、世界が完全に閉じるまで——この場所を守り続ける」
「そんな..........それじゃあ、あなたは」
「俺は補佐官だ」と男は静かに繰り返す。
「門主の後を守るのが役目、だからな」
誰も喋らない中、少女が俯いた。
「ごめん」と呟く。
「ごめんなさい.......“ヴェルナルト”。私のせいで——」
「謝るな、お前は何も悪くない。レインが言った通りだ、ただ生きていただけ........それはなんの罪でもない」
「でも........」
「レイン」とヴェルナイトは彼女の言葉を遮り、俺を見た。
「分かったか...........これが唯一の方法だ。お前たちは死なない。ただ次の世界へ行く——そこでまた出会う。俺が、必ずそうなるように刻むからな」
レインは黙っていた。
ヴェルナイトの言葉を咀嚼しながら、少女を見る。少女も俺を見ていた。泣きながら、それでも静かに.........
「……お前は」とレインは言い、ヴェルナイトへと向き直る。
「それで本当にいいのか。俺たちを送り出して、一人でここに残って」
「.........いいに決まってるだろ」
「嘘をつくな!」
ベルナイトが少しだけ笑った。苦しそうに.........それでも笑った。
「……嘘じゃないに決まってるだろ。お前たちが次の世界で生きていると分かれば——それだけで充分だ」
「充分じゃない...........俺は次の世界でまたお前とも会う。それも一緒に刻め!」
ヴェルナイトが目を見開いた。
「俺を次の世界へ送るなら、お前も来い。補佐官なら門主の傍にいろ。それが役目だろ!」
「……馬鹿なことを言うな」とヴェルナイトは呟いた。声が掠れている.........
「俺にはここでやることが..........」
「終わったら来い。絶対だ.......待ってるからな」
沈黙が落ちた。
男はしばらく動かない。そしてやがて、一度だけ頷いた。言葉はない............ただそれだけだった。
男がゆっくりと右手を掲げる。
男の足元から巨大な魔法陣が広がり始めた。
世界そのものを書き換えるための、この世のどんな術式とも違う法則が展開されていく。
男の身体に亀裂が走り始め、その奥から銀色の光が漏れ出した。
存在そのものを代価にしている——それが分かった。
「これが最後だ」
空間が裂け、星々を飲み込むほどの白銀の門が現れた。
「ヴェルナルト!」と叫んだ。声が出ないはずなのに、叫んでいた。
男が一度だけ振り返る。その表情はまことに穏やかだった。苦しみも後悔も、もうそこにはない。そして..........静かにその名を告げた。
「——《■■■■■■》」
門が開いた。
光が溢れ、世界が白く染まる。
セレフィーナが泣きながら何かを叫んでいる。俺も手を伸ばした。何か言わなければならない気がした。
だが声は届かない。光が全てを飲み込んでいく。
最後に見えたのは、崩壊する身体のまま、それでも満足そうに微笑む男の姿だった。
「次こそ——」
そこで、記憶が途切れた。
次に視界へ映ったのは、燃え落ちた世界の残骸の中に一人で立ち続ける男の後ろ姿。
門が崩れ、人が消え、空が灰色に染まった世界の中で、男はただ一人.........俺たちが消えた方向を見続けていた。
どれほどの時間が流れたのか分からない。だが男は動かなかった。
その肩が、微かに震えている。
——待っていたのか..........あの日からずっと
その考えが胸の奥から湧き上がった瞬間、レインの意識は眩い光の中へ引き戻されていった。




