第265話 面白そうな喧嘩
とあるギルド活動の日の事。
俺たちはまあいつも通り、普通に依頼を受けて魔獣の討伐に行っていた。Sランクになると、依頼はほとんどなくなり、緊急の優先度の高い依頼をSランクパーティに振り分けられる感じだ。
だから基本的には暇なのだが、まあ、せっかくパーティ組んだので、Sランクになった今でも普通に依頼を受けているという感じだ。まあ、チハルのためにSランクを目指していた頃は週に何度も依頼を受けていたのが、今は週に1,2回に減ったけどね。
で、今回の依頼の討伐対象はビッグトレントだった。王都からだいぶ離れた地域の依頼だったが、ランの瞬間移動でビッグトレントの発生場所にはすぐに着いた。ずいぶん楽できるようになったものだ。
今回も全員で協力して、ユイのバフで全員の強化をしてから戦闘に移行。レッドは前衛でトレントの伸びる蔦や幹をぶった切って行き、クラウドは指示かつこちらに攻撃が来ないよう攻撃をすべて受け流していき、シオリーとランでとにかく空中や視覚外からの攻撃をすべて器用にレーザーやアイスランスで相殺していく。
俺はまあ、いつも通りヘルプで危ないメンバーを助けたり、死角からの攻撃を捌いたり……。そして最後にサンの得意な火魔法で燃やし尽くして終わりという。
そんなこんなでSランク魔獣のビッグトレントを簡単に倒したわけなのだが……。最近、面倒ごとが増えたわけで……。
「あんたねえ、何度も前に出過ぎなのよ!あたしたちの魔法が狙いにくくてしょうがないのよ!」
「はあ?俺は前衛としてトレントの意識を向けさせながら特攻してるだけだ!何のために俺が攻めてると思ってんだ!」
「あんたの動きって雑過ぎるのよ!もっとこっちに配慮できないわけ!?」
「お前が配慮すればいいだろ!こっちは前線で戦ってんだ!1発でも食らえば致命傷なんだぞ!」
「それはあんたの実力不足じゃないの?レンはもっと上手くやってたわ。あんた、剣聖目指してるんだっけ?正直無理なんじゃない?」
「は?言ったな?」
いつものように、ランとレッドが口喧嘩をしている。仲がいいんだか悪いんだか。にしてもランってほんと口わりいな。
まあこういう喧嘩が初めてかというとそうではなく、依頼の2回に1回はこうやって戦闘後に喧嘩をしているわけで、皆ももう見慣れたのか何も言わない。
最初はユイも止めたりしてたんだけど、もうそういう人たちなんだなってことで諦めているようだ。まあ俺には関係ないしどちらにしろめんどいのでずっとスルーしているのだが。
「あら、あんた、剣なんか抜いて、やろうっての?」
「ああ?お前もやる気満々で杖なんか持ってんじゃねえか…」
あら。すごい嫌な予感。このままぶつかり合っちゃうのかしら。さすがにユイもこれはまずいと思って今回は止めに行く。
「ねえ2人とも、流石にやり合うのはどうかと思うよ?仲良くしよ?ね?」
しかし、ユイが止めに入っても、2人の炎が鎮火するわけでもなく。
「いや、バカにされたままじゃ俺が治まらねえ」
「こいつはやる気満々だけど、ユイは止められるのかしら?あたしがボコボコにして静かにしてやらないと」
「お前、魔法師が剣士にタイマン仕掛けて勝てると思ってんの?」
「あら?一応アタシがSSパーティの一人だったこと忘れてない?あんたくらいタイマンだろうが余裕よ」
ユイが止めても収まる気配はなく、ユイが涙目になって俺のところへ駆け寄ってきた。
「ち、チーくーーん!二人とも全然聞いてくれないよおお!!私嫌われてるのかなああ!」
「あ、ええと、ま、いや」
泣いて俺にすがるユイが可愛くてそのままにしておきたいところだが。
「まあ、とりあえずやらせてみればいいと思う」
「で、でも、大丈夫なの?」
「大丈夫。多分」
「多分!?」
「まあ、ランがやり過ぎなければ……その時はユイが……」
「大丈夫じゃなさそうだけど!?」
俺が心配してるのはランがレッドを殺さないかどうか。
だが、正直言ってその辺の加減はランは非常に上手いから問題ないと思ってる。ランの精密な魔法操作はほんとにすごい。が、感情が高ぶっている今はちょっと不安だ。まあ、なんとかなるべ。
クラウドとサンもさすがに今回はやばいと思って俺のところへ来る。
「さすがに止めよう。あれはまずい」
「いや、やらせてみましょう」
「チーは本当にそれでいいのか?」
「最悪、俺が止めますし。まあ、これでもしかしたらこれから喧嘩しなくなるかもですよ?」
「はあ……チーのめんどくさいスタイルは相変わらずだね」
「正直俺も気になります。ランの戦うのって間近で見たことないですし」
「ああ。ランは自信満々だが、魔法師のランは剣士との相性は悪いはず。どんな戦い方をするんだろうか」
もはや俺たちはその戦いに興味津々で観客席かのように地面に座り始める。あ、とその前に。
俺はレッドに錬成で作った木剣を投げつけた。レッドはそれをキャッチする。
「これは?」
「さすがに本物の剣で喧嘩するわけにもいかないじゃないですか」
「あ、ああ、そうだな」
「もしランを剣で傷つけてみろ。その時はマジで――」
「やるわけないだろ!?怖いからその顔は辞めろ!」
レッドは焦って剣を鞘にしまい、木剣で構えをする。あれ、俺どんな顔してたんだろ。知らんけど。反対にランは俺を見てポッと顔を赤らめていた。だが、すぐに俺に叫んで話す。
「あ、あんた、心配しなくてもいいんだから!別に剣でも余裕よ!余計なことしないで!でも、その、心配してくれてありがと」
「え、あ、はい。頑張ってください」
「相変わらず反応薄いわね。まあいいわ」
ランは再びレッドに向き直る。
「そうね。せっかくだからハンデをあげるわ」
「は?」
「アタシはここから一歩も動かない。どう?」
「……俺ってつくづく舐められてんだな……。いいぜ?ただでさえ機動力の無い魔法師風情がそんなことして後悔すんなよ!」
「いいわよ。来なさい?」
そしてついにレッドとランの喧嘩が始まった。




