第273話 不器用な家族の愛
メイドとランは同時に踏み込み、戦いが再び始まった。ランは魔法師とは思えないほどの脚力で、メイドに接近していった。メイドも目にもとまらぬ速さで攻撃を仕掛ける。
しかし、ランはメイドが短剣での攻撃をさせる前に、風魔法でメイドの武器を吹き飛ばし、そのまま一気に詰め寄る。メイドはもう片方の短剣で迎撃に入る。そこからはメイドとランの短剣の擦り合う金属音が何度も高速で響いていく。
今回押されているのは明らかにメイドだ。ランは至近距離で魔法も器用に扱いながら、短剣でひたすら圧をかけていた。短剣と魔法が同時に、まるで手が何本もあるように感じるほどの圧だ。
「師匠!お前の相手は俺だ!」
俺は戦いに見とれていると、ネクラが俺の顔めがけてナイフを放つも、それを俺はキャッチ。見えればなんともない。
ネクラは同時に俺に高速で接近するも、俺はちゃんと目で追う。なんせ、最近もっと速いチハルとかいう奴と戦ったからな。俺はネクラの短剣捌きを軽く避けつつ、魔法銃でネクラの顔めがけて放つ。
「ぐあっ!?」
ネクラが一瞬怯んだ隙に、俺は普通にみぞおちに蹴りを入れてやった。これは思いっきり入ったな。そのままネクラはまるでしびれたかのように動けず、その場に倒れ込んでしまった。
というか、ネクラもあんまり本気出してないだろ。相手が俺だから、動きに迷いが見えている。本気なら、あのヒキコーモリ家が使う異次元移動みたいな技も使うだろうに。ネクラは、家族に洗脳されているのか。ネクラは根はやさしい奴だしな。
俺は一応ネクラに警戒しつつも、ランたちの戦いに目をみやる。……がすでに決着はついていた。メイドの方にはランの短剣が刺さっており、壁に追い詰められていた。そのまま動けないように、ランは蔦を操作し、メイドの手足を縛る。……触手プレイ?
メイドは無表情を貫いているものの、流石に痛みは感じているのか、額からは大量に汗をかいている。なんて精神力なのだろうか。
戦いはすぐに終わった。あとは、ネクラの両親を倒せば、ここを乗り切れる。しかし、強さの底が見えない。特にあの父親らしき男……。俺はおもわず息を呑む。闇魔法を最大限纏わせて戦えば行けるか?
しかし、両親は俺たちを見ると、一瞬、安心したかのように口角を上げた。なんだ?きもかった?ネクラは意味が分からず、恐怖で震える。その後、両親は俺たちに背を向け、ネクラに言い放つ。
「ネクラ、依頼失敗だ。残念だが、罰を与えなければならないな。お前は、この方々のパーティに入れ。そして二度と、俺たちの依頼は受けるな。……勘当だ」
それだけ言って、男は一瞬で消え去り、もう一人の女は軽く無邪気に手を振って消えていった。よく分からんのだが、ネクラは見捨てられた?
俺もネクラも意味が分からず何となく目を合わせる。いやお前も分かってないのかよ。そこに、ランの蔦を自力で引きちぎり、肩に刺さった短剣を引き抜き、すぐに止血したメイドがネクラの元へゆっくりと近づいていく。
一応警戒しつつ、見届ける。メイドは少しだけ笑って、ネクラに事の詳細を話していった。
「ネクラ、安心しなさい。母上と父上は、あなたの優しい性格を分かっていました。学園時代も、友達ができたと喜んでいたのを見て、元々あなたを暗殺業から足を洗ってもらうつもりだったらしいです。
なぜかは、ネクラも分かりますよね?」
「え、えっと、暗殺に私情は、危険だから」
「はい。心にも命にも、危険を伴います。一つの迷いが、依頼失敗に繋がります。ですので、この依頼も計画的に組まれたもので、あなたを暗殺業を辞めてもらうための演技だったのです」
「はあ?」
「あと、勘当というのは嘘ですよ。なんとなく雰囲気で言ってしまったのではないかと。やり過ぎとは思いますけど、しがらみなく暗殺と手を離せるいい方法だとは思いましたよ。では、ネクラ……あなたを家族として、私たちはいつでも帰りをお待ちしております」
そう言って、メイドは一瞬で消え去った。
ここまでの出来事は、俺たちまで巻き込んだ、盛大で優しい嘘、ということだったようだ。なんだよ、クソ家族と思ってたのに、やり方はあれだが、不器用で優しい家族だったんじゃねえか。
ほんと、羨ましいよ。ああ、もちろん今の俺の家族も優しくて好きだが、前世はどうにもな。
ネクラはしばらく呆然としていたが、そのまま、俺に振り向き、目を逸らしながらゆっくりと近づいていく。
「し、師匠……その、ごめん、また、師匠を手にかけた。本当にごめん。今度こそ、許してくれないっすよね」
まあ、事情が分かれば、別に。犠牲者も出てないし。俺の答えは、ネクラと出会った頃と変わらない。
「別に、その、仕事だし、仕方なくないすか?」
「またそれっすか」
「まあ、今後も俺や彼女たちに刃向かうなら、容赦はしないですけど」
「怖いっすよ!?でも、それでいいっす」
なんだかんだ、ネクラとの学園生活も楽しかったし、仕事で仕方ないし、許さないなんて選択はしないさ。ユイが殺されたならまだしも。
「俺のパーティに入るんすよね?」
「え?あ、まあ、最後の命令なんすかね……さすがに迷惑っすけど」
「いや、別に、卒業の時も言いましたけど、えっと、まあ、俺はいつでもネクラは歓迎しますよ。今も変わりませんから」
「し、師匠……」
ネクラは目に涙を浮かべていて、泣きそうだ。ネクラは腕で拭って、相変わらず小さい声量で叫ぶ。
「師匠……いや、チー、また友達として、よろしくお願いします!」




