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とある将軍の一日

大御所になったからといって、暇になったわけではない。


僕には僕の仕事があるのだ。


何しろ幕府のことから家族のことまで、毎日考えることが山ほどある。


そう、できる男の朝は早い。


「大御所様、大御所様! 朝ですよ。早く起きてください」


枕元から慶寿院ちゃんの声がする。


「もう少しだけ……」


「大御所様!」


布団を取られてしまった。


憎たらしい朝日が部屋へ差し込んでおり、まぶしくて目も冴えてきてしまった。


ああ、さようなら。僕のまどろみ。


そしておはよう。僕の忙しい一日。


「大御所様、おはようございます」


そんなことを考えていたら、僕の奥さん慶寿院ちゃんから先におはようを言われてしまった。


「ん、慶寿院ちゃんおはよう」


僕はささっと支度させられ、朝食を食べる。


朝の味噌汁は身体に染みるねぇ。


朝食を食べた後はいよいよお仕事の時間だ。


僕は上座に座り、大舘たちの報告を聞いていた。


うーん、今日のおやつはたい焼きにしようかな?


「大御所様! 大御所様! 聞いておられますか?」


大舘に呼ばれて我に返った。


おっと、ちょっとぼーっとしてしまった。


話は聞いていなかったが、この感じなら大舘に任せればなんとかなるだろう。


「うむ。ちゃんと聞いてたよ。大舘! 任せた!」


困ったときには大舘に任せればなんとかなる!


いつもありがとう大舘! あとでたい焼きをあげよう。


みんなで集まった後は、個別の仕事が待っている。


僕は手元の書付を見ながら、一つずつ仕事を振り分けていった。


「はい、これは大舘! こっちは大舘晴光! あーこれは僕だなぁ」


ん? 視線を感じる。


視線の主を探すと慶寿院ちゃんだった。


なんだろう?


大舘も気づいたらしい。


「慶寿院様、どうなさったのですか?」


「いえ、大御所様のお仕事をなさっている姿を見ておりました」


「そうでしたか。大御所様はああやって振り分けされるのも仕事なのです」


「そうでしたか」


おお! 大舘! もっと僕が忙しく働いているんだってことを慶寿院ちゃんに伝えるのだ!


うーん疲れた。そろそろお昼にしようかな。


昼食はうどんだった。


僕は食べ過ぎてしまうと、午後の業務に支障をきたしてしまうため、お昼ご飯は軽めにするのだ。


昼食後は少し休憩してから、息子の義輝に会いにいった。


「おー義輝、お父さんだよー、ばぁ!」


うむ、義輝も笑っている!


義輝と遊んで気力を回復させた僕は、おやつの時間が近づいていることに気づいた。


おっと、早く注文しないと!


午前中に決めたたい焼きはっと、あ、たこ焼きもいいな。どっちも頼んじゃえ!


二つも頼んでと注意されるかもしれないが、それは一人で食べた場合である。


大舘と二人で食べるんだからその注意は的外れである。


二人で二つ食べたら一人が食べる分は一つ分なのだ。


端末に配達員の名前が表示された。


「あっ配達員が決まった! ウバ之助さんじゃん!」


ウバ之助さんはよく僕に届けてくれる配達員さんのうちの一人だ。


どこにいても届けてくれる仕事熱心な人なのだ。


チップは忘れずに付けなくては。


そんなこんなですぐに配達完了通知が届いた。


それでは回収に向かいますか!


たい焼きとたこ焼きを受け取ったところで、僕はあることを思いついた。


「大御所様」


「うわっ! 大舘? 呼ぶ前から現れるなんて」


いつの間にか大舘がそばに立っていた。


「大御所様の行動パターンはだいたい把握しておりますゆえ」


少し驚いたが、僕は大舘にたこ焼きを渡し、あることをお願いした。


大舘はたこ焼きを持って厨房へ向かった。


しばらくして、大舘が戻ってきた。


「大御所様、お待たせいたしました。準備が出来ましたぞ」


「ちゃんとやって貰えた?」


「はい。ばっちりでございます」


「じゃあやるよ大舘」


「はい。大御所様」


たこ焼きを前にじゃんけんをしようとしたその時だった。


「あら、大御所様、大舘殿なにをされているのですか?」


慶寿院ちゃんが顔を出した。


「あ、慶寿院ちゃん。たこ焼きとたい焼きあるから一緒に食べようよ」


「ご一緒してもよろしいのですか?」


「もちろんだよ! 一緒に食べよう!」


そう言って勝手に参加者を一人増やす僕。


「じゃあ慶寿院ちゃんから一個どうぞ!」


大舘、えっ!て顔するな!


「気にしなくていいから、一つ食べてよ。どれでもどうぞ!」


「? それではいただきます」


慶寿院ちゃんはたこ焼きを一つ選んだ。


「はい、召し上がれ」


「ぶふぉ!」


「あひゃひゃひゃ!」


「ふぉっふぉっふぉっ!」


大舘まで笑い出した。


「うぇ、大御所様これは一体なんですか!」


おお! さすがお嬢様! 決して口に入れたものを吐き出すようなことはしなかったな。


めっちゃお茶で流し込んでるけど。


「はい。僕のお茶もどうぞ。実はたこ焼きの中に一個だけからしを入れたものがあったんだよ」


「まさか一個目で引き当てるとは。いざとなったら私がと覚悟しておったのですが」


そんなこと言いながら大舘、まだふぉっふぉっふぉっ!て笑ってるよ。


「うぅ……」


かわいそうなので、口直しに甘いたい焼きを渡す。


「これは大丈夫ですよね?」


ものすごく警戒されている。


「うん。これにはなにもしてないよ」


「では、」


先ほどのことがあったからなのか、たい焼きを少しずつ口に入れていく慶寿院ちゃん。


そうか、慶寿院ちゃんはたい焼きを頭から食べる派なのね。


「じゃあもう安心だね。残り食べちゃおうか!」


「そうですな」


「私、たこ焼きは結構です」


いただきます!


「ぶふぉ!」


「ぶふぉ!」


僕と大舘の声が重なった。


なんだ! なにが起きた?


イメージしていた味と違うなにかが口の中に広がった瞬間、ぶふぉ!っとなっていた。


「これ全部にからしを入れよったな」


大舘も苦しそうだ。


口の中が変だ。お茶を飲もうとしたが、さっき慶寿院ちゃんにあげてしまったので残っていない。


マズい! 非常にマズい!


そのとき、慶寿院ちゃんが持っているたい焼きが目に入った!


そうだ! たい焼きがあったじゃないか!


僕は紙袋からガサゴソとたい焼きを取り出す。


大舘も苦しんでいるようだが、まずは僕が先だ。


ゆるせ大舘、お前にはお茶があるだろう!


苦しんでいる大舘を無視して、僕はたい焼きにかぶりつく。


うん。甘~い。


「あっはっはっはー」


急に大声で笑いだす慶寿院ちゃんに、僕と大舘は顔を見合わせた。


「あっはっはっ、大御所様たい焼きお腹から食べてる! あっはっはっはっー」


大笑いである。


まあ楽しそうだからいいか!


「大御所様、私にもたい焼きを」


     ◇


後で大舘から聞いた話によると、


厨房の者は「全部に穴開けろとかなんか色々言われてよくわからなかったんで、全部に入れときました」と答えたらしい。


当然、大舘は「ばかもの!」と叱ったそうだ。


まあそんなこともあるよね。


その後はまた義輝と遊ぶことにした。


「義輝~! こちょこちょ、ハハッ」


義輝はキャッキャキャッキャと笑っている。


うむ! かわいい!


慶寿院ちゃんも笑って見ている。


そんなこんなで夕食の時間になった。


慶寿院ちゃんが僕の顔を見て、なぜかくすくす笑っている。


「どうしたの?」


「いえ、先ほどのたい焼きを思い出してしまって」


「ええっ! まだ笑ってるの!?」


「だって、お腹から召し上がるんですもの」


そんなに面白かったのか。


まあ、笑顔なのはいいことだな! うん!


夕飯を食べ終わり、今日も一日が終わろうとしていた。


仕事もしたし、義輝とも遊んだし、おやつも食べた。


うむ! 充実した一日だったな!


「いやー今日もよく働いた! じゃあおやすみ!」

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