俺、ここまでか?
「大舘! 大舘はいるか!」
「上様、こちらにおります」
「あっ、いたいた! 大舘ちょっと手伝ってよ」
「何をでございますか?」
「ちょっと沢山、運ぶのがあってね」
朽木谷を離れ、坂本まで戻ってきたことで、義晴は再びフードデリバリーを利用できるようになっていた。
そして、その反動なのか。
「上様! 一体どれだけ頼まれたのですか!」
部屋の前には、義晴が注文した料理が山のように積まれていた。
「いやぁ、ちょっと久しぶりだったからついね。からあげ殿とかスタコとか、色々頼んじゃった。大舘も一緒に食べようよ」
「一回ですべて平らげるのは無しですぞ」
「わかってるよ。高国さんの近況も聞きたいからさ」
二人は料理を抱え、義晴の部屋へと移動した。
◇
「で? 高国さんの近況は?」
「む! このたこ焼きにタコが入っておりませぬぞ!」
「じゃあ僕のあげるから。で、高国さんの近況は?」
「頂戴いたします」
大舘は義晴からたこ焼きを一つ受け取る。
「相変わらず戦況は膠着状態のようですぞ。どちらの援軍が先に到着するか、といったところでしょうな」
「援軍次第かぁ~」
「……」
「大舘? なにかあるの?」
「はい。実は……」
「報告! 報告!」
廊下から慌ただしい声が響いた。
「何事ですかな?」
駆け込んできた伝令が、その場に膝をつく。
「はっ! 大物にて高国・浦上勢が壊滅! 細川高国殿、浦上村宗殿、ともに生死不明とのことです!」
「な、なんですと!」
義晴の手が止まった。
「……高国さん、村宗さん」
◇
時は少し遡る。
高国・浦上勢が三好勢とにらみ合いを続ける中、陣中ではある噂が広まり始めていた。
「おい、あの噂聞いたか?」
「聞いた聞いた。なにやら援軍で来た赤松政村勢が裏切って、こっちを攻めてくるんじゃないかって話だろ?」
「そうそれ」
「でもよ。そんなことあんのか?」
「それがどうやら理由はあるらしいんだよ」
「なんだよ、その理由ってよ」
兵が周囲を気にしながら声を落とす。
「実はな、村宗様は昔、赤松家の当主だった義村様を討ってるらしいんだよ」
「マジか。じゃあ今の政村様からしたら親の仇じゃねぇか!」
「そうなんだよ。だから後ろから襲われても不思議じゃねぇって話だ」
「ここ襲われたらおしまいだよな?」
「お前たち! 無駄話をしていないで動け!」
「はい!」
将校に散らされ、兵たちはそれぞれの持ち場へ戻っていった。
だが、その噂が陣中から消えることはなかった。
◇
そして六月四日。
大物で両軍が激突する。
「あーくそっ! 今日はやたら当たりが強いじゃねぇか! こっちの援軍が動く前に勝負を決めに来たか?」
「伝令ー!」
「あ? なんだ! いま忙しいんだよ!」
「赤松勢が裏切りました! 背後より攻撃中! 三好軍との挟撃になっております!」
高国の表情が変わった。
「なんだって! 浦上村宗は!」
「浦上殿は後方にて赤松軍と交戦中です!」
「くそっ! 浦上村宗と合流するぞ! 潰されねぇ形に組み直せ!」
高国は振り返り、怒鳴った。
「赤松ぅ~!」
前から三好勢。
後ろから赤松勢。
高国・浦上勢は、完全に挟まれる形となった。
混乱する兵の中を、高国は村宗のもとへ向かう。
◇
「浦上村宗! 無事か?」
「高国殿、申し訳ない」
「あ? 何がだよ?」
「此度の赤松の裏切りは、私のせいでございます」
「うるせぇ!」
村宗の言葉を、高国が遮った。
「今はそんなこと後回しだ! この状況どうする? 突破できるか?」
村宗は周囲を見渡した。
「私が活路を開きます。高国殿はその隙にどうかお逃げください」
「浦上村宗、お前……」
「高国殿、ご武運を」
高国は村宗を見る。
「浦上村宗、お前もな。武運を祈る」
「ありがたく」
高国はすぐに振り返った。
「よし行くぞ! 浦上村宗が命張ってんだ! ここで止まるんじゃねぇ!」
高国たちは、崩れゆく戦場を駆け抜けた。
その後、高国はなんとか大物から脱出する。
しかし、浦上村宗が戻ってくることはなかった。
大物崩れ。
赤松政村の裏切りによって高国・浦上勢は大敗し、村宗をはじめ多くの兵が討死した。
◇
大物から逃れた高国は、尼崎の京屋に身を潜めていた。
しかし数日後、その居場所を三好方へ知らせる者が現れ、高国は捕らえられた。
堺方の協議によって切腹が決まり、高国は大物の広徳寺へ送られた。
静かな堂内で、高国は一人座っていた。
しばらくの沈黙のあと、高国は小さく息を吐いた。
「……俺、ここまでか?」
細川高国。
足利義晴を支え、長く幕府政治の中心に立った男。
一度は京を追われながらも再起を諦めず、浦上村宗とともに再び都を取り戻した。
しかし享禄四年六月八日。
高国は広徳寺で切腹し、その生涯を終えた。
享年四十八。
何度敗れても立ち上がり続けた細川高国の戦いは――
ここで、終わった。




