【番外編】俺、細川高国が転生したら中小企業の営業部長だった件~時代が変わっても、俺のやり方は変わらない~ 其の三
武田元光の退職からほどなくして、定例の幹部会で、会社を挙げての一大プロジェクトの話を聞かされた。
相談ベースで聞いたことはあったが、いざ会議の議題に乗ってくるとワクワクしてくる。
このプロジェクトの主導権はこの俺率いる本社営業部が絶対にいただく。
これでまた俺の昇進が近づくだろう。
「社長! 営業本部長! いいじゃないですか! やりましょう! ぜひ我が本社営業部にお任せください!」
元気と勢いで一気に押し込む作戦だ。
よしよし。みんな資料を見るフリして俯いてるな。
これでこの案件は、俺のものだ。
そう思っていた時に、視界の端で嫌な奴が手を上げているのが見えた。
また、お前かよ朝倉教景!
お前はいっつも水差すようなこと言いやがる。
経理部長だからって俺の邪魔すんじゃねぇぞ!
営業本部長が朝倉を見る。
「朝倉くん、どうしました」
朝倉は軽く頭を下げてから口を開いた。
「はい。事前にご相談いただいておりましたが、こちらの案件。確かに素晴らしい案だと思います。上手く行った場合には我が社の利益も相当なものを見込めると思います」
だったらいいじゃねぇかよ!
もう余計なこと言うなよ! 朝倉ぁ!
「ですが」
ですが、始まったよ。
売上以上に大事なもんねぇだろうがよ!
俺がこの会社を大きくしてやるって言ってんだから大人しくしてろ!
「会社の財政を管理する経理部門の意見としては、今期の売上目標の未達を穴埋めするために、急ごしらえで進めても失敗する可能性が非常に高いかと思います。内容は素晴らしいものだと思いますので、来年、再来年ときちんと計画を立てて準備をしてから進めるのがよいかと思います」
はあ?
ふざけんなよ!
せっかくの売上が上がるチャンスをよ!
俺は勢いよく朝倉に反論する。
「朝倉経理部長は少し慎重なのではないでしょうか。こういうものはスピードがモノを言います。来年、再来年まで準備していたらマーケットを他社に取られてしまうかもしれない。そうなったら当初、想定していた利益に届かないことになってしまいます。すぐにやるべきです。私ならやれます。社長! 営業本部長!」
俺が言い切ると、営業本部長は会議室を見回した。
「他のものはどう思う?」
売上が上がるのなら早くやりたい。
確かに今期、急にやらなくても少し準備した方がいい。
などの意見が出始める。
しかし、この会社では、数字を作った奴ほど人事評価が上がる仕組みになっている。
つまりこの幹部会に参加しているのは圧倒的に営業部寄りの奴が多いのだ。
数で押せる!
そう思った俺は、さらに仲間を引き込むために必殺の一言を放った。
「この事業は毎月定額で売上が上がる仕組みなので、来年やるより今年から始めた方が“長期的に見たらプラスになります”」
この“長期的に見たらプラスになる”この一言はまさに必殺の一撃だ。
この言葉を放って言い返されたことはない。
残念だったな。朝倉。
俺の勝ちだ!
そう確信した時だった。
朝倉が再び口を開く。
「高国部長、仰っていることはよくわかります。ですが、予算にない事業を行うだけの余裕が今、この会社にはありません。無理に進めれば、資金繰りが回らなくなります」
「朝倉部長、またお金の話ですか? いつもお金が無いって言いますけど、毎回何とかなっているじゃないですか? 反対ばかりしてないで少しはこっちの業務も手伝ってくださいよ」
その後、朝倉は大人しくなり、少し議論を行った。
賛成意見が多数を占め、最後は社長の判断で新事業を進めることが決定した。
◇
翌週。
「おい! サポート部! お客さんが言ってんだよ! やれよ!」
少し離れた席で、たまちゃんが俺の方を見る。
「高国部長、なんか荒れてますね?」
「なんか朝倉部長と一悶着あったみたいですよ」
尹賢クンが答える。
「え、本当ですか! あ〜、それ見たかったなぁ〜」
「たまちゃん、意外とそういう修羅場みたいなの好きなの?」
「え、修羅場は好きじゃないですけど、高国部長って外側から見てる分には面白いじゃないですか」
「面白いかな?」
「はい、とても! けど絶対に当事者にはなりたくないですけどね」
「ったく、お客さんがやれって言ってんだからやれよ」
グダグダ言ってるサポート部に協力を取り付けた俺は、メールの確認に戻る。
明後日の幹部会の議題が来てるじゃねぇか。
俺はその中の一項目に目を止め、思わず二度見した。
そこには、
経理部長 朝倉教景 退職について。
「マジかよ……」




