第101話 文系少女の過去 3
ある日、背の高く顔立ちのいい男子生徒が図書館に来た。男子慣れしてない私は、かっこいいなあ……とは思ったけど、見ないふりをした。
一瞬、私を珍しそうに見たが、すぐ視線を逸らす。彼も目をすぐに逸らしていた。その後も私は彼を気になって、バレないように目で追っていた。だけど、その人が手に取った本のタイトルを見て驚いた。
それは……私の書いた魔法教本だった。
図書委員の私でも、その本がこの学園にあるなんて気づかなかった。そもそも、あの時、すべて燃やされたはずなのに。そういえば、どんな本でも、刊行時に必ず、1冊学園に寄贈される仕組みだった。
だから私の本が……と納得していた。でも、それとは別に、すごく怖かった。あの本のせいで、両親と兄は殺された。あれは厄災を呼ぶ本かもしれない。
でも、その人は夢中で読んでいた。他の本ではなく、なぜ私の本なのか。私と同じ、魔法が好きなのかな……とにかく彼が気になって、彼が来るたびにちらちらと見ていた。逆に彼は私のことを見向きもしないが……。
しかし、数か月経ったある日、いつも図書館で本を借りず読んでいただけの彼が、ついに本を持って受付に来た。突然のことに私は怯えながらも貸し出し処理を進める。
こ、ここはなんで私の本を読んでいるのか聞けるチャンス?思いきって話しかけようとした。
「あのっ」「あの……」
お互いハモってしまい、少し恥ずかしくなった。名札には”チー・オンターマ”と記されていて、青いプレートから1学年上の先輩だと分かる。
先輩は困ったように首をかきながら話す。
「えっと、お先にどうぞ……」
「え? は、はい……」
え、わたしから!?うう、いざ喋るとなると緊張する……。私は声を震わせながら声を出した。
「えっと……その本なんですが、お好きなんですか?」
「え?あ、好きというか、わかりやすいもので」
「そ、そうなんですか。えへへ……あ、その……ごめんなさい。……来週までに返却をお願いします」
「あ、はい」
先輩は優しい人だと思った。しかも、私の本を“わかりやすい”と言ってくれた。それだけでうれしかった。
すると、先輩は目線を私の胸に移し……名札を見て少し驚いた様子だった。きっと、私が著者だと気づいたのだ。
「えっと、もしかして、この本の、著者、だったりします?」
やっぱりバレてたみたいで、自分でも想像以上にビビってしまう。
「ひえっ!?えっと、その……あの、お……うぅ……そ、そうです……。き、気持ち悪いもの書いて、すみません……」
「いやいや、誰も気持ち悪いとか言ってないっすけど……」
「はう!?す……すみません……」
うざがられたかも……でも、これだけは聞きたい。
「あ、あの……ですね……と、特に……どの部分がよかった……とか、ありますか? い、いえっ、なんでもないですっ! わ、忘れてくだしゃい!……うぅぅ……」
かんじゃった~~!恥ずかしくて蒸発しそう……でも、先輩は笑わずに、こう言った。
「えーっと、その……あなたの説明、全体的にすごくわかりやすいです。あと、その、詠唱短縮のところは……何度も助けられました、です」
「そ……そうなんですか? 詠唱短縮を……マスターしたんですか?」
「マスター、とまではいかないですけど」
「それでも、すごい……です! 周りの人は、みんな……難しそうにしてましたから……」
私としたことが、つい話し込んでしまった。ランちゃん以来、久しぶりに、魔法について語れそうな人が現れたから……。
「あ……すみません。つい、話しすぎちゃいました……」
「あ、いえ、その、著者に会えて光栄です」
両親を亡くして以来、ランちゃん以外と、こんな楽しい会話はなかった。
もっと、この人と話をしてみたい……。でも、私から誘うのも……でも……う、うう、勇気を出せ私。
「そ、そんなことは……でも……読んでくれる人がいて、ちょっと安心しました。私の本が……人の役に立ててるなら……。私、この力で……忌み嫌わ……あ、なんでもないですっ。その……また、お話できれば……なんて……」
危ない、忌み子のことを言うところだった。言ったらきっと嫌われる。先輩は、一瞬目をピクリとさせたが、特に気にする様子もなく、快諾してくれた。
「あ、はい、その、俺でよければ」
「ほんとですか?よかった……です……。では……また」
「あ、はい。また……」
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それから、先輩とはよく話すようになり、無詠唱魔法も教えた。けど、私が近づけばいつかまた災いが起こる気がして、適度な距離を保っていた。
そして、ある日。図書委員の仕事を終え、学園を出た直後のことだった。
私は一瞬で何者かに襲われ、睡眠魔法の魔道具で眠らされた。目覚めた時、見知らぬ建物の中で、手足を拘束されていた。
……しばらくして、私は急に恐怖に襲われる。あの日のトラウマが蘇る。私はきっと、あの村の魔法師につかまって、ついに今日、処刑されるのかもしれないと思った。
そう思ってずっと震えていたけど、数時間後……突如現れた目の前の人影を見た瞬間、涙が出そうになった。
チー先輩が、助けに来てくれた。
そして私を攫った犯人は神声教団だと分かり、なぜか安心した。またあの魔法師だったらと思うと……。
そのまま先輩はスキンヘッドに苦戦しながらも追い詰めたが、逆に殺されそうになった。
私は、大切な人が傷つけられそうになって怒りが爆発し、再びあの忌まわしい力――超能力魔法が発動してしまった。
スキンヘッドは首を押さえて苦しみ、私は意識が飛んでいた。
「待て!殺すな!そのまま思いきり地面にぶん投げろ!」
いつものゆるいしゃべり方ではない、血気迫る先輩の声で正気に戻り、言われた通りに地面にぶん投げた。
それよりも、私はまた……あの忌み子の力を使ってしまった。それを、先輩に間近で見られてしまった。
私は壁に後ずさりして、身体を震わせる。また孤独に戻るんだ……。これでまた、忌み子として恐れられるんだ。あの村の魔法師のように、先輩は私を――。




