第278話 大事なことを忘れていた
そう言えば、俺はこの世界に来て、誕生日というものを一度も意識したことが無かった。この世界は特に年を取ったからお祝いをするみたいな風習もないため、あ、年取ったな、程度のものだった。
まあ、前世からしてみれば違和感しかないけど、そのことに慣れていたから、そもそもユイとかの誕生日なんて気にしたことも無かった。
俺も自分のこの世界での誕生日は把握している。父さんや母さんからも、何歳になったね、とだけ。まあ多少料理は豪華になったくらいだった。誕生日プレゼントなんて貰えなかったのは印象に残っていたな。
だったら、郷に入っては郷に従え、というように、この異世界で前世に合わせて誕生日を祝う、なんてことをする必要はないのだが……。まあ、気になるものだ。俺の恋人たちの誕生日というのは。
でも、こういうのって、聞いたらなんて思われるんだろ。「誕生日?なんで?」とか不審に思われたりとか……まあユイならなんも怪しまずに普通に教えてくれるような気はするが。
俺もユイと一緒に買い物には行くが、遠くとか旅行みたいなことは一度もしてあげられてはいない。ユイも「別に、チー君といられるだけでいいもん」とか言ってるが、女子ってあれやん。一度のサプライズより、定期的に構わないと愛が冷めるとかなんとかあるやん。
金はギルドの仕事もあるから大量に余ってる。俺の気分次第だが毎日遊びに行くくらいには金はあるな。なんせSランクパーティだし。
なら、聞いてみるか?もうユイなら、用が無くても話しかけるくらい簡単だ。演技、蚊は分からないが、俺が話しかけるたびに笑顔でまるで懐いてる子犬のように振り返ってくれる。かわいすぎんだろ。
ちょうど、リビングでくつろいでいるユイに話しかける。
「ユイ」
「なあに?」
まあいつも通り、目を輝かせてすぐに返事をする。なんだこの動物は。
「ユイって誕生日いつなんですか?」
「誕生日?なんで?」
俺がさっき予想した答えまんま返ってきて草。でもなんでって聞かれてもなあ。
「気になるからとしか……」
「えっと、8の月の3日だよ?あ、ちょうど明日だね。そう言えばチー君は?」
「えっと、俺は、確か、6の月の6日……」
うわ、6が三つ揃ったら不吉だったわ。
「あ、もう過ぎてたね。チー君ちょっとだけ年上だ」
「別に誤差レベルだし」
「ところで、急に誕生日ってどうしたの?私も気になるんだけど」
ユイは頬杖をついて期待の眼差しで俺を見る。いちいち可愛い。まあ恥ずかしいけど、俺は理由を伝える。
「まあ、俺の前世では誕生日のたびに盛大に祝う風習があったんだよね、まあ俺家族以外に祝われたことないけど」
「自分で自分を刺してない!?」
「まあ、そんなこと思い出して、ユイの誕生日くらい知っててもいいかなって。それと、まあ、えっと」
「なに?」
「……まあ、せっかくだし、その、2人で旅行とかどうかなとか……」
「ほんと!?チー君と二人きり!?やった、チー君大好き!」
ユイは立ち上がって俺を抱きしめてくる。ああ可愛い、柔らかい……いつもそうやって俺をムラムラさせる。俺は何とか理性を保って聞いていく。
「ユイは行きたいところある?」
「う~ん、どこでもいいけど……あ、王都の高級温泉街とかどう?あそこで可愛い服とかも売ってるし、美味しいものもいっぱいで、もちろん温泉も気持ちよくて」
「おけです。明日行きますか」
「チー君ありがと!じゃあ私準備だけしとくね!」
そう言ってユイは自分の部屋に駆け足で戻る。う~ん、ユイはなんでも喜んでくれるからなんか、感覚が麻痺ってしまいそうだ。
俺はまあ、特に準備する物もないからゲームでもしてようかな。俺も完全に1日ユイと二人きりなんてのは久しぶり過ぎて、ちょっと緊張して手が震えるわ。
しばらくすると、シオリーが部屋から出てきて、なんか、呆れてるような表情をしていた。
「なんか、ユイ先輩いつも以上にウキウキなんですけど、何かあったんですか?」
「いや、ユイの誕生日だから、明日は二人で出かける約束をしたんですけど」
「え?ず、ずるいですよチー先輩!わ、私……チー先輩に誕生日なんて祝われたことないのに!」
「え、いや、ふと思い出しただけなんだよ、その、誕生日というシステムそのものが」
「まあ、確かにこの世界では誕生日を祝うことは珍しいですもんね」
シオリーも俺と同じ転生者だから、一応違和感はあったっぽいな。
「まあ、シオリーは俺と同じ地球に住んでたし話早いっすね。これからはシオリーの誕生日も祝うよ」
「本当ですか?う、嬉しいですっ!そ、その……だったら、栞だった頃の誕生日も祝ってくれませんか?」
「え?あ、つまり、年に2回祝うと?」
「そう言うことになりますね……チー先輩の一人占めが私だけ2回に増える……えへへ……」
シオリーは少し顔を背けてにやけている。狙いはそういうことか。う~ん、少し不公平感はあるけど……可愛いからまあいいか。
ランも部屋から出てきて、俺のことをチラチラ見ながら少しずつ近づいてくる。
「あ、あのさ、チー、もちろん、アタシの事も祝ってくれるわよね?」
「え?まあ、はい」
「やった……」
ランは小声で喜んでガッツポーズをしている。もうデレ隠す気全くないだろ。
「そういえば、ランの誕生日っていつ?」
「え?まあ、分からないわ。物心つく前から親に捨てられたし、季節が一周する毎に数えてたわ。だから適当でいいわ。歳はチー達と同じくらいのはずよ」
「え?あ、まあ、じゃあ、来月の1日でいいか」
「うん、分かったわ。チーの決めてくれた、アタシの新しい誕生日ね」
ランは赤面しながら、嬉しそうに自分の部屋に戻っていった。誕生日ってこんな簡単に決めていいもんなのか知らんけど、まあいいんじゃね。ランも嬉しそうだし。
そんなこんなで、カノジョーズの誕生日を毎年祝うことになったとさ。




