第99話 文系少女の過去
シオリー視点 回想
残酷描写注意
私は、ごく普通の平凡な村の娘として生まれた。
多分、愛情を注がれて育てられた。母も父も優しかった。一応、兄もいたけど、あんまり私とは関わりは無かった。怖い人ではなかったと思う。
小さいころから魔法に興味があって、魔法の本ばかり読んでいた。その甲斐もあって、魔法を次々と覚えていった。それで両親にもたくさん褒めてもらえた。それがすごく嬉しかった。
私は詠唱がめんどくさいと感じて、詠唱を短縮する術を自分で見つけた。これも褒めてもらえるどころか、ものすごく驚かれた。
私は心が跳ねそうなくらい嬉しかった。私のことを見てくれて、褒めてくれる。
こんな毎日が続けばいいなって、願ってた。そんな平和な日常は、一瞬で崩壊することになった。
きっかけは、私が詠唱短縮を見つけ、それらの知識をすべて本にまとめたことだった。
両親もこれはすごいと、これを世に出せば大出世して売れると見込んだ。実家は小さな本屋を営んでいたので、その教本も店に並べて販売していた。
その成果はすさまじいもので、みんなその本を手に取り、大発見かのように驚きながら買っていった。
「やっぱり、シオリーの魔法はみんなも認めてくれているみたいだね。やっぱすごいわ、シオリー」
「そうだな。今日は豪勢な料理にでもするか」
「そうね、今日は料理頑張っちゃうわ」
両親が私の教本の話題で盛り上がっている。初めて、認められた気がした。兄も一緒に喜んでくれていた。
……でも、それを知った村の魔法師はそんな私の才能を恨んだ。目立ち過ぎたのだ。
ある日、その魔法師たちは、本を買った人々の家に侵入し、その本を次々と燃やしていった。その後、私の実家、本屋にまで火をつけた。
私はちょうど魔法を試すために遊びに行っていて気づかなかった。異変を感じて、家に帰ってくると、そこはすでに赤い炎で包まれていた。
目が一瞬で乾きそうなほどの熱線。じゃらじゃらと音をたてて崩れていく木製の支柱。私はただただ、今まで思い出の詰まった場所が崩れ去るのを、見ているしかなかった。
母も父も兄も、その中で焼け死んだ。
私を、何度も褒めてくれた、優しくしてくれた両親を亡くして、私は涙が出なくなるまで、泣き続けた。
いくら何でも、ひどすぎるよ……。私が、調子に乗らなければ、きっとこんなことにならなかったのかな。でも、私は悲しむ暇も与えられず、魔法師の標的は私に向いたのだ。
---
いつの間にか気を失っていた私は目が覚めると、見知らぬ小屋の中で、椅子に縛り付けられていた。
家族を失った私は、行く当てもなく、ただ適当な道を歩いていたはず。その後の記憶がさっぱり消えていた。
周りを見渡すと、目の前に村の魔法師が数人いた。魔法師の手には、動物を調教するための鞭を持っていた。それを見て私はすぐに察して、身震いをする。
咄嗟にここから逃げようとしたけど、縛られていて身動きが取れない。
「おい、逃げようとすんな」
そしてついに、魔法師は怯える私を鞭で一発叩き続けた。叫びたくなるほどの激痛に、なんとか歯を食いしばって耐える。それからは何度も何度も叩かれた。ひたすら痛みに耐えた。
普通なら耐えられないと思う。でも、こんな物理的な痛みよりも、両親を亡くした悲しみのほうが、もっと辛かった。
そして私の悪い癖が出る。自責だ。頭の中でただひたすら自分に問い詰める。
なんでこうなった?私のせい?私はなんで妨げられるの?誰のせい?魔法のせい?母も父も兄も、何も悪いことなどしていない。じゃあ、私が悪いの?いや、違う……。
こ・い・つ・ら・が・悪・い。
そう思った瞬間、何かプツンと斬れた音がした気がした。だんだん憎悪が湧いてきた。こいつらは、人間か?人間の皮を被った悪魔か?そうだ、こいつらは人間なんかじゃない。嫉妬に狂った悪魔だ。
どちらにしろ、私はこのままだと殺される。今なら何でもできそうな気がした。私は怒りのままに、消えてしまえと鞭で叩いてくる魔法師に手をかざした。
……しかし何も起きない。鞭を持った魔法師はなんだ?と首をかしげるも、すぐにバカにするように笑い始める。
「何の真似だ?おい。そんなことしても俺はやめね……あ?」
だが、その瞬間、その魔法師はいきなり首を抑えて苦しみだす。私は無意識に手に力を籠める。どんどん力強く、握る力を強めていき手を閉じていく。そして、拳を完全にギュッと握った。
その瞬間、その魔法師の首が真上に吹っ飛び、残った身体はそのまま崩れ落ちた。私の顔に飛び血する。
その時は無意識で、私からは紫色のオーラが出ていたことに気づかなかった。
周りにいた魔法師はその光景を見て、恐怖の表情に変わり、悲鳴が上がる。
「な、なんだその禍々しいオーラは!?」
「首が吹き飛んだ!?お前の仕業か!?」
「魔法の才のあるこのガキならやりかねないぞ」
その魔法師たちの声で、私は正気に戻る。そしてあたりを見回すと、生首の死体が目の前に倒れていたのだ。
気持ち悪くて喉に何かが込み上げてきて、吐きそうになる。そして、魔法師は一気に団結し、罵声を浴びせてきた。
「お前は悪魔の子だ!”忌み子”だ!」
「そうだ!こいつは厄災をもたらす”忌み子”だ!殺せ!」
「はやく殺せ!処刑だ!」
「殺せ~~っ!」
私は怖かった。罵声が何度も耳をつんざく。そして魔法師たちは次々と詠唱を始める。やばい。殺される。逃げなきゃ……。しかし気づけば、自分でやったのか、縛っていた縄はほどけていた。
それに、魔法師たちが詠唱で少しの間なら動けない。逃げるなら今しかなかった。入り口は塞がれてる。痛いけど、殺されるくらいなら!
私は風魔法で自分を投げ飛ばし、窓から突き破って小屋を脱出した。正直、破片が刺さって痛かったけど、そんなことは言ってられなかった。
そのまま地面を転げ落ちた。擦り傷や破片の切り傷で発狂しそうなほどだった。でも、すぐに立ちあがり、どこかも分からない道をひたすら走っていった。未だ聞こえてくる魔法師たちの声。
「逃げたぞ!追え!」
「忌み子は殺せ!」
私は思った。さっきの無自覚の力は、厄災なのだと。私は”忌み子”なのだと。
もう、誰も、私を、人として見てくれはしない。もちろん、もう、褒めてくれる人もいない。そのまま、村から離れた森のあたりで力尽きて、気を失っていた。




