【番外編】俺、細川高国が転生したら中小企業の営業部長だった件~時代が変わっても、俺のやり方は変わらない~ 其の一
「俺、ここまでか?」
俺はあの時、享禄四年六月八日、広徳寺で自害することになった。
なんでそんなことになったのか、その記憶はない。
気になって調べてみたこともある。だが、なぜかある期間の話だけは、何度読んでも頭に入ってこなかった。
ただ、死ぬ間際のことだけは覚えている。
後の記録じゃ「強性奇特」なんて書かれたらしい。
まあ、当然だな。俺だからな。
俺はあの時、死んだんだ。
「んなわけねぇだろ!」
昔の夢を見て、勢いよくベッドから飛び起きる。
ピピピッ! ピピピッ!
「うるせぇ! もう起きてんだよ!」
ガンッ!
乱暴に目覚まし時計のアラームを止める。
俺の名前は、細川高国。
気がついたら、2020年代の日本にいた。
どうやら俺は、記憶を取り戻すまでは冴えない男だったらしい。
だが、俺が俺に戻ってからは違う。
営業で結果を出し、わずか数年で営業部長。
時代が変わろうが、やることは同じだ。
「俺はここから成り上がるぜ!」
◇
朝のルーティンをこなしながら、会社へ行く支度をする。
「さてと、今日はどの時計がいいかなっと」
その日のスケジュールを頭の中で思い出し、ベストな時計をチョイスする。
ネクタイをキュッと締め、愛車のクラウンに乗り込んで会社へ向かう。
「ちっ! 相変わらずこの道は混んでんな。早く行けよ!」
渋滞にイラつきながら会社へ向かうのも、もはや恒例行事だ。
「高国部長、おはようございます」
「おう、おはよう!」
「おはようございます!」
「おはよう」
自分の部署へ到着し、出社している社員を見渡す。
エースの元盛に、営業事務の玉川さん――通称たまちゃんは来てるけど、尹賢クンはまた来てねぇなぁ。
三十分前には来いって言ってんだろうが!
うちの営業部は、俺、波多野元清、香西元盛、柳本賢治、細川尹賢の転生者五人と、営業事務のたまちゃんを加えた六人体制だ。
転生者って言っても、俺以外はみんな過去の記憶がないみたいなんだけどな。
転生前から可愛がっていた四人と、また一緒ってわけだ。
八時五十八分。
「よし! お前ら、朝礼始めんぞ!」
「はい」
「あっぶっねー! 間に合った! セーフ!」
尹賢クンが慌てて駆け込んでくる。
「尹賢クン、今日もまたギリギリだぞ! もうちょい早く来いっていつも言ってんだろうが!」
「すみません。努力します」
「うーん、まあいいや。朝礼始めんぞ!」
◇
俺は朝一で、スケジュールに入っていたアポ取りを始める。
部長だけどプレイングマネージャーだからな。
営業電話だってするぞ。
「はい! はい! どうぞよろしくお願いいたします! はい、私の名前ですか? あの有名な武将の細川高国と同じ名前で、細川高国と申します! えっ、知らない? 細い川と書いて細川、高貴な国と書いて高国です! はい! よろしくお願いいたします!」
ガチャン。
受話器を叩きつけるように置く。
「ったくよ~。細川高国知らねぇとかマジ、バカかよ。義務教育やり直せよ!」
隣で聞いていた尹賢クンが、こちらを見ながら黙っている。
(細川高国なんて武将、義務でやらねぇよ! あっても授業でやらない、教科書に数行くらいだろ? バカはお前だ!)
その後、午前中も終わりに差しかかろうとした頃。
尹賢クンが見積書の確認を頼みに来た。
「尹賢クン。この見積書はダメだ。こことここのフォントが違うじゃん。文字のサイズも所々違ってる。こんなの客に出せないだろ? やり直し! 金額とか商品は合ってるから、フォーマットだけ統一させて」
「はい」
尹賢クンは素直に見積書を受け取る。
(こっのぉ高国! これお前が使ってた見積書をコピーして使ったんだからな! お前それで客に出してんだよ!)
「おい、元盛! 飯行こうぜ!」
「えっ、あっ、でもまだ作業が残ってて」
「急ぎの案件か?」
「そういうわけではないのですが」
「じゃあ昼終わってからにしろよ! 奢ってやっからさ!」
「そういうことでしたら、ご一緒します」
「おう! あのドロドロしたスープのラーメン屋でいいか?」
「高国部長、あの店好きですね」
「そりゃそうだろ。なんてったって俺にふさわしい店の名前してるじゃねぇか」
「ハハハッ、そうですね」
高国部長とエース元盛が楽しそうに話している。
その二人を、
――えっ、俺は?
とでも言いたげな目で見つめる男がいたことを、二人はまだ知らなかった。
尹賢クンは二人の背中を見ながら、小さく呟く。
「今しかない。波多野と柳本が別支店に行ってるこの間に、香西を辞めさせる」




