僕、どうなるの?
「大舘ー!」
「なんでございますか、上様?」
「たこ焼き来たから一緒に食べようよ」
「ご一緒させていただきます」
年が明けても両軍のにらみ合いは続き、決着のつかないまま和睦交渉が進められていた。
義晴は届いたたこ焼きを頬張りながら、大舘に尋ねる。
「和睦交渉は順調?」
「こちら方では朝倉教景殿が、義維方は三好元長殿が中心となって調整中でございます」
「ほうほう」
「双方とも同意し、人質まで交換しております。このまま何事もなければ交渉成立でしたでしょうな」
「うん? 何事も無ければ成立でしたでしょうなってなに? なにかあったの?」
「はい、実は柳本賢治殿と三好政長殿が、今回の和睦に猛反対しておりましてな」
「え、反対?」
「はい、そのまま陣を離れてしまいました」
「どっか行っちゃったの? 賢治さんは高国さんのせいってわかるけど、三好政長はなんで? 同じ三好家が交渉担当してるのに」
「詳しくはわかりませぬが、今回の和睦交渉を自分たちではなく、遅れて参戦した元長殿が主導していることが、面白くなかったのではないでしょうか」
義晴は手元のたこ焼きを見つめた。
「どこの家も仲悪すぎるよ~」
「将軍家も例外なくですな」
「僕らまで入れなくていいじゃん!」
それぞれの思惑が絡み合い、和睦交渉は思うようにまとまらなかった。
そして大永八年三月――。
「上様ー!」
大舘が珍しく慌てた様子で駆け込んできた。
「どうしたの、そんなに慌てて」
「の、教景殿が帰国されました」
「え、教景さん帰ったの? なんで? 僕聞いてないよ?」
「どうやら高国殿とひと悶着あったようで」
「え! また高国さん?」
「はい、どうやら」
話は少し前に遡る。
兵力では大きく上回りながら、決戦には踏み切らない義晴方。
和睦による決着を目指す教景に対し、高国は軍事的な勝利を求めていた。
「朝倉殿! 今こそ決戦の時! なぜ兵を引くのですか! 今なら十万対二万ですよ? ここで叩けば終わります!」
「もはや勝敗は見えております。無理に兵を損なうより、和睦を進めて有利な条件を引き出すべきかと」
「勝敗が決しているなら、なおさら今叩くべきでしょう! せっかく将軍家のもとに越前・近江の精鋭が集結したんですよ! 今こそ一斉に攻め込み、三好・晴元を根絶やしにするべきではないのですか!」
「高国殿、お言葉ですが戦の理をご熟考くだされ。敵の陣構えは堅固であり、力攻めを仕掛ければわが軍に甚大な被害が出ますぞ」
「しかし! ここで兵を引いたら、これまでの苦労が全部無駄になるでしょう! 将軍家の威光だって地に落ちますよ!」
教景の表情が険しくなった。
「威光のために兵を死なせるおつもりか! その先の不確かな戦のために、わが軍の精鋭たちに血を流せと申すのですか?」
「うちからもちゃんと出しますよ。別に朝倉軍だけに戦わせるわけではない! もし後で攻め立てられたら今回の比じゃないくらい被害にあうかもしれないじゃないですか!」
「だからその先の不確かな戦のために、今わが軍の兵は出せぬと申しておるのです! 何より越前は加賀一向一揆と隣り合わせでございますゆえ、不要な戦で兵を失うわけにはいきませぬ!」
「今ここで決めきらず、後々また戦になった時に、今回動かなかったことを悔やんでも遅いですよ!」
両者の意見は、最後まで交わることがなかった。
和睦交渉そのものも停滞を続けていた。
やがて教景は、朝倉勢を率いて越前へ帰国した。
「――とのことです」
「高国さんさぁ~。言ってることわからなくもないけど、かなり私情挟んでるよね? それで教景さん怒って帰っちゃったの?」
「はい。なかなか和睦を進められなかったこともあるでしょうが、帰国されてしまいました」
義晴は頭を抱えた。
十万まで膨れ上がった軍勢。
行き詰まる和睦交渉。
その中心にいた朝倉教景。
一つずつ、状況が崩れていく。
「これからどうなるの? 晴元も『行けたら行く』って言って上洛して来ないし」
大舘も腕を組んだ。
「うーん、困りましたな」




