帰ってきた将軍
「上様ー! 朝倉軍が到着いたしましたぞ!」
大舘常興の声に、義晴はぱっと顔を上げた。
「おっけおっけ! んじゃご挨拶に行こうか」
京への帰還を目指す義晴のもとに、待ち望んでいた越前朝倉氏の援軍が到着した。
だが、軍勢の先頭にいたのは義晴が予想していた人物ではなかった。
「朝倉弾正左衛門尉孝景が名代、朝倉九郎左衛門尉教景にございます。我が主・孝景より、公方様の危難をお救いし、幕府の威信を取り戻すべく、越前精鋭一万の兵を率いて馳せ参じました。この教景の命、公方様の御身と天下の静謐のために捧げる所存にございます」
「あれ、大舘? 朝倉って孝景さんが来るんじゃないの?」
「どうやらベテラン、越前の軍神朝倉教景殿がいらしてくださったようですな」
「え、軍神? じゃあ真面目にしないと僕も危なそうじゃん!」
「普段からふざけている自覚があったのですか?」
義晴は一度咳払いをすると、先ほどまでの軽い調子を引っ込めた。
「越前より遠路はるばる、誠に頼もしく思うぞ。朝倉の忠節、深く感じ入っておる。京の都にはびこる逆徒を討ち払い、将軍家の威光を再び示すため、その方の武勇に天下の命運を託す。頼みにしているぞ!」
「……」
「えっ、なに?」
「なんでもございませぬ。とにかくこれで朝倉軍一万、六角軍一万三千、高国・尹賢軍五千に我が直轄軍二千で合計三万、ようやく出陣できますな」
こうして義晴方の軍勢は京を目指した。
大軍を集めた以上、激しい抵抗が待っている――。
少なくとも義晴は、そう思っていた。
ところが。
「あれ、大舘?」
「なんでございましょうか、上様」
「思ったより簡単に京に入れちゃったね」
「拍子抜けするほど、あっさりでございましたな。八ヶ月ぶりのご帰洛、おめでとうございます!」
「あ、うん」
義晴は、八ヶ月ぶりに京へ戻った。
だが、将軍が京へ帰るというのは、ただ自分の家へ戻るのとはわけが違う。
帰京を聞きつけた公家や武家、味方の諸将たちが、次々と義晴のもとへ挨拶に訪れた。
戦より先に待っていたのは、将軍としての仕事だった。
「うへぇ~、疲れたよ大舘~。一体何人挨拶に来るんだよ~」
「将軍が京に戻られたのですから当然です、まだまだ来ますぞ! さあ頑張ってください、上様!」
「もう嫌だよ~めんどいよ~」
「上様の人徳で集まった精鋭たちも上様の対応をみておられますぞ? ちゃんとしているところを見せないと精鋭たちが帰ってしまうかもしれませぬぞ?」
「う~わかったよ~、やるよ~。けどあと少しだけ休憩させてぇ~」
その後、義晴は若王子から東寺へと陣を移した。
京へ戻ることには成功した。
しかし、それで戦が終わったわけではない。
義晴方が京で軍勢を整える一方、敵方もまた動き始めていた。
テロレロリン♪ テロレロリン♪
「お、鳴った! あー東寺案件か、どうしようかな?」
ウバ之助は届いた依頼を眺めた。
「最近あの辺、武士が集まってて危ないところだろ? 行くの?」
横から画面を覗き込んだカン十郎が尋ねる。
「義晴さん帰ってきてるって噂だし、東寺だったら義晴さんの可能性高いだろ? 取るわ! おっしゃ、義晴さんだ!」
「うわぁマジかよ? ウバ之助さんそれ届けられんの?」
「チップあるからまあ行けんだろ?」
「えっ? チップ? 俺のところそんなのねーよ?」
「俺んところあるぞ」
「いいから早く行けや!」
「おう! じゃ行ってくるわ!」
ウバ之助は荷物を受け取り、東寺へ向かった。
京の中には以前より明らかに武士の姿が増えていた。
それでも道を選び、進めるところを進んでいく。
だが、東寺へ近づくにつれ、様子がおかしくなる。
武士。
槍。
軍旗。
そして、その数がどんどん増えていった。
義晴が東寺へ陣を移した頃、柳本賢治の丹波勢、三好元長らの四国勢、畠山義堯ら敵方の軍勢も京へ進出していた。
彼らは義晴の陣所である東寺の東北を取り囲むように展開し、圧力をかけていた。
「ウバ之助さんのところチップ制度があるんだってさ。ナウ兵衛のところはある?」
「私のところにチップ制度は無いですね」
「だよな! ウバ之助さん義晴さん案件だとチップ貰えるからってリクエスト受諾してんだよな~。そんなに貰えるのかね」
「義晴さん案件でしたら私もいただいたことありますよ? 手渡しの時に」
「えっ、マジかよ! 俺貰ったことねーわ」
そこへ、遠くからウバ之助が戻ってきた。
「おーい! お疲れ!」
「あ! お疲れ様ですウバ之助さん!」
「やべえ! やべえって! 義晴さんのいる東寺の周り三好とか柳本の軍に囲まれてたって!」
「マジかよ! やべーじゃん! ウバ之助さん商品どうしたの?」
「そんなの三好の兵の優しそうな奴に声かけて、『配達なんでちょっといいスか?』って聞いて門の前に置き配してきたわ! 義晴さん大丈夫かな? あ!」
「どうしたんですか?」
ウバ之助が端末を覗き込む。
「さっきまで無かったチップが追加されてる! よかった義晴さん無事だったんだ!」
「ウバ之助さん、マジすげーわ」
その後も何度か戦闘があったものの、決定的な大合戦には至らなかった。
十一月末には朝倉勢の第二陣が到着。さらに大和や河内からも援軍が加わり、年末には、敵方およそ二万に対し、義晴方はおよそ十万にまで膨れ上がった。
五倍である。
それほどの兵力差がありながら、戦は決着しなかった。
そして京では、両軍の間で和睦交渉が行われようとしていた。




