第276話 お久しぶりのチー牛
そう言えば、俺が地球に戻った理由の一つに、死にたがっていたブサに希望を与えるために、ゲームやエロを提供する目的があった。
学園卒業以降、ブサには会っていない。どこにいるのかもわからなかった。実家に帰ったのだろうか。それともどこかで働いているのだろうか。冒険者になっているのか……それなら、1度でもブサを見かけることくらいはあるはず。
というか、まあ俺自体あんまり周りと目を合わせるとかしないし、そもそもこの数か月チハルの事やらで色々忙しかったからな……。気づいてなくても不思議ではない。
そんな中、俺たち無名パーティは今日も依頼を受けにギルド本部へ向かった。ちょうど、噂をすればなんとやら、ブサを見かけたのだ。
ブサは冒険者としてパーティを組んでいたのだ。見る限り、Aランク冒険者っぽい。ブサは低身長で容姿も劣っているためか、謎に目立っている。荷物もかなり持たされているな。ブサの表情は、学園の時のように暗い。
いつもの事なのかは分からないけど、ブサに対して周りはひそひそと何やら呟いている。
「なんであんな奴がAランクパーティにいるの?」「余計目立つよな」「大した実力もないくせに」
実際、ブサの実績はあまり聞いたことは無いしな。上手くやっているようには見えない。でも、流石にこの機を逃すわけにはいかない。俺はユイに伝言をする。
「ユイ」
「なに?チー君」
「ちょっと用事が出来たから、今日の依頼は俺抜きでいいっすか」
「え?……分かった」
ユイは俺の目線でなんとなく察したようだ。一応、ブサとは学園の頃にも何度か関わっていたし、ユイも知っている。俺はユイに伝えた後、ブサのところへ向かった。
チーの姿を目で追っていたランは不思議に思う。
「急にどうしたのよ、チー。あんな冴えない男のところに行って」
「確か、名前はブサ君って言って、一応、チー君の学園の頃の友達なんだよね」
「は?あいつが?もの好きよね、チーも……ふ~ん、でも面白そうじゃない」
「何が面白そうなんですか……チー先輩抜きはつまんないですよ」
「あはは……とりあえず、クラウド君にも伝えてくるね」
嫁―ズの反応は様々だが、まあ今はブサに伝えなきゃならんことも多いしな。俺は恥ずかしながらも、ブサに声をかける。
「ブサ」
「……え?チー……?」
ブサは俺のことを覚えていた。まあ1年も経ってないし、インパクトのある出会いだったし、流石にね?
すると、ブサのパーティメンバーだろう、一人の男が俺に気づいて、笑顔でやってくる。白髪のかなりのイケメンだ。恐らくリーダーだろうか。
「もしかして、君、チーかい?」
「え?あ、えっと、人違いじゃないですかね」
「いやチーでしょ、無名パーティのリーダー。魔王も倒した魔剣士で、女性人気も高いしね。チハルさんとも関わりがあるとか。顔を見間違えるはずないよ」
ああくそ、人違いでスルーされてほしかった。ていうか、俺ってそんなに有名なの?すると、その男の声に釣られたのか、どんどんギルド内の人たちが集まって来た。人混み気持ちわりい……。
「あはは、すまない、俺のせいかもね。ここじゃあれだし、場所を移動しようか。俺たちはちょうど朝早くに依頼を終えて戻って来たばかりで、この後みんなで食事だったんだ。どうだい?」
「え、あ、まあ、はい」
俺は断れるわけもなく、人混みをかき分けながらその人たちに付いて行った。ブサは何とも言えない表情をしていた。
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近くの食堂で、ブサのパーティメンバーを交えながら、食事会が始まる。残念ながら、俺も何も言えないので、ブサから離れた席で、隣にはリーダーと女冒険者に挟まるような席になった。
未だに俺は意見とか言うの恥ずかしい。ましてや初対面なのに。まあ、この食事が終わればブサとゆっくり話せるだろう。とりあえず今は我慢だ。
俺は色々と聞かれた。なんでそんなに強くなれたんだ?チハルさんとはどういう関係なんだ?ユイとは結婚するのか?などなど。ほんと有名人になった気分だよ。自己肯定感高い人なら最高だろうな。俺にとっては地味に苦痛だが。悪くはない。
自分から話さなくても、次々と話しかけてくれるから、コミュ障でも多少楽だな。こうやって人慣れして自己肯定感高めつつ話せるようになってくんやろ。いいなあ、イケメンは。まあ俺イケメンだけど。
しばらく俺もどもりつつ耐えながら話していると、リーダーからこんな疑問も飛んできた。
「そう言えば、さっきブサに話しかけようとしたけど、彼が何かしたか?それとも知り合いか?」
「え?あ、まあ、知り合いです」
すると、リーダーも酒で何となく悪酔いしているのか、言葉遣いも荒くなってきて、俺の肩を組んで、ブサについての愚痴のようなものが次々と飛んでくる。
「あっは、そうなん?ブサが迷惑かけてないか?あいつどんくせえし何もできねえからな。せいぜい荷物持ちくらいだわ。多少魔法使えるみたいだけど、威力は低いし」
「ほんとそうなんですよ~。ていうかあんなキモイの何でうちのパーティにいるんですかね」
隣の女も便乗して俺にボディタッチしようとしてきたのをさっと避ける。二度と俺の嫁―ズ以外の女には触れない触らせない。シークの時みたいに社会的に死ぬのはもうこりごりだ。
女は避けられてつまらなそうに頬を膨らませていたが、リーダーは気にせず、ニヤニヤしながら答える。
「ここだけの話、な?俺がブサを拾ったのは、わざとだ。使えなさそうなあいつがこのパーティにいることで、俺たちがさらに強く、かっこよく見えるだろ?それに、あんな人を雇ってるなんて心が広い、なんていいイメージも付く。恋愛だって、よくやるだろ?わざと自分より劣った人を連れてきて自分を良く見せる。戦略だよ戦略、ぎゃはは!」
俺は聞いてて気分は良くなかった。少しイライラして拳を握ってはいたが、まあ、俺はこいつの言うことも間違っていないのは事実と認めている。そうさ、戦略さ。悪いことではない。
にしても、ブサは都合よく人に使われるな。本当に、人ってのはルッキズムがひどい生き物だ。容姿だけでここまで人生が変わるのか。分かってはいたけど、なんだか何とも言えない気分だ。
ていうか、こいつらは、そんな使えない雑魚がAランクパーティに付いていけてることに違和感は感じないのか?ブサはサポート特化だ。素早さと器用な魔法で、動きながら妨害したり仲間をサポートする。実は見えないところでお前たちのサポートをしてたりしてな。
ブサにその戦闘スタイルを教えてやったのは俺だ。実際、2年の時のルー戦でも、そのサポートでリオたちを危機から救った。まあ、事実はブサに聞いてみないと知らんけどな。
あ、これよくある追放系のテンプレになる可能性あるのでは?そんなふうにブサを思ってるのなら、近いうちにすぐ切り捨てるはずだ。
「そうだったんですねえ!リーダー、あったま良い~!」
「だろだろ?Sランクにでも上がったら、解雇しようと思ってるんだわ。あ、すまんな、チーの前でこんな話しちまってな」
予想通りだわ。まあ、別に俺が人に口出しするようなもんでもないし。
「あ、いえ、別に。人間らしくていいと思います」
「あっは!チー、お前分ってんなあ!」
リーダーの男は豪快に笑ってまた肩を組んで来た。ああ、酒のダル絡みうっざ。前世の親もそうだったけど、うざすぎてほんと酒って嫌いだわ。
これは後でブサに伝えるべきか、内緒にしておくべきか……悩ましいな。




