僕、巻き込まれただけ?
近江へ逃れた義晴は、ようやく腰を落ち着けていた。
「……大舘」
「なんでございますか、上様」
「とりあえず近江まで逃げてきたけどさ」
「丹波・摂津方面は敵方ですからな。六角殿の領内で、京にも戻りやすい近江が無難でしょう」
「だよね。で?」
「はい?」
「結局なんでこんなことになってるのさ?」
大舘が首を傾げる。
「高国殿がめっちゃ弱かったからでございます」
「それは見てたから分かる!」
義晴が身を乗り出した。
「それ以外の要因だよ! なんで援軍来ないのさ?」
「援軍でございますか」
「僕、御内書送ってるじゃん?」
義晴は指を折りながら数え始める。
「来たのって、先にやられた武田さんと、ほぼ戦が終わってから来た六角さんくらいだよ?」
「左様ですな」
「おかしくない?」
大舘はしばらく考える。
「それは上様の求心力が無かったのでは?」
「大舘!」
「はい」
「今そういうのいらないから!」
「失礼いたしました」
大舘は何事もなかったように話を戻した。
「では恐らくでございますが、細川晴元陣営が援軍に来られぬよう、事前に手を回していたのでしょう」
「晴元が?」
「晴元殿個人というより、その陣営と申した方がよろしいでしょうな」
「へぇ」
「現に但馬・播磨方面でも動きがあり、援軍を出すどころではない勢力もございました」
義晴が腕を組む。
「つまり……」
「相手方は相当に準備して、この戦に臨んでいたということでございます」
「それに対して高国さんは?」
「いつもの高国殿でございました」
「それダメじゃん」
「でもさ」
義晴はまだ納得していない。
「そもそも晴元陣営に、なんで波多野とか柳本がいるの?」
「そこからでございますか」
「だってどっちも高国さんの部下じゃなかった? なんで晴元側についてるのさ」
「では最初から説明いたしましょう」
少し前。
高国の前に、一人の男が座っていた。
香西元盛。
その表情は硬い。
高国は腕を組み、元盛を見下ろした。
「おい、元盛! お前裏切ったって話出てるんだけど俺のこと裏切ったの?」
「いえ、私は決して裏切ってなどございませぬ」
「は? 口ではなんとでも言えるよなぁ?」
「……」
「じゃあどうやって証明するよ? あぁ?」
元盛が顔を上げる。
「何を、でございますか」
「お前が嘘ついてないってことをだよ」
「私は決して――」
「それとも何か?」
高国が身を乗り出す。
「尹賢クンが嘘ついてるって言いたいのかよ?」
※尹賢=ただかた
「いえ、そのような――」
「じゃあお前が嘘ついてんじゃねえか」
「……」
「ちょ、ちょっと待って」
義晴が話を止めた。
「その尹賢クンって誰?」
「細川尹賢殿でございます。高国殿の従兄弟ですな。」
「で、その尹賢クンが元盛さんを怪しいって言ったの?」
「大まかに申せば」
「尹賢クンを高国さんが信じて、元盛さんが死んだ?」
「はい」
「それで元盛さんの身内の波多野たちが怒って、高国さんと戦い始めた?」
「左様でございます」
「で、晴元側と組んだ?」
「左様でございます」
「……」
義晴は黙り込んだ。
そして。
「え?」
大舘を見る。
「じゃあ事の発端、その尹賢クンじゃん?」
「まあ、一つの大きなきっかけではございますな」
「いやいやいや」
義晴が手を振る。
「これ細川家の問題じゃん!」
「左様でございます」
「なんで僕まで戦場にいたの!?」
大舘がさらりと言う。
「まあ簡単に申せば、細川家のお家騒動に巻き込まれたというところでしょうな」
義晴はしばらく固まった。
「……僕、将軍なんだけど?」




