↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/29

身から出た錆

「殿! 知らせが届いております」


側近の声に、晴元が顔を上げた。


「いい知らせか?」


「どちらもございます」


晴元は少し考えた。


「では良い知らせを報告せよ」


「三好元長の討伐が成功いたしました。最後は顕本寺にて自害。義維様も御座所へ戻られたとのことです」


「よし。これですべて片付いたな。私はこれで失礼する」


晴元は立ち上がろうとした。


「殿、まだ悪い知らせが残っております」


「私はなにも聞いていない。あとはそちらでやってくれ」


「そういうわけにはいかぬでしょう」


晴元の動きが止まる。


そして、露骨に嫌そうな顔をした。


「その悪い知らせの中身、もうわかってんだよ。どうせ一向一揆だろ?」


「はい。一向一揆勢は――」


「あー、聞こえなーい」


「……」


「?」


「解散しておりません」


「ぎゃー、聞こえちゃったじゃん」


晴元は頭を抱えた。


「殿が最初に懸念していた通りになりました」


「だから言ったじゃん。アイツら制御できんのってさ?」


「そんなこと申しておりましたか?」


晴元は勢いよく側近を見る。


「その時になったら考えましょうってお前は言っていた! さぁ、その時が来たぞ! 考えろよ!」


「それは私が申しましたな。どういたしましょう?」


「丸投げかよ! ちくしょう!」


「殿、頼りにしております」


「うるせぇ!」


晴元は苛立ちながらも、すぐに考えを切り替えた。


「それと木沢殿と一向一揆が争っております」


「はぁ……まずは本願寺に申し立てる。その後も暴走を続けるのであれば、武力を以て奴らを抑えるぞ」


側近は晴元を見ながら、ひそかに思う。


この人、最初はあーだこーだ言うのに、事前に対処法は考えてんだよな。


     ◇


天文元年八月。


事態は、晴元が恐れていた通りに進んでいた。


「やっぱり十万近くまで膨れ上がった集団を制御できる人間はいないよな?」


晴元が腕を組みながら言った。


「おりませんね。可能性があるとするならば、それこそ将軍しかいないのでは?」


「うーん、だよなぁ? いろいろな考えの人間いるもんなぁ?」


「一揆勢も一枚岩ではございませんから」


「だよなぁ。暴走状態の一向一揆は各地でやりたい放題。本願寺にも通達したが、どうしようもない。ってことは武力で抑えるしかない。けど我々の軍事力だけでは抑えきれない。じゃあどうするか?」


「将軍・足利義晴を頼ると?」


晴元の表情が曇った。


「それしかないよなぁ? けどさぁ」


「なにか問題が?」


「ほら、私は行けたら行くって言って、ずっと会うの先延ばしにしてただろ?」


「確かに。ですが『行けたら行く』とは、やんわりと行きませんと言っているのと同じでは? 将軍も分かっているのではないでしょうか?」


「分からないだろ? どうする? 歓迎の宴の準備とかしてたら? それで私が行かなかったら相手はどう思う?」


「歓迎の宴の用意はされていないでしょうから、大丈夫だと思いますけど」


「宴じゃなくても、いつ来るのかと期待して待っていたらどうするんだよ? 打ち首とかあるんじゃないかなぁ」


側近は少し考えた。


「六角定頼殿を頼ってみては?」


晴元の顔が明るくなる。


「それだ! 至急、六角定頼を通して将軍に援軍要請をするぞ!」


     ◇


「上様、晴元方より六角殿を通じて、援軍の要請が来ております」


大舘から報告を受け、義晴は目を丸くした。


「え? 晴元から?」


「左様でございます」


「まさか一向一揆の対応じゃないよね?」


「さすが上様! 洞察力が鋭いですな」


「うへぇ~、やっぱり制御できてなかったんじゃん」


「そのようですな。いかがいたしますか?」


義晴は腕を組んだ。


晴元が元長を倒すために呼び込んだ一向一揆。


その後始末を、今度は自分に頼んできたのである。


「都合のいいときばっかり将軍扱いしやがって。んー、定頼さんを援軍に送って」


「承知いたしました、将軍様」


「なんか僕、悔しいよ大舘」


こうして義晴の意向を受け、六角定頼も一向一揆への対応に動くこととなった。


定頼は近江坂本へ進出し、さらに大津方面へと兵を進める。


一方、京都では法華宗徒と一向一揆の対立も激化。


晴元は法華宗徒と手を組み、六角勢らとともに一向一揆へ対抗した。


六角勢と法華宗徒らの攻撃によって、山科本願寺は焼失する。


しかし、それでも一向一揆は収まらなかった。


戦いはその後も各地で続き――。


翌、天文二年二月。


ついに一向一揆勢は、堺にいた晴元の居所へと襲いかかった。


晴元方は大敗。


側近たちにも戦死者が出るほどの被害を受け、晴元自身も堺を離れることとなった。


こうして、一向一揆をめぐる争いは晴元自身をも巻き込んでいった。


まさに――。


身から出た錆。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。