↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
19/29

【番外編】俺、細川高国が転生したら中小企業の営業部長だった件~時代が変わっても、俺のやり方は変わらない~ 其の四

朝倉教景の退職からしばらく。


別れがあれば、出会いもあるわけで、本社営業部には新しい社員が入った。


入ったはいいが――。


「くそっ! 最近の若い奴らはすぐに辞めていきやがる! なんで定着しねぇんだよ!」


入っては辞められを繰り返していた。


うちの営業は特殊だとはいえ、ここまで人が定着しないなんて。


さすがの俺も、辞めた三人分の営業と新規事業の同時進行はきつすぎる。


尹賢クンにも多少回してはいるが、これ以上増やすのはなかなか厳しいだろう。


そんな状況の中、外回りをしていた俺は、会いたくなかった奴に遭遇してしまった。


細川晴元。


コイツとは前世から因縁のある相手だ。


「あれ? 高国部長じゃないですか。お久しぶりです」


ちっ。


よりによって晴元かよ。


「晴元部長もお元気そうでなによりです。最近、景気がいいと伺っております。羨ましいですよ」


「いやぁ、最近、中途で採用した三名が非常に頼りになる方たちで、本当に助かっていますよ」


三人?


こっちは三人辞めて、てんてこまいだってのに。


嫌味か!


その時、俺のスマホが鳴った。


ブーブーブーブー、ブーブーブーブー。


ナイスタイミング!


「おっと、着信が入りましたので私はこれで」


俺はスマホを取り出し、そのまま晴元との会話を打ち切った。


アイツがなにか言っていたが、聞こえないフリをしてその場を離れる。


電話の相手は尹賢クンだった。


最近はよく外に出るようになった。


昔はずっと席に座っていたが、ようやく営業らしくなってきたな。


これもひとえに俺の育成のお陰だろう。


うんうん。


そんな日々、仕事に追われていた俺に転機が訪れることになる。


なんと株式会社赤松から、出向で営業部に助っ人が現れたのだ。


「初めまして。株式会社赤松より来ました浦上村宗と申します。よろしくお願いいたします」


「おう、浦上村宗! よろしくな!」


この浦上村宗の仕事には目を見張るものがあった。


未達だった売上目標をカバーするどころか、大幅にプラスで着地させたのだ。


「……マジですげぇじゃねえか、浦上村宗」


「高国部長、新規事業も必ず成功させましょう」


「おう! このままの勢いで行くぞ!」


ここからは、まさに順調だった。


新規事業の説明会を行えば席は満席。


来場者にはSNSへの発信も積極的にお願いした。


試しに検索をかけてみると、それなりに話題にもなっている。


いいぞ。


このまま行けば成功する。


いや、成功させる。


     ◇


ある日。


俺に来訪者が現れた。


赤松政村。


浦上村宗を貸してくれている株式会社赤松の社長らしい。


そういえば株式会社赤松って誰の紹介だったんだっけ?


まあいいか。


こんな優秀な奴を貸してくれてるんだから、きっといい奴に違いない。


俺はたまちゃんに声をかけた。


「あれ? 尹賢クンは?」


「午後から打合せがあるとかで、お昼に出て行かれましたよ」


「そうだっけか? なんか最近、尹賢クン見てねぇような気がすんだけど。まあ頑張ってっからいいか」


外回りするようになったのはいいことだ。


成果はまだ足りないが、そのうち数字も付いてくるだろう。


「じゃあ、たまちゃん。俺この後、赤松社長と打合せだから席外すな。なにか緊急だったら連絡して」


「はい、わかりました」


「じゃあよろしく」


     ◇


俺と赤松は軽く挨拶を交わした。


話題は当然、浦上村宗の仕事ぶりになる。


「浦上村宗氏には本当に助けられています。ありがとうございます」


「いえいえ、お役に立てたのであれば幸いです。ところで、浦上が大きな事業をお手伝いしていると聞きまして」


「はい。我が社を挙げての一大プロジェクトです」


「差し支えなければ、どのような事業なのか教えていただくことはできますか?」


「もちろんです!」


俺はこの赤松を完全に信用していた。


そりゃそうだろ?


ものすごく優秀な人材を貸してくれた会社の社長だぞ?


誰だって信用するはずだ。


俺は説明会で話している内容だけでなく、内部の詳細まで事細かく赤松に話してしまった。


     ◇


「お疲れ様です。晴元さん」


赤松は会社を出ると、すぐに電話をかけていた。


「高国さんから色々といいお話が聞けましたよ。少しプレッシャーをかけてあげるだけで、資金ショートで終わりですね」


少し間を置き、赤松は頷く。


「はい。ではそのように」


     ◇


「なにぃ! 晴元の会社がうちの事業を真似しようとしているだって!」


俺は尹賢クンから衝撃の報告を受けた。


どうやら説明会に参加して、内容を調べたらしい。


驚きはしたが、説明会を大々的にやっていたのだ。


当然、真似られることも想定済みだ。


ふん。


猿真似で上手くいくと思うなよ。


少しして俺は急遽、別件で兵庫県尼崎市へ出張へ行くこととなった。


出発前、営業部を見渡す。


「あれ? 尹賢クンまたいねぇじゃねぇか!」


「はい。最近よく外出されています」


たまちゃんがそう答える。


「外回りするのはいいけど、成果が無いんだよなぁ。まあいいや。たまちゃん、俺はこれから出張だから留守は頼むぞ」


「はい。いってらっしゃい」


複数の取引先を回る三泊四日の出張だった。


大した案件でもないので、普段よりも時間に余裕がある。


ホテルへ戻る前に、俺は土産物を眺めていた。


「ふわぁ~。普段よりも出張中の方が時間的余裕があっていいな。さて、たまちゃんたちにお土産どれにしようかな」


ブーブーブーブー、ブーブーブーブー。


土産を選んでいる最中に、俺のスマホが鳴った。


画面を見る。


たまちゃんだ。


「はい高国。たまちゃんどうした?」


「高国部長、大変です! 会社がなくなるかもしれません!」


「は?」


一瞬、意味が分からなかった。


「たまちゃん落ち着け。どうして急に会社が無くなるなんて話が出ているんだ?」


話を聞く。


新規事業を早めにリリースするために投資を増やした結果、会社の資金繰りがとうとう限界に達したらしい。


「マジかよ……」


驚きすぎて、それしか言葉が出てこなかった。


そして、ふと思い出す。


前に誰かが言っていた。


資金繰りが回らなくなるから、数年かけて準備した方がいい。


誰だったっけ?


「それで今、役員の人たちが色々話し合っていて、晴元さんの会社がうちを買い取るって話が出ているみたいで」


は?


どうしてここで晴元が出てくるんだ?


「晴元? 一体どういうことだ?」


「なんか晴元さんの会社には波多野さん、柳本さん、それから香西さんがいるらしくて」


「なんだって!」


あの三人が?


「けど、それだけで晴元の会社と一緒になったって、うちとはやり方が違うだろ!」


「それが……赤松さんも晴元さんの会社と仲がいいみたいで、ぜひ晴元さんのところで新規事業を引き継いでもらいたいと話をしているみたいなんです」


赤松?


そこでようやく全部が繋がった。


くそっ!


やられた!


そういうことか!


完全に晴元と赤松が俺の一大プロジェクトを奪うために仕組んだ罠だったんだ!


「赤松ぅ~!」


     ◇


その後、俺のいた会社は晴元の会社に買収されることになった。


どうやら尹賢クンも今回の買収騒動に、なにやら絡んでいたらしい。


どこから晴元と赤松が仕込んでいたのかは分からない。


だが、今となってはもう遅い。


すべては終わってしまったのだ。


     ◇


「さてと、今日も行きますか」


ワン!


俺は犬のリードを手に、いつもの道を歩いていた。


会社も、役職もなくなった。


だが、いつまでも落ち込んでいる俺じゃない。


犬はいい。


人は裏切るが、犬は裏切らない。


そんな理由から、俺は犬の保護をする団体を立ち上げた。


散歩を終え、そのまま事務所へ向かう。


扉を開ける。


「おはようございます、高国さん」


「おう! おはよう!」


事務所の中にいたのは、浦上村宗だった。


あの騒動のあと、俺と一緒に会社を辞め、そのままここまでついてきた奇特な奴だ。


あの後、急いで帰社した俺にずっと頭を下げ続けていた男だ。どうやらこいつは何も聞かされていなかったらしい。


「今日の予定ですが――」


ピンポーン。


「ん?」


俺が扉を開ける。


「お待たせいたしました! スタコのお届けです!」


「あ? 頼んでねぇよ!」


配達員が慌てて端末を確認する。


「えっ? 玉川様はこちらにはいらっしゃらないでしょうか?」


「あ? たまちゃん?」


俺は事務所の奥を振り返った。


「たまちゃん! スタコ頼んだ?」


「はーい! 頼みましたー!」


「なんだよ! 先に言っとけよ!」


俺は配達員から商品を受け取る。


会社はなくなった。


役職もなくなった。


それでも、まだ俺にはやることがある。


俺は犬と浦上村宗を見た。


「よし!」


今日もここから始める。


「俺はここから成り上がるぜ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。