第226話 魔王討伐のその後とか
「それじゃあ、今度は迷宮でな」
「あ、はい」
冒険者たちも疲れ、みんな帰っていく中、チハルたちSSランクパーティも俺たちに別れを告げ帰ろうとする。しかし、いつの間にかチハルの背後から肩を掴むものが現れる。
「待て。聞きたいことがある」
青龍だった。千温は特に表情を崩すことなく振り返る。
「ん?なに」
「”ロン”という少女はどうした」
「どうしたって、殺されたんだよ」
「誰にだ!それほどの化け物みたいな強さを持っていて、なぜロンを守り切れなかった!?おかしいだろう!仲間なら守れたはずだ!お前ならロンに何があってもすぐ駆け付けられた!お前が殺したんだろ!」
青龍は声を荒げる。いつもの気さくで冷静な青龍はそこにはいなかった。しかし、チハルは目を細め、ぎろりと青龍を睨みつける。
「あ?お前に何が分かる?ていうか、てめえはロンのなんなんだ?」
青龍はあまりの迫力に一歩後ずさりするも、掴んだ方は離さない。
「兄だ」
青龍は返した後、チハルは少し悲し気に話し出す。
「兄か……それはすまない、謝る。ロンは……俺の大切だったロンは、守れなかったんだ。悪魔に殺されたんだ。俺にはどうにもできなかったんだ。強さなんてものは、時になんも役に立たないこともあるんだ。もういいか?僕はもう思い出したくない」
青龍はあっけにとられていた。俺も同じだった。チハルが初めて見せた悲しげな表情に、引き込まれていた。演技でこんな事言えるわけがない。チハルでも守り切れなかった、悪魔というのは何だったんだろうか。
そのまま、チハルたちはランの瞬間移動で目の前から消えた。ランの表情も、どこか何もないところを見つめながら、寂しそうに見えた。
------
その後のことだが。
結局、王都の東部や西部の被害はほとんど確認できなかったらしい。むしろ、戦場となった中央部が、建物崩壊などの被害が多かったと。会長はチハルに謝罪をしていた。
チハルはどうでもいいというように謝罪を受け入れていた。実際に広範囲のバリアで王都を守ったランは東部や西部の英雄として崇拝されるようになっていて、すげえ嫌そうな顔をしていた。
そして魔族との関係についてだが、結局、魔族からは賠償金を貰って、再び不干渉条約を結んで終わったようだ。
実際、犠牲者は出なかったようだから、そうするのが先決だ。そもそも、魔王の恐怖政治にはどうにもできなかったしな、魔族も被害者だろう。
で、魔王はギルドに引き取られることになり、封印されるとのこと。封印か、こりゃ死ぬより辛いだろうな、いい気味だ。
で、俺たちは迷宮探索に向けて、休養を取っているところだ。それが、温泉旅行という形だ。チハルにも許可は取っている。てか、なんで温泉旅行かってのは、まあ、あの戦いの後なのだが、会長に呼び出されて――
「王都を救ってくれたこと、本当に感謝する」
「え、あ、はい」
「感謝状や賞金は、本当に要らないのか?」
「賞金は欲しいです」
「あ、はは、正直な方だな。分かった。あまり多くは渡せないが、今度入金しておこう」
金はいくらあっても困らないからな。もらえるのなら貰っておく。ミスリルの剣でも買っておこう。
「ああ、それと、それだけでは我々の感謝の気持ちは収まらない、どうか、このチケットで仲間と今までの疲労を癒してきてくれ」
そう言って渡されたのは、温泉チケットだった。って、この世界にも温泉あるのか!?……って驚いたとはいえ、別に興味はないけどな。
だって、前世でもめんどくさくてずっとシャワーだったし、家庭環境が貧乏なのもあったし、入る機会はほとんどなかった。風呂の良さがよくわからん。
まあ、みんなに渡しておけばいっか。
「えっと、まあ、ありがとうございます」
「ははは、君はしゃべるときはほんと声も小さく頼りないのだな。まあそれも君の個性だろう。今回は本当に感謝する」
ということがあり、チケットをユイ達に渡して、みんなで行ってくれと言ったのだが、「チー君ももちろん来るよね?」「チーも来るだろ?」などと脅され、ほぼ半強制的に行くこととなったのだ。温泉か、風呂なんていつぶりだ?まあ、のんびりできればそれでいいわ。
---
その頃。
魔王──いや、今はただの魔族になり果てた棒緑は、すべての魔素が制限された牢屋で孤独に過ごしていた。
「くそ、くそ、チー牛さえいなければ……あのクソチート勇者さえいなければ、俺が最強だったのに、畜生」
その後、封印の準備が整えば、自分が自分じゃなくなる。ずっと、何もないまま、何もできないまま、永遠の時を過ごす。
棒緑は恐怖でガタガタと震え始める。なんで。強いからこそ、今まで何でもできたのに。すべて成功していたのに。強さこそがすべてだと思っていたのに。逆らうやつはすべて黙らせてきたのに。
俺が悪い?そんなわけない!何もできないチー牛が悪い!努力不足なチー牛が悪い!弱い奴らが悪い!弱いくせに何もしないやつらが悪い!なのに、今の俺はなんだ?弱者みたいじゃねえか。
そう悩み始めた時、コン、コン、と歩く音が近づいてくる。そして牢屋に何者かが入ってくる。いや、これはチャンス。封印されればもう何もできない、悔いることも、また強くなることも、何も。媚びるなんてプライドが傷つくが、仕方ない。
「た、助けてくれ!俺はもう悪事はしない!魔王も降りる!だから!封印だけ、は……?」
魔王はそいつの顔を見て、急に震え出した。
「て、てめえ……、なに、何しに来た!」
「ひどいなあ。封印される君を助けに来たんだ。感謝してくれよ?封印よりはマシだと思うからさ」
「た、助けに?で、でも、その手に持ってるものは何だよ……おい、やめろよ……?」
そいつは笑顔で物騒なものを手に持っていた。それは、短剣だ。
「やめないよ?ああ、君みたいな調子に乗っているクソ陽キャを、いつかいたぶってみたいと思ったんだあ」
「な、陽キャって、陽キャになれない奴らの努力不足だろ……がはあ!」
いつの間にか、腹を短剣で刺され、ぐりぐりと抉られていた。魔素も持たない今の身体にとっては、痛みは今まで以上で、もうどうにもできないほどの激痛が走る。
「がはあああ……う、ぐあああああ!いてええ!やめろ、やめてくれえ!おれがわるかがはあ!」
そいつは真顔で、でも楽しそうに、次々と至るところを刺していく。あえて急所を狙わず、次々と。地獄だ……もう、速く殺してほしい……ああ、死にたい……こんな灼熱の痛みが続くくらいなら……
「そうだよ、その気持ちだよ。弱者男性は、チー牛は、お前らに、そういう気持ちを味わわされたんだよ」
「や、やめ、わるかった、はんせい、する……から……」
「は?やめないよ?だって楽しいもん!おまえらも同じことやってきたじゃん!まだまだ続けるから、それまで、生きて耐えてくれよ?」
「あ、あああ……」
------
その後、封印の準備が整い、元魔王を呼びに来た人が目にしたのは、牢屋にはいたるところに刺し傷や抉られた跡がある無残なバラバラの元魔王の遺体だった。誰がやったのかは、未だに分かっていないらしい。




