【番外編】俺、細川高国が転生したら中小企業の営業部長だった件~時代が変わっても、俺のやり方は変わらない~ 其の二
俺は昨日の帰り際、尹賢クンから聞かされた報告に耳を疑った。
あの元盛が、ライバル企業の人間と頻繁に会っているという。
もし、うちの顧客名簿や商品情報がライバル企業に渡っていたら?
当然、うちが選ばれる確率は大きく下がる。
もちろん、元盛がうちのために情報を取りに行っていたのなら問題はない。
だが、それならなぜ俺に報告しない?
普段の元盛なら、些細なことでも俺に報告を上げてくる。
それが今回はない。
やはり、尹賢クンの報告が正しいんじゃないのか?
いくら考えたところで、分からないものは本人に直接聞くしかない。
素直に話すなら許す。
だが、誤魔化そうとするなら――切るしかない。
そう決めた俺は、出社してきた元盛へ声をかけた。
「おい、元盛。ちょっと話がある」
「はい。なんでしょうか、高国部長」
「ここだとなんだから、ミーティングルームに行くぞ」
「? はい、分かりました」
元盛は不思議そうな顔をしながら、俺の後についてくる。
その二人を見送りながら、尹賢は小さく拳を握った。
(よし! 昨日の今日で動いた! さすが高国! こういうことだけは行動が早いんだよ、アイツ)
「高国部長、どうしたんでしょうか?」
隣にいた玉川さん――たまちゃんが、不安そうに二人が消えた方向を見ている。
「なんか、いつもよりテンション低めでしたよね」
「そうですね。元盛さん、なにかやっちゃったんですかね?」
「心配ですね」
「……」
◇
ミーティングルームへ入ると、俺は元盛と向かい合って座った。
「元盛。お前、俺に何か報告することがあるんじゃないのか?」
「普段の業務に関しては、都度報告させていただいておりますので、報告漏れ等はないかと。なにか先方から連絡がありましたか?」
「元盛。もう一度だけ聞く」
俺は元盛の顔をじっと見る。
「なにか俺に報告することはないのか?」
元盛は少し考えた。
「申し訳ございません。どの案件のことなのか、見当がつきません」
「……そうか」
やっぱりそうだったんだな。
「一体なんの話でしょうか?」
「お前がライバル企業と密会してるって情報を、俺が知らねぇとでも思ってんのか!」
元盛の表情が固まった。
「えっ。一体なんの話ですか?」
「この期に及んで、まだ誤魔化そうとすんのかよ! お前いい加減にしろよ! 会社にどれだけ不利益を与えているのか分かってんのか!」
「いえ、ですから、ライバル企業と密会など一体なんの話なのか、本当に心当たりがないのですが」
「じゃあお前、ライバル企業の人間とは一度も会ったことねぇんだな!」
「取引先で偶然、お会いしたことしかありません」
「やっぱり会ったことあるんじゃねぇか!」
「それが今回の密会の件になるんですか?」
「うるせぇ! 口答えするな!」
俺は机を叩いた。
「お前、これ以上会社に不利益をもたらす前に退職届を書け!」
「どうして急にそんな話になるんですか? 私は本当に身に覚えがありません!」
「元盛!」
俺は声を荒らげる。
「このまま問題を大きくして懲戒処分になるより、自分で退職届を書いて出せ。引き継ぎが終わったら、あとは有給消化でいい」
しばらく、元盛は何も言わなかった。
そして小さく息を吐く。
「……分かりました」
元盛は立ち上がり、深く頭を下げた。
「高国部長。今まで大変お世話になりました」
「……おう」
元盛は、そのままミーティングルームを出ていった。
◇
その後の対応は大変だった。
元盛が辞める。
その話を聞きつけた元清と賢治が、別支店から急遽帰社。
二人は元盛の退職に猛反発した。
俺も何度も説明した。
会社のためだ。
元盛に問題があった。
俺だって好きで切ったわけじゃない。
だが、二人が納得することはなかった。
最後には、自分たちも辞めると言い出した。
そしてひと月後。
波多野元清。
香西元盛。
柳本賢治。
営業部の中心だった三人が、相次いで会社を去った。
「高国くん」
社長に呼び出された俺は、社長室の椅子に座っていた。
「いきなり三人も辞めて、大丈夫なのか?」
「社長、大丈夫です!」
俺は即答する。
「彼らの業務内容は逐一報告させていたので、私で対応できます!」
「でも三人分だよ?」
「はい!」
俺は少し考えた。
「では、人材募集をかけてもよろしいでしょうか?」
「三人も辞めちゃったら、しょうがないでしょ」
「ありがとうございます!」
人が抜けたなら、補充すればいい。
その時の俺は、そう考えていた。
そしてほどなくして、他社で営業経験のある男が一人、うちの営業部へ入ってくることになった。
武田元光。
経験者なら即戦力になる。
俺はそう期待していた。
◇
「本日からお世話になります。武田元光です」
元光は営業部の前で、少し緊張した様子で頭を下げた。
「前職でも営業をしておりましたので、一日でも早く皆様のお力になれますよう努力いたします。どうぞよろしくお願いいたします」
「はい、よろしく~」
俺は軽く手を上げる。
「うちは特殊だからよぉ。最初は大変かもしれねぇけど、頑張ってな!」
「はい!」
「武田さん、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
尹賢クンとたまちゃんも続いて挨拶する。
こうして、武田元光が新たに営業部へ加わった。
◇
それからひと月ほど経った頃。
「あの、高国部長」
元光が資料を持って俺の机へやってきた。
「こちらの資料、確認いただいてもよろしいですか?」
「おう」
俺は資料を受け取り、目を通す。
「……おい」
「はい」
「なんで、ここの機材がC社のになってんだよ?」
「えっと、そこはお客様と相談して、C社がいいと仰っていたので」
「お前、B社とC社で製品の耐久度とか調べたのか?」
「えっ、耐久度ですか? いえ、調べていません」
俺は資料を机の上へ置く。
「C社の商品がすぐ壊れたら、また買い直しじゃねぇか! そうなったら余計な出費増えるだろ? もっと客のこと考えてやれよ」
「はい。申し訳ありません」
元光は少し戸惑いながら頷いた。
「あの、高国部長」
「あ?」
「製品の耐久度って、どのように調べたらいいでしょうか?」
「そんなの自分で考えろよ!」
「えっ」
「尹賢クンは出来てるじゃねぇか!」
「……はい」
元光は資料を抱え、自分の席へ戻っていった。
その後。
武田元光は、
「求められるレベルが高すぎる」
という言葉を残して、会社を去っていった。




