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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第6章 番外編

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第272話 ヒキコーモリ家

 



 しばらくすると、ただ、静かに、足音もなく、ネクラの後ろから二人の男女が歩いてきた。身長的に、ネクラとメイドの両親だろうか。黒髪の父と、青髪の母といったところか。同じく黒ずくめな上に、マスクで顔を隠していて見えない。


 ネクラの父らしき者が、俺たちを一瞬見た後、ネクラの肩をポンと置いて、一言声をかける。


「一度、お前の仕事ぶりを見てみたかったんだ。頑張れよ?」


「……はい」


 ネクラは弱弱しく返事をする。ネクラの短剣を持つ手は震えている。メイドは相変わらず表情を変えない。ネクラの親は、結構やばい奴だったのか?でも、特にネクラから毒親みたいなことは聞いたことも無かったが……こういうのは少しイラってするな。


 すると、ランは一足先に、ネクラの父親の指先の異変に気付いて、すぐに叫ぶ。


「みんな避けて!」


 俺とランはすぐさま首を逸らして何かしらの攻撃をかわした。ネクラの父親は、予備動作もほとんど見せず、超微細な毒針を俺たちに向かって正確に投げていたのだ。


 もちろん、ユイたちに躱すこと等できず、それぞれの首元に突き刺さる。しかも、細すぎて全く見えない、今俺が躱せたのも奇跡かも知れん。


 ユイとレッド、シオリーは麻痺して動けなくなる。こいつら、本気で俺たちを殺そうとしている?だが、先ほども言ったが、なぜ俺たちと出会った時点でさっさと殺さなかったんだ?見せしめのつもりなのか?


 レッドとシオリーは声も出せずそのままその場に倒れていく中、ユイは力なく、麻痺した体で俺の裾を掴み、何とか声を振り絞る。


「チー君、ランちゃん、お願い、メイドは、殺さないで……話をすれば、きっとわかるから……」


「……」


 それはどうだろうか。話をすれば分かる……それならとっくに争いなど起きていない。今優先すべきは、俺の幸せな普通の人生。ユイを殺されるなら、みんなを殺されるなら、俺は躊躇なくメイドを殺す。


 いくらユイの頼みでも、無理だ。


 俺とランは、ネクラとメイドに向き直る。ただ、静かに、互いに見つめ合う。ネクラは悲しそうに、メイドは何の感情もなさそうに、ランは怒りを込めて、俺は……自分のやっと掴んだ普通の人生を守るために、覚悟を決める。


 死合は唐突に始まった。


 先に動いたのはメイドだ。彼女は手に針を携えつつ、躊躇なくランに向かって一瞬で間合いを詰めていく。針をそのままランに向かって投げつつ、短剣を腰から引き抜き、一気にランに肉薄する。


 ランは当然のように投擲された針をかわし、戦いは順調に見える。そのままランは魔法師に見合わない速さでメイドの短剣裁きを、最小限の動きでかわし続ける。しかし、傷ついて鮮血が飛び血ているのは明らかにランの方。


 ランが押されているのか?


「貴方は魔法師、接近されればどうすることもできないでしょう。おとなしく投降し、殺されてください」


「誰があんたなんかに殺されるもんか!」


 ランはただひたすらに躱す。至近距離で魔法を次々放つも、全てメイドをすり抜けたり、かわされたり……。相性が最悪に見えるが……なんだか、ランの動きがぎこちないようにも見える。


 次々と飛び散るランの鮮血。致命傷ではないものの、ランの肌に、どんどん傷がついていくのかと思うと……俺は立っていられなかった。


 俺は魔法銃を取り出し、メイドの速すぎる動きを目で追うのは難しい。だから、ある程度、メイドとランの動きを予測しながら、勘を頼りに撃った。パアンと魔法銃の発動音が響き、見事にメイドに命中するも、咄嗟に腕でガードして顔を守っていた。あれが見えるのかよ?


 ただ、風圧でメイドの眼鏡がそのまま飛んでいく。メイドはすぐに体勢を整え、俺たちから距離を取る。その隙に俺はランの元に駆け寄った。


「ラン、大丈夫ですか」


「だ、大丈夫よ」


「本調子じゃなさそうだけど」


「そ、そりゃ、ユイの頼みだもん……殺さないようにしないと」


 ユイのあの一言が原因か。でも、手加減してやれるほどの相手ではないことはランも分かっているはず。どんなにかわし続けても、こっちがジリ貧だ。それに、ランの肌がこれ以上傷つけられるのだけは絶対に嫌だ。ランも俺の彼女なんだ、こんな俺を、受け入れてくれた一人なんだから。


「ラン、ユイの言葉は忘れてください。本気を出して戦ってください」


「嫌よ、だって――」


「だってじゃない、俺は、ランがこれ以上傷を増やすのは見てられない、最悪死んだら、俺はどうすればいいんすか!?」


「え?」


「お願いします、真面目にやってください。ランを失いたくない」


 俺はこんなにも、ユイやランに依存してしまっている。お前らのせいだ。もう、ユイたちがいないと俺は生きていけないんだ。俺を、心も体も受け入れてくれた、初めてできた大切な人なんだから。


 綺麗ごとは好きじゃないし、こんなきもいこと言ってる自分に反吐が出そうになるけど、とにかく失いたくないだけなんだ。ランは顔を赤くしながら、「分かったわよ……バカ」と呟く。


 そのままランは立ち上がるのを俺は見上げる。なんて頼もしいのだろうか。ランは俺に軽く指示を出す。


「チー、アタシに錬成で短剣を作ってくれないかしら」


「え?あ、はい」


 俺はすぐに錬成で短剣を形作り、強度を上げ、それをランに渡す。ランって魔法師だよな?ある程度動けるのは知っていたが……。ランは軽くストレッチをしながら、メイドに向き直る。


「さて、久しぶりに体動かすもんだから、ちょっとなまってたのよね。で、メイドって言うんだっけ?あんたの馬鹿にしてる魔法師にぶちのめされる準備はできてるのかしら?」


「……」


 メイドは聞いているのか聞いていないのか、やはり無表情。しかし、ランは先ほどよりも自信に満ちていた。そのまま、再び戦いが始まった。





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