俺の番だ、どけぇー!
六月に柳本賢治が播磨の陣中で暗殺されたという知らせは、すぐに京へ伝わった。
京ではその話でもちきりとなり、街には落ち着かない空気が漂っていた。
「あ! おーい、ナウ兵衛!」
「お久しぶりです。カン十郎さん」
「おう! 久しぶり! って柳本賢治が暗殺されて街中、騒動になってたな。柳本ってそんなに人気だったのか?」
「そうですね。人気というか、京の政務に慣れていた人なんですよ。兵の取り締まりから税に寺社関係とかいろいろやっていたみたいですよ」
「なるほど! よくわからん!」
ナウ兵衛は少し考えた。
「んー、ものすごく雑にいうと京の現場責任者みたいな感じですよ」
「現場責任者か。じゃあいなくなったらヤバいじゃん!」
「はい。だから騒ぎになってるんでしょうね」
そこへ、ウバ之助がやってきた。
「おっす! また二人で難しい話してんな!」
「あっ、お疲れ様です。ウバ之助さん」
「お疲れー!」
「今度はなんの話してたんだ?」
「六月に柳本が暗殺されたじゃん? その話だよ」
「あー、なんか細川高国が差し向けた刺客にやられたってやつ?」
「えっ、そうなの? 高国ってあのハゲ?」
「ハゲ? あぁ、ハゲだわ。なんでも味方に紛れ込ませて、酒飲んで酔っ払ってるときにグサッだとよ。どんな恨み買ったらそんなことされんだよ」
カン十郎がナウ兵衛を見る。
「そうなのか、ナウ兵衛?」
「お酒に酔っているときにグサッっていう話は私も聞きましたけど、高国さんの送り込んだ刺客というのは、ちょっと分かりかねます。ここではそういう噂もあるくらいに留めておきましょう」
「まあ俺も聞いた話だから本当かどうかはわからないけどな。けど噂になるくらい高国には柳本を消す動機があったのか?」
「噂になるには十分な動機があったことは事実だと思います。義晴さんと細川晴元さんの和睦が進んでしまえば、晴元さんと対立している高国さんは自然と立場が悪くなりますから。再起を狙う高国さんからしたら今回の柳本さんの暗殺は都合の悪い出来事ではなかったでしょうね」
「柳本がいなくなったら、晴元と義晴さんの和睦の話はどうなったんだ?」
「和睦の話は消滅したと見ていいでしょう。先日、義晴さん方の交渉担当だった伊勢貞忠さんも京から離れたらしいですから」
ウバ之助が眉をひそめる。
「えっ? じゃあまた義晴さん帰ってこれないじゃん。俺はいつになったら義晴さんに届けられるんだよ」
「ウバ之助さん、またチップの心配ですか?」
「まーな! けど義晴さん。孤立してないか?」
「それがそうでもないみたいですよ」
「?」
二人の視線がナウ兵衛へ集まった。
「西に向かった彼がどうやら強力な援軍を引き連れて、上洛を目指しているみたいですから」
◇
かつて義晴とともに京を追われ、各地に援軍を求めて歩き回っていた細川高国は、西国でようやく強力な協力者を得ていた。
浦上村宗。
赤松氏の守護代でありながら、主家をしのぐほどの勢力を築いた実力者である。
当時、播磨では晴元方についた別所村治らと浦上方の争いが続いていた。柳本賢治も別所方を支援して出陣していたが、その陣中で暗殺される。
有力な援軍を失った別所方は劣勢に転じ、浦上勢は一気に攻勢を強めた。
「殿ー! 播磨の敵方、次々と崩れております!」
「おっしゃ! この調子でガンガン行くぞ!」
「はっ!」
浦上勢は東播磨へ攻め込み、別所氏の本拠である三木城を攻略した。
別所村治は敗走した。
さらに西では小寺勢も破られ、御着周辺で抵抗していた小寺政隆も戦死した。
高国は進軍を続ける浦上勢を眺めた。
「……マジでつえぇじゃねえか、浦上村宗」
「高国殿」
「おわぁっ! 浦上村宗か、脅かすんじゃねえよ」
「申し訳ございません。かなり東へ進む道は開けてまいりました」
「おう! このまま行くぞ!」
「摂津でございますか?」
「当たり前だろ! 次は摂津だ!」
勢いに乗った高国・浦上連合軍は、そのまま播磨を東へ進んだ。
享禄三年八月には、摂津・神呪寺に陣を置いた。
甲山の中腹からは、眼下に摂津の平野が広がっている。
高国は遠くを眺めながら、上機嫌に声を上げた。
「おー、見える見える! ここいいじゃねえか!」
「東には晴元方の城がございます」
高国は東を眺める。
伊丹、池田、富松。
晴元方は各地の城に兵を置き、高国たちの進撃に備えていた。
「晴元ぉ~、待っていやがれ! 浦上村宗、あれ全部潰して上洛するぞ!」
「すべて相手にするのは流石に、ですが上洛までの道は見えております」
「頼もしいじゃねえか! よし、さっそく作戦会議だ!」
高国は上機嫌に笑った。
「ここからは俺の番だぁー! ハッハッハー!」




