はぁ?聞いてねぇよ!
一向一揆との戦いに追われていた晴元。
だが、その混乱の裏で――別の男も動き始めていた。
細川晴国。
細川高国の弟である。
「波多野秀忠、俺と一緒に来い!」
晴国は目の前の男へ、そう言い放った。
波多野秀忠。
かつて高国と激しく争った波多野元清の子であり、現在の波多野家当主である。
秀忠は晴国を睨む。
「私の父は、あなたの兄との戦いで亡くなっているんですよ?」
「そんなことを言えば、俺の兄はお前ら晴元派に殺された」
「元はと言えば――」
「秀忠! お前は今のままでいいのか?」
晴国がその言葉を遮った。
「なにがでしょうか?」
「今のまま晴元の下にいたとて、没落してるじゃねぇか?」
「……」
「思い出せよ。お前の父があの地位に就けたのは、俺の兄・高国が取り立てたからだろうが?」
「……」
秀忠は答えない。
晴国はさらに畳みかける。
「今度は俺がお前を取り立ててやる。だから俺と一緒に来い!」
「くっ……」
「チャンスを逃すな! 今、決断しろ! 波多野家当主、波多野秀忠!」
その後。
波多野秀忠は晴国の提案を受け入れた。
これにより波多野家は、約六年ぶりに高国派へと戻ることになる。
そして、この晴国の動きを無視できない人物がいた。
◇
「上様、高国殿の弟、晴国殿が丹波にて活動を再開されたようです」
「えっ? 晴国くんが? 彼もなかなか癖が強いというか。高国さんみたいなところある人だったよね」
「はい。小さくなった高国殿と言った雰囲気の方でしたな」
「その晴国くんがなにしたって?」
「元清殿の御子息、秀忠殿と協力関係を持ち、勢力を拡大中とのことです」
「元清さんって、高国さんと敵対してたのに?」
「詳しくはわかりませんが、今は協力関係にあるようです」
「ふむ」
義晴は腕を組んだ。
「どうなさいますか?」
「あっ! ちょっと待ってて」
「はい?」
義晴はそう言うと、その場を離れた。
しばらくして戻ってきた義晴の手には、フードデリバリーで届いたばかりの包みがある。
大舘が怪訝な顔をした。
「この話をする前に頼んでたんだよ。たまたまこの話をしている最中に届いただけだよ」
「今日はなにを頼まれたのですかな?」
「今日? 今日は水まんじゅうだよ。大舘にもあげるから安心して」
「頂戴いたします」
義晴は水まんじゅうを一つ取り出した。
「で、なんだっけ?」
「晴国殿はどうなさるかという話です」
「そうそう。晴国くんね」
大舘は水まんじゅうを口へ運ぶ。
「晴元にも協力しているけど、どう転ぶかわからないし、晴国くんを無視するわけにもいかないよね。どっちに転んでもいいように晴国くんとも連絡を取り合おうか」
「今まで上様の選択は全部、裏目でしたからな」
義晴の手が止まった。
「水まんじゅう返してもらおうかな」
「大変失礼いたしました」
「けど晴国くんとの連絡係が必要だよね? 大舘ちょっと行ってきてよ」
「私には無理でございます。死んでしまいます」
「そんなに?」
「ちょうど適任がおりますので、お待ちを」
しばらくして。
一人の若者が義晴の前へ姿を現した。
「失礼いたします!」
「おお! 大舘!」
「はい?」
大舘が返事をする。
義晴は首を振った。
「違うよ。息子の方だよ。呼びづらいな。うーん。大舘と小舘?」
「上様、できれば私のことは晴光とお呼びください」
「わかったよ。大舘晴光!」
「苗字が残りましたな。晴光よ。お前は今日から大舘晴光じゃ」
「はい」
晴光は素直に頭を下げた。
「大舘晴光、水まんじゅう食べる?」
こうして晴国との連絡役に、大舘晴光が任命されたのだった。
◇
その後も晴国は丹波を中心に勢力を広げていった。
一方の晴元は、一向一揆との戦いに追われ続けている。
やがて晴国は、その隙を突くように京都方面へと進出。
晴元方の軍勢を破り、さらに京へと圧力を強めていった。
そして天文二年。
晴元方が大坂本願寺への攻撃に力を注ぐ中、晴国もまた兵を進める。
前には本願寺。
後ろには晴国。
晴元にとって、決して楽な状況ではなかった。
晴国にしてみれば好機である。
このまま晴元を追い詰める。
そう考えていた、その時だった。
「晴国様! 急報にございます!」
「なんだ!」
「細川晴元と本願寺が、和睦したとのこと!」
「…………」
晴国はしばらく黙った。
「はぁ?」
伝令を見る。
「今なんて言った?」
「晴元と本願寺が和睦したとのことにございます」
「聞いてねぇよ!」




