僕、やっと戻ってきました!
天文二年十二月、細川晴元は義晴の帰洛を申し出ていた。
六角定頼の協力もあり帰洛の準備が進められたが、晴国方の軍事活動によって予定は延期。
義晴は桑実寺から坂本へ移り、帰洛の機会を待っていた。
そんな中、七月には大舘晴光のもとへ、奉公衆から書状が届いた。
「晴光。どうしたのじゃ?」
「父上、奉公衆から政務が滞っておるゆえ、早く上様にお戻りいただき、ご決裁を仰ぎたいとの連絡がありました」
「晴光、この件の上様への報告はこちらで引き受ける。間違っても自分から言うなど考えてはならぬぞ」
「……はい、承知いたしました」
晴光には、父がなぜそこまで念を押すのか分からなかった。
◇
それからしばらくして。
帰洛の準備が整い、義晴一行は京へと向かっていた。
「上様、そろそろですな」
「長かった。もう何年も帰ってこれなかったからね。帰ったら最初になにを頼もうかなぁ」
「近江坂本でも頼んでいたではありませぬか」
「やっぱり京だと、注文できるお店の数も配達員さんの数も違うからすぐに届くと思うんだよね」
「はあ。そうそう先日、奉公衆から政務が溜まっておるゆえ、早く決裁くだされと連絡が来ておりましたぞ」
「よし! 全軍引き返せ! 坂本に戻ろう!」
「ダメですぞ! 上様!」
「うへぇ~。ゆっくり出来ないじゃん」
「それに久しぶりの帰洛ですからな。それはもう上様への挨拶に人が殺到するでしょう」
「大舘、全部断っておいて」
「なにをおっしゃるのですか。晴元殿も上様が帰洛されるのを出迎えるために待っておりますぞ」
「えっ! 晴元来てるの?」
「はい。もちろんでございます。晴元殿の御尽力で帰洛出来たわけですから」
「僕、アイツのせいで京を追われたんだけど?」
「それもそうでしたな」
「同盟関係にあるから会うのが仕方がないのはわかるよ。けどさぁ、頭で理解してるのと感情は別じゃん?」
「そうですな。上様、少々お待ちを」
「えっ? 大舘、愚痴すら聞いてくれないの?」
「晴光に指示を出してまいります。少々お待ちを」
大舘は義晴のもとを離れ、晴光を呼んだ。
「晴光。予定通り進めなさい」
「はい。ありがとうございます父上。あの、上様は大丈夫でしたか?」
「上様は今もろもろ整理されておる。邪魔はしてならぬぞ。上様のことはこちらで引き受ける。お前は準備を進めるのじゃ」
「はい!」
晴光は指示を受け、帰洛の準備へと戻った。
大舘もまた、義晴のもとへ戻っていった。
◇
天文三年九月三日。
足利義晴は、ついに帰洛を果たした。
出迎えたのは、細川晴元。
晴元も八月二十八日に上洛しており、この日、義晴と初めて顔を合わせることになった。
「あ、上様ご帰洛おめでとうございます」
「?」
「えっと、お初にお目にかかります。細川晴元です」
「えっ! 晴元!」
「はい。晴元です」
「へぇ~そっか、君があの晴元かぁ」
「あっと、本日はお日柄もよく」
「急にどうしたの?」
晴元の様子を見かねた側近が、慌てて口を挟んだ。
「上様! 大変失礼いたします。殿は上様を前に、たいそう緊張しておりまして」
「まああまり固くならないでよ。同盟結んでるんだし」
「ありがとうございます」
「それに京兆家の当主なんでしょ? これから頼りにしているよ」
「えっ? あ、はい」
こうして、長らく対立していた義晴と晴元は、初めて直接顔を合わせたのだった。
その後、義晴は建仁寺を経て、南禅寺を仮御所とすることになった。
南禅寺に移った義晴は、早速あることを気にしていた。
「あれ? 洛外じゃん。これフードデリバリーすぐ届くの?」
◇
天文五年九月。
京の町では変わらず、ウバ之助、カン十郎、ナウ兵衛の三人が顔を揃えていた。
そんな中、突然ウバ之助が声を上げた。
「俺はあの時の感動を忘れない!」
「急にどうした?」
「いやなんか急に二年前、義晴さんが京に戻ってきた時のことを思い出してな」
「まあ驚きはしたけど、そんなに感動したのか?」
「それはもう感動した。注文を受けてあのハラヘリ将軍って名前を見た瞬間、一気にテンションが上がったね」
「それはよかったな」
カン十郎がそう返したところで、ナウ兵衛がたまりかねて口を挟んだ。
「あの、私が話しているのに全く別の話をするの止めてもらっていいですか? 聞いてきたのはカン十郎さんですよ」
「ごめん。隣で急に大声出されたからさ」
「まったく。どこまで聞いていたんですか?」
「細川晴国に就いていた畠山稙長が勢力を失ったところまで」
「そこからですか。その後、晴国派についていた三好連盛さんや長逸さんも、木沢長政さんの働きかけで晴元派に戻ります。こうして徐々に晴国さんの周りから人が離れていったんです」
「今、晴国方で残ってるのは?」
「波多野秀忠さんと本願寺勢だけです」
「細川高国と一緒じゃねぇか。人が周りからいなくなっていくの」
「まだまだ減りますよ」
「マジ?」
「はい。この後、波多野秀忠さんも晴元派へ移ります」
「秀忠! お前は残ってやれよ! やっぱり恨みか?」
「うーん。それはわからないんですが、晴国さんから晴元さんへと渡り歩く中で、かなり自分の勢力を拡大していたみたいですよ。ひょっとしたら最初からそれが狙いだった可能性も」
「怖っ! 秀忠怖いわ! 晴国の味方はもう本願寺だけか?」
「はい。けど本願寺もその後、晴元さんと二度目の和睦をします。今回は結構本気だったみたいで反晴元派を追い出したりしていたみたいですよ」
「なんか晴国かわいそうになってきたな。もうぼっちじゃん」
「そのせいか、去年の後半から今年の前半まで活動が止まるんですよね」
それまで話を聞いていたウバ之助が口を挟んだ。
「けど今はもう九月だぞ? 久し振りに出てきたと思ったら死んだのか?」
「いえ、どうやら摂津のほうで抵抗していたらしいんですよね」
「ひとりでか?」
カン十郎が聞き返した。
「そこはわからないんですけどね」
「あーそう。じゃあそこで晴国は捕まって自害させられるのか」
「いいえ。先月、晴国さんは味方だと思っていた三宅国村さんという方に呼び出されて、自害させられたようです」
「えっ高国より酷ぇ最後じゃねぇかよ」
「はい。晴国さんを討った三宅さんはその功績で晴元さんに取り立てられたようですよ」
「なるほどねぇ。なんかまた分裂して争いそうだな」
「かもしれませんね」
細川晴国。
兄・高国の後継者として挙兵し、最後まで晴元への抵抗を続けた男。
しかし、天文五年八月二十九日。
味方の裏切りによって、天王寺で自害に追い込まれた。
こうして、細川晴国の戦いは幕を閉じた。




