第229話 女子グループの観光
女子グループ
女子グループは、特に目的もなく、ぶらぶらと露店を眺めながら歩いていた。
「なんか見てるだけでも楽しいよね」
サンが辺りを見回しながら、楽しそうにつぶやく。
「そうだね。王都にはないような高級なものが多いし」
ユイもいろいろと見て回りながら言葉を返す。
「最近さ、ギルドの報酬金でがっぽり稼いでるし、色々買ってかない?」
「そうだね、チー君へのプレゼントも買ってあげたいし」
「おお、お熱いねえ?」
「もう、からかわないでよ」
ユイとサンは一応、同じクラスだったし、どちらかというと陽キャ気質で話が合って仲が良い。シオリーはこの会話を聞きつつも、やはりこの輪にあまり入れてはいない。
ユイとは喧嘩したり、よく話したりするのだが、サンがいるだけでかなり内気になってしまう。陰キャあるあるである。それを察したのか、サンはシオリーに話しかける。
「ねえ、シオリーちゃん」
「ひうっ!?」
「ご、ごめんね!?いきなり話しかけちゃって」
「いえ、その、どどどどどどうぞどんどん話しかけてくだしゃい!?はうう」
「何この子かわいいんだけど」
まるで小動物を眺めるように、シオリーを見つめる。
「でしょ?」
そしてなぜかユイは誇らしげになる。そのままサンはシオリーに踏み込んでいく。
「シオリーちゃんはチーのどこを好きになったの?」
「ひ!?そ、そ、そそそれは……」
シオリーは目を泳がせながら、言葉に詰まる。
「サンちゃん、いきなりそれは距離詰めすぎだよ……」
「あれ?そうだった?じゃあそれは後で聞くね」
ユイもフォローを入れるが、シオリーは意を決したようにサンの目の前で話す。
「あ、あの!後で……聞かれるの…後で聞かれるくらいなら今言います!」
「まじ?教えて!?」
「えっと、ですね?チー先輩はかっこよくて、優しくて、頼りになって、ゲームも一緒にやってて楽しくて、いろんなアニメを知ってて、魔法も私が少し教えただけですぐに習得する才能があって、エッチの時も優しくて、たまにかわいいところもあって――」
「うん。わかった。ちょっと怖いよ。もういい?あとたまにアニメとか知らない単語もでてくるんだけど」
「……は!?す、すみましぇん!」
するとユイがシオリーの手を取る。サンはユイがシオリーを止めたのかと思ったが……。
「シオリーちゃん……。私も同じ!」
「ですよね!?ユイ先輩もそう思いません!?」
「だめだこりゃ」
ユイとシオリーはその後、二人の世界に入ってしまい、一番元気っこなサンが一人取り残されていた。
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その後、3人は魔法道具が揃った魔道具店に入る。
サンがさっそく大きな杖を見つけてはしゃぐ。
「見てこの杖!大魔法師っぽくない!?これなら森全体燃やせそう!」
「サンちゃん、絶対森に炎放っちゃだめだからね?……って高!?」
杖にも種類があり、基本は30センチほどの、指揮棒のように軽く振れるものが一般的だが、中には威力を最大まで込められる、1.5メートルほどの巨大な杖もある。もちろん値段も高く、通常の杖の30倍ほどの値がする。
ただし、もともと低い機動力をさらに失うので、あまり使われない、ロマン砲の様な杖だ。
そんな中、ユイは珍しい魔道具を見つける。
「これ、チー君が付けてた……」
それはミスリルでできたリングだ。この小さなリングに魔素を器用に集中させて魔法を発動するため、扱いが難しく、魔剣士くらいしか付けない特別な魔道具なのだ。ただ、現にチーも学生時代から付けていて、ユイはそれを見て結婚指輪と勘違いしていた。
サンはそのリングを見て難しそうな顔をする。
「なにこれ、これで魔法が発動できるの?威力低そうじゃない?」
「これを付ければ、チー君とおそろい……」
「おーい、ユイちゃーん」
「って高!?」
ユイは、ミスリルリングの値段を見て驚愕する。普通に100万ウェンを超えるのだ。でも、この温泉街に来ることもほとんどないし、チーと何かおそろいのものを持ってるわけでもないし、買ってみたいものではある。金ならまだまだ余っている。ユイは決意した。
「これ、2つください」
「ユイ!?」
「かしこまりました。300万ウェンです」
ユイは自分用とチー用に2つ購入した。これでおそろいのものを付けられるとウキウキしていたが……急にユイは「これって、結婚指輪みたいなものじゃ?」と考えはじめ、赤面するのであった。
ちなみに、サンは結局あの巨大な杖を購入した。
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今度は女子たちが、お菓子などを売っている店に入った。
サンは冷たいケースに入っている、カラフルな食べ物に目を付ける。
「見て、これすごいおいしそう」
「アイスだね。冷たくておいしいんだよね」
この世界でもアイスはあるようで、とは言え技術的に裕福層しか食べたことが無いらしく、元王族のユイは懐かしがっていた。シオリーは、前世以来に見るアイスに感動していた。
サンはこれを手に取り、目を輝かせながら言う。
「じゃあこれ食べよっか」
「うん、そうだね。すいません、これ3つください」
ユイは店員に頼んで、アイスが入ったカップを受け取る。さっそく、サンが一口だけ口に運ぶ。
「これ、冷たくて甘くて美味しい!」
そして止まらずパクパクと食べ続けるが、次第に顔が青ざめていく。
「う、頭痛い」
「急いで食べるからだよ……」
ユイとシオリーはゆっくりと、味わって食べる。と、ちょうどそこに、チハルとレンが店に入ってきた。チハルはユイたちにすぐ気づいて手を振る。
「あれ、ユイとシオリーじゃん」
「チハルさん、知り合いっすか?」
「そう言えば君達、レンとは初めてだったね。こっちはレンだ」
ユイとシオリーはチハルがいきなり来て、慌てはじめ、アイスを丸っと平らげる。頭痛を我慢しつつ、ユイがチハルに頭を下げる。
「お、お久しぶりです、チハルさん。そしてレンさん、始めまして。えっと、チハルさん、以前はチー君をありがとうございました」
「いやいや。いんだよ、暇だったし。君達もここに観光にきてたんだね」
「は、はい」
サンは、ユイのかしこまっている姿を見て、チハルを一目で“やばい奴”と認定し、頭を下げた。
「えっと、始めまして。サン、です。よろしくお願いいたします」
「え?ああ、いんだよ別にかしこまらなくて。ところで、足湯にはいったかい?」
「いえ、まだ」
「気持ちいいんだぜ?暇ならあとで行ってみると良いよ。あと、ここのチョコ美味いからぜひ買ってくといいよ。レンも食う?」
「いえ、俺は甘いものが苦手なので」
「連れないなあ」
そういって、チハルたちはこの場を後にした。サンは不思議そうにユイに何者だったのか聞いた。
「あの人たちって?」
「SSランクパーティだよ」
「え、ええ!?ほ、ほんとにいたんだ……」
サンは、あの人たちが伝説のSSランクパーティだと聞いて、大声で驚いた。ユイはさっきのサンの態度を思い出して、呟く。
「そう言えばサンって、敬語とかしゃべれたんだね」
「サンを何だと思ってるの!?」
そんなやり取りの中、シオリーは「チョコ」という単語に反応していた。
「チョコ…そういえば、今って二月……は!?」
「あれ?シオリーちゃん?」
シオリーはなぜか急にチョコのコーナーに向かった。彼女はいろんなチョコを見て、唸りながら悩みつつ、いくつか気に入ったものを買っていった。
ユイとサンはその光景を不思議そうに見つつ、「チョコが好きなんだねえ」と、微笑ましく見つめていた。
その後、店を出てから、チハルに勧められた足湯を体験しに行った。チハルの言う通り、とても気持ちが良く、3人で10分程堪能して、部屋に戻るのだった。




