僕、有能じゃん?
享禄三年八月。
細川高国と浦上村宗が播磨から摂津へ進出し、神呪寺に陣を置いたという知らせが朽木谷へ届いた。
大舘は知らせを読み終えると、義晴へ目を向けた。
「上様、いかがいたしますか?」
「ふむ。晴元方との和睦はもう無理そう。高国さんは摂津・神呪寺で布陣中、上洛を目指している」
義晴は腕を組み、しばらく考え込んだ。
大舘は何も言わず、その答えを待つ。
「……」
「うーん、うん。大舘! 高国さんの動きに呼応する! すぐに定頼さんを呼んで!」
「承知しました」
◇
しばらくして。
六角定頼が義晴のもとを訪れた。
義晴は先ほどまでの軽い調子を引っ込め、定頼へ向き直る。
「定頼よ」
「はっ!」
「高国・浦上勢が西より摂津に進出した。晴元方との和睦も、もはや望めまい」
義晴は一呼吸置いた。
「我らもこれに呼応する。先勢を坂本へ進め、京の東より晴元方へ圧力を加えよ。高国・浦上勢とも連携を取り、上洛の機を逃すな」
「お任せください! この不肖、六角定頼。必ずや上様のご期待に沿えるよういたしまする!」
「頼んだぞ、定頼。西より高国、東より我らが動けば、晴元も一方だけを相手にはできぬ。戦況を見極め、機あらば京への道を開け!」
「はっ!」
義晴は続けて大舘を呼んだ。
「大舘!」
「はい。なんでございましょう」
「各地の戦況を逐一報告せよ。我らも機を見て朽木谷から出る。準備を怠るな」
「承知いたしました」
義晴方も、高国の動きに合わせて動き始めた。
◇
その後。
義晴のもとへ、再び報告が届いた。
「上様、三雲・蒲生勢が坂本に布陣いたしました」
「もう? ずいぶん早いね。晴元たちの動きは?」
「はい。晴元陣営もさすがに放ってはおけなかったようで、手勢を上洛させ、京の守りを固めているとのことです」
「向こうの戦力は?」
「目立つところでは、柳本と木沢ですな」
「柳本? 木沢? 柳本って賢治さんの代わり?」
「柳本甚次郎殿にございます。賢治殿のお子はまだ幼少ゆえ、名代として甚次郎殿が出陣しているのでしょう」
「ふーん。じゃあ木沢ってのは?」
大舘は少し考えた。
「木沢長政。最近、晴元殿の被官になったとも聞いておりますが……それ以外はほとんど分かりませぬ」
「ほとんど?」
「元は畠山義堯殿の被官とも、その後は高国殿に仕えたとも申します。それが今は晴元殿のもとにいるとか」
義晴は眉をひそめた。
「何それ。結局どこの人なの?」
「それが、いまいち分からぬのです」
「木沢かぁ。なんかやりにくそうな感じするね」
「戦が強いのかどうかも、まだ分かりませぬ」
「じゃあ、とりあえずこっちでそのよく分からない柳本・木沢勢を抑えてる間に、高国さんには頑張ってもらわないとね」
「ところで上様」
「ん、なに大舘?」
大舘は義晴の顔を見た。
「元に戻られたのですな」
「え、なにが?」
「あの高国殿に呼応すると決められた瞬間、将軍っぽく話されていたではありませぬか」
「あー、あれね」
義晴は肩の力を抜いた。
「常にあの感じだと疲れちゃうでしょ?」
「はあ」
「それに僕がめっちゃ優秀だとバレちゃったら、暗殺とか企てられそうじゃん?」
「そうですかな」
「絶対そうだよ! だからアイツは無能だから傀儡にしてやるって思わせておかないとさ。いろいろと面倒じゃん?」
「上様、それは有能な人がやることに意味があるのですぞ」
「えっ、僕、有能じゃん?」
大舘は答えなかった。
「……」
「もういいよ。それより高国さんの方はどうなってるの!」




