第100話 文系少女の過去 2
私はその後、王都に近い場所で倒れていたのを発見され、孤児院人に保護された。
私が拾われたこの孤児院では、親に捨てられたり、親を亡くした子供など、いわゆる訳アリのいろんな子供がいた。私も、ここで暮らしていくことになるのだろう。
しばらく孤児院で暮らしていた。周りの子たちも、気を遣って話しかけてくれる人もいた。だけど私はあの体験がトラウマで、人が怖くて、怯えてしまって、誰とも話すことができなかった。
私は忌み子だから、きっとまた恐れられる、殺されるかもしれないと、自分から距離を取っていた。
それでも、孤児院の先生だけは、根気よく私にも優しく接してくれたおかげで、私は精神を完全に病まずに済んだのだと思う。
あの魔法師に忌み子と言われて以来、私の魔法は厄災だからと、魔法の研究も、使うこともなくなった。それでも結局、魔法は好きだった。私には魔法しかなかった。
だから、誰にも見つからないように、魔法の研究は一人でずっと続けた。もちろん、先生にも黙っていた。だって、また“忌み子”って言われるかもしれないから。私はずっと孤独だった。
村にいた時は詠唱短縮を自分で見つけ、今回孤児院で研究していた結果、習得したのが無詠唱魔法だった。できるだけ静かに、誰にもバレないようにと、魔法を研究していたら、偶然できたものだ。
この世界の魔法教本にも、無詠唱魔法については載っておらず、あくまで都市伝説レベルくらいに語られる。私が無詠唱魔法を開発できたのは、一言で言えば歴史的レベルですごいことかもしれない。
でも、これは私だけのものにする。本当は誰かに褒めてほしい。でも、人が怖い。また前みたいに嫉妬を買うかもしれない。バレないようにしないと……。
と思っていたのだが、そんな孤児院で、少し変わった子がいた。ふわっとした赤い髪を持った、目つきの鋭い女の子だ。私が見る限りでは、その子は、周りから少し嫌われている。
なぜって、話しかけられても、突き放すような言葉を掛ける。
「ランちゃん、こっちで遊ばない?」
「別に。でも、あんたたちがいいなら遊ばなくもないけど」
「じゃあいいや」
「え」
要は、自分に素直になれないんだろう。その子は本当は、遊びたいんだろうが、素直になれず相手を遠ざけるような言葉を話す。
ちょっとかわいそうとは思うけど、私には関係ない……と魔法の研究にいそしんでいたのだが、その子は私のことが気になるようで、時々私の魔法の研究中に覗いて来たりする。
「あんた、いつもそんなことしてるけど、楽しいの?」
「ひゃうっ!?」
「ちょ、驚き過ぎなんだけど」
そりゃあ、集中しているのに急に話しかけられるから、驚くに決まっている。そもそも、嫌われるのが怖くて、あえて孤独でいるのに。この子はほぼ毎日こっちに来る。
多分、私もこの子のことを特に嫌うような態度を取ってないから、この子も何度も来ていいと思っているんだろう。
一応、その子の名前は”ラン”というらしい。
ランちゃんには申し訳ないけど、そろそろ集中したいから、私に関わらないでほしかった。だから遠ざけようとした。
「あ、あの……私に……近づかないでくだ――」
「すごいのね、さっきの魔法、無詠唱?その紙、なんて書いてあるの?見たことない字。魔法って、楽しそう」
「え?」
ランちゃんは、私の無詠唱魔法を見て、驚かない、むしろ楽しそうだと言ってくれた。
この子は、純粋なのか?一応、私より1個年上なのらしいのだが。
「わ、私が……怖くないんですか?」
「え?なにが怖いの?むしろ可愛いじゃない。ちっちゃくて」
「ちっちゃっ!?え、いや……」
ちょっとだけコンプレックスだから言わないで欲しい……。背伸ばしたい……ていうか、正直ランちゃんも私ほどじゃないけどちっちゃいくせに。
「そうだ、あたしにも教えてよ。無詠唱魔法」
「え、あ……えと、その……はい」
断れる性格でもない私は、押し切られる形で、その日から、私はランちゃんに魔法を教えることになった。
でも、正直怖かった。いつかまた、あの闇の力が暴走すれば、きっとランちゃんは、私を……。そうならないで欲しい。
その後も結局、あの闇の力が再び暴走することなく、ランちゃんとは魔法を勉強し合う仲になった。
ランちゃんは一度のめり込むと、とにかく吸収が早く、次々といろんな魔法を習得していく。しかも、私のように無詠唱魔法にも成功した。ちょっと羨ましいな、そんなすぐにできるようになるのは。才能だろう。
嫉妬しちゃうけど、それよりもランちゃんとの孤児院での生活は楽しかった。
ランちゃんは笑顔で私に言った。
「二人で魔法を極めて行きましょ!」
「は、はいっ……!」
私の心の救いだった。
……でも、薄々感じていた。この孤児院の不思議さに。1、2週間に一人、また一人と減っていく子供たち。
ランちゃんもいつの間にか、孤児院から消えていた。しかも、その日から、孤児院に治安隊の人たちが来て、私を含め、残っていた他の子どもたちも、別の孤児院に引き取られることになった。
後から知った話だが、実は、孤児の人身売買が行われていたらしい。恐らく、その悪事がバレたのだろう。
だから、私の番が来る前に、別の孤児院に引き取られ、助かったということだろう。つまり、あの時消えていった子たちは……。
ランちゃんは……無事なのだろうか。きっと、大丈夫だよね、魔法、上手かったし。でも、それ以来、学園に通った今も、ずっとランちゃんには会っていない。学園で再開できるかとも思ったけど、見かけなかった。
結局、私はその後、新しい保護先でも、友達ができることはなく、再び孤独な日々が過ぎていった。
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数年後、私は13歳になり、孤児院の支援で学園に行くことになった。本当は行きたくない。人が怖い。でも、学園は義務。行くしかなかった。
入学後、もちろん学園でも孤立した。いや、自分から距離を取っているのだから当然かもしれない。
でも、今回は誰も私にかまわずにいてくれるから、むしろ助かった気もする。たまに、ランちゃんとの楽しかった思い出も蘇る。あれは、本当に偶然の出会いだったんだと思う。
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ある日の放課後、私は学園の図書館の前にいた。図書館があるなんて知らなかったけど、まるで、この場所に導かれるように、ここにいた。私は恐る恐る、大きい扉を開けて図書館に入る。
中は私の実家の本屋とは比べ物にならないくらい広い。見渡す限りの本だ。
その景色を眺めていると同時に、両親の存在や、いろんな本を読んでもらったこと、魔法を褒めてもらえたこと……いろんなことを思い出し、目に涙が浮かびそうになる。
そんな私の様子を見ていたのか、受付にいた眼鏡をかけた図書委員の女子生徒が少し困った顔を話しかけてくれた。恐らく先輩だろう。
「えっと、君、大丈夫?」
「ひっ!?」
「え?本当に大丈夫?怖がらないで、安心して、何にもしないから」
「……驚きすぎてすみません」
その図書委員の先輩はただまっすぐ、私を見てくれる。なぜだか分からないけど、久しぶりの安心感に包まれた。
私は事情を話そうと思ったけど、この過去だけはやっぱり話したくなかった。私は、一人、無意識とはいえ、人を殺してしまった。この人もきっと私を忌み子と呼ぶ。私は思いとどまった。
でも、ここは安心できそうな気がする。静かで、人も少なくて、実家の懐かしいような感覚。そして優しそうな先輩。
この場所が私の居場所、かもしれない。そう思って、緊張で震えながらも聞いてみた。
「あ、あの……図書委員は、募集してます……か?」
すると、ぽかんとしていた先輩はすぐに頬を緩ませた。
「……ああ、募集を見てきたのね?なるほどそうだったんだ。うん、歓迎だよ。でもさすがに利用者に怯えるのはほどほどにしてね?」
……そうして、私は図書委員になった。
図書館は良いものだ。本をめくる音が聞こえるほどに静かで、人は少ないし、受付の仕事も簡単だ。返却期限を書いてしおりを挟み渡すだけ。返却された本を受け取るだけ。
人と会話する必要もないので、安心できる。ここなら、誰からも怖い思いをせずに過ごせる。
とはいえ、人間不信の私には、まだ人に怯えることも多い。なぜかその姿が可愛いと噂されているみたいだけど……。可愛くなんかないもん、恥ずかしい……。




